ミルトンが入る
肉屋から職人のミルトンを迎えて肉の加工をうちですることになった。いままで肉の卸しに加工してもらってから仕入れて販売していたが、今度は市場から仕入れて加工して販売する。
ただ彼1人ではとても足りないため卸からの仕入れは減らすけれども続ける。
そのうちミルトンに行進を育ててもらい、規模を拡大するかもしれないが、しばらくは今までどおりが続きそうだ。
ただ急に卸からの商品が届かずに販売できないということは緩和されそうだ。
ミルトンはもともと専門の肉屋で加工していただけあって、流れるように作業する。
「な、うまいだろ?」
ミルトンを引っ張ってきたリアナが自分のことのように自慢する。確かにうまい。
出来上がりなどももちろん売り物のような出来だ。ただリアナのもそれほど悪くなかったような気がする。
「リアナの仕事も悪くなかったと思うけど」
「素人目にはそうだよな。だけどやってみるから比べて見てくれ」
そう言うとリアナは肉を切り出す。出来上がりを見るがわりと似通っている。
「割と似ていると思うけれど」
「よーく見ると違うんだ。ミルトンのはここがピンと立っているだろ。無理せずに筋の方向を見ながら切っているからできるんだ。だけどそれを見極めるのも難しい。あたしのだとちょっとつぶれている」
「食べて何か違いがあるの?」
「じゃあ、焼いてみるか?」
焼いて食べてみたけれど、あまり違いが判らない。
「そんなに違うか?」
「明らかに違うだろ?」
まあ俺は素人だし、リアナは専門家だ。
ただリアナがどちらが切った肉か知っていて彼女が焼いて食べて違いがあるというのはテストにはなっていない。
「だけどリアナはどちらが誰が切った肉か知っているからなあ」
そこでさほど形は違わず、焼くとますます同じになるので、俺が焼いてみて、比べてもらう。
ところがそれでもやはりリアナは違うと言って、一方の肉の方がうまいという。確かにそれはミルトンの切った方だ。
この間、ミルトンはほとんど話さない。やはり朴訥で経営者向きではないのだろう。俺の方からミルトンにも聞いてみる。
「どちらの方がおいしいですか?」
「ええ、こちらの方がおいしいですね」
やはりミルトンの切った方だった。何か俺だけ味がわからないようで悔しい。でもたぶん正しいのだろう。
リアナだってナイフなどはきちんと研ぎあげてある。だから刃物の差と言うこともないのだろう。
それは20年も修行してきた者と数週間の者では違いがあるのもわからないではない。
ともかく肉の加工はミルトンに任せられることになった。
リアナは元の職場に戻った。だがいろいろこぼしている。
「職場戻ったらね、セストが回しているんだよね。部下たちもあたしがしていたときよりやりやすそうで、いやになっちゃう」
リアナは思い付きで仕事を進めていたから、マニュアル化されてルーティンになっている方が部下はやりやすいだろう。
ただやはり新しいものを作るのはまだセストたちには難しいように思う。
今後ずっと同じことを続けていくなら今のやり方を続ければいいが、何か新しいものを作るならリアナがひっかきまわすのもよさそうだ。
「またリアナには新しいメニューを考えてもらったりするから、そっちで頑張ってよ」
通り一遍のことを言ってなぐさめているようだが、実は考えがある。そのうち作ってもらいたいものがあるのだ。
ともかくミルトンに来てもらい、市場から塊肉を仕入れて加工して売れることになった。
せっかくなのでその下にも徒弟をおいて仕事の手伝いをしてもらい、さらに今後規模が大きくなった時にも対応できるようにした。
そうして加工した肉を店や行商で売る。いままでも卸から仕入れたものを売っていたので、売り物としてはさほど変わらないのだが、やはり気分が違う。
店の方ですぐに評判がいいとかそう言うこともないのだが、俺やリアナやミルトンが気にしているので、店員も客に「うちで加工をしていまして」などと紹介している。
ついでに言うと前は細かい注文は受けられなかった。客から要望があってもそれを問屋に伝えて加工してもらうとなると数日かかるし、あまりにも面倒だった。
だがうちで加工するようになってからは翌日には届けられる。店でも「注文承ります」の貼り紙をしている。
さらには品切れも少なくなった。以前はだいたい入荷しないこともあったのだ。
さすがに市場で足りなかったりバカ高いときは入荷しないが、そんなことはめったにない。
だが問屋から買っていたときはそう言うこともあった。
リアナの方は調理するときにミルトンにいろいろ肉の注文をしているようだ。
もちろん元から塊肉を自分で切り分けていたのだが、肉の切り方などいろいろ聞いている。
それは専門職人には敵わないようなところもあるのだろう。
とりあえず何かよさそうな方向だ。また考えていることを進めたいと思う。




