商売の再開(下)
ブドウを売ることを思いついてマルコとブドウを売れないかと話す。
「ブドウを売ることはできないかな。売ったらいくらになると思う?」
「村の中心で売れば形の整ったもので1房300ハルクくらいだろうね。これがクラープ町に行くと卸値で700ハルク、小売りなら1000ハルクくらいかな」
すらすらと数字が出る。
「大都市まで持って行ったらいくらだ」
「ここから一番近い大都市のクルーズン市まで持っていけば卸値で2000ハルク、小売りは3000ハルクもあるよ」
「すごいわね、クルーズン市まで持っていったら大儲けね」
シンディが横から口をはさむ。
「だけどそううまくはいかないよ。なぜこんなに高くなるかというと、すぐに悪くなってしまうからだ。輸送中に使えなくなるものが多い。
そうなったらジュースにするか捨て値で売るしかなくなる。村からクラープ町までは半日、さらにクラープ町からクルーズン市までは徒歩で3日かかる。
そんなにかけたらほとんどが悪くなってしまう。結局金持ちか貴族か贈答用に早馬で運ぶくらいしかない」
「そう、ブドウはすぐに悪くなるから産地以外では高いんだ。そこでだ、例のギフトを使えばいい」
「どういうこと?」
「まずクルーズン市のブドウを売れるところまで俺が馬車か何かで行く。それから教会にギフトで帰る。その間にマルコたちは集落までブドウを取りに行く。
ブドウを持って教会のホールからクルーズン市に戻る。これならブドウをとってから1時間くらいで売ることができる」
「たしかにそれなら確かにほとんど悪くならずに、しかも安く運ぶことができるな」
「そうだろ、いい考えだろ」
「いやまだ問題がある」
マルコは冷静だ。
「まず俺たちだけでクルーズン市まで行くのは難しい。どうしても2泊は必要になる」
子どもなので外泊が難しいのだ。
「それは必要ないんだな。これもギフトを使えば片付く。まず馬車で行けるところまで行く。
夕方過ぎたら人目につかないところでギフトで家に帰る。家で一晩休んで元の場所に戻り、またクルーズン市に向かう。
その日もつかなければまた同じことを繰り返せばいい。遠出はしないといけないが宿泊はしなくても大丈夫だ」
「なるほど、ギフトすごいなあ。ただまだ問題があるよ」
「どんな問題?」
「クルーズン市でブドウを売る相手だ。あそこに行ったことあるか?」
「いやない」
「あたしもない」
フェリスもシンディも2人とも行ったことがない。東京には住んでいたけれども今は関係ない。
「この村なら大丈夫だが、クルーズン市だと果物をもっていってすぐに並べて売れるわけじゃない。そんなことしたら騎士団かやくざ者かがとんでくるぞ」
考えたらその通りだ。都内でとつぜん露店など開いたら警察かやくざがすぐに来そうだ。
「そうするとどこかの商会におろすしかないが、見知らぬ人間が飛び込みで行って引き取ってくれるとは思えない。買ってくれる相手を探すうちにみるみる悪くなってしまう」
「そうかあ。いいアイディアだと思ったけど、うまくいかないか」
「いやそうでもない。飛び込みで行くからダメなんであって、事前に話をつけておけばいい」
「そんな方法あるの?」
「うちは商店だからな。親父か本家に頼めば、クルーズン市の商会の伝手くらいはあるって」
「それじゃ、そちらは頼む。こちらはロレンスに言っておくから」
3人での相談を終えて教会に帰る。早速ロレンスにブドウ売りについて話す。
「そんな遠くまで行って大変ではないですか?」
「それは教会の一大事ですから」
「まったく私は子どもに心配をかけてしまって」
「こういうときにギフトを使うのが神のご意思に従うことでしょう?」
俺は心にもないことをいいながら、横でクロをなでる神をジト目で見る。
「私も行きましょうか?」
「ああ、大丈夫です。夜は戻って来れますし、何かあってもギフトで逃げればいいだけですから」
「わかりました。どうかよろしくお願いします」
翌日にマルコに会う。
「親父が昔、クラープ町にいたころ外に修行に行っていたことがあり、その時の知り合いに手紙を書いてくれるそうだ」
「ありがとう、マルコ。それなら手紙の到着を待てばいいね」
「10日ほどは見ておいた方がいいな」
郵便制度が整っているわけではないので、飛脚を使うのでなければ何かのついでに頼むことになる。
そうはいってもよく手紙を使う商人は都市に手紙を送るもう少し便利なシステムがあるようだ。
教会は教会で別の手紙のやり取りの方法があるが、商人相手には使いにくい。
それから10日もたたず、一度ブドウを見てみたいとの手紙がマルコの元に届いた。
マルコは手紙を2人に見せ、さらに各集落でブドウが取れることを確認してから、実際の商売に乗り出すことになった。




