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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
4章 13歳~ 領主との争いとクルーズン事業の伸長
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リアナの決断と新人採用

 うちでも肉の加工をしようかと思い、リアナが数か月の修行に出た。ところが引継ぎが十分でなかったため、部下のセストたちは右往左往だった。


そちらの問題はリアナを呼び戻したり俺が介入して何とか片付けることができた。後はリアナが返ってくるのを待つだけだ。



 週に一度はリアナは帰ってくるので、状況を聞いてみる。


初めのころはあれができるようになったとかだんだん様子がわかってきたとかポジティブな発言が多かった。


ところが2か月くらいたってくるとだんだんそうでもなくなってくる。


「やってもやってもわからないんだ」

「うーん。なかなかキツい?」

「なんていうか、やってもやっても答えが出ない感じなんだ」


何か練習していても先が見通せないことはよくある。ただそこで道が開けることもあれば、結局徒労に終わることもありうる。


努力すれば上手く行くのは漫画の中だけだ。だからずっと続けさせるのがいいかどうかはわからない。


「どうする? 続ける?」


リアナは悩んでいるようだが、苦しそうにつぶやく。


「何年でもかけて、上達するわ」


道具を買ったりスペースを作ったり、小さくだが事業を起こしたりしたので、引っ込みがつかないのかもしれない。


すでに投入してしまった労力を無駄にしたくないとサンクコストに捉われて合理的な計算ができてないと思う。


「あのさ、それ本当にしたいことなの?」




 何か混乱していくべき道を見失ってしまっている気がする。


リアナはいままで調理で成果を出してきた。その近隣分野ではあるが、いまは専門職人がいる肉の加工をしている。


リアナが努力すればその分野でそれなりの領域に達せられるかもしれない。だがそれだけだ。


専門職人に任せて、リアナはふつうの調理に戻った方がもっと成果を出せると思う。


それでもリアナがしたいならすればいいが、本当にしたいのかどうも怪しいように思う。

 

「わからないわ」


正直言うとあきらめてほしいが、ここですぐにやめろというのも、本人が決めたことにならないとは思う。


「もう少し続けるのはいいと思うけれど、よく考えてね。こんご料理をしたいのか、肉の加工をしたいのか」

「そうね」


そんなことを言って別れた。




 また一週間後にあったときにリアナとの話になった。


「どう? 調子は?」

「あれから考えたけれど、やはり加工の修行は終えて元の仕事に戻るわ」


けっきょくリアナの結論としては数年修業しないと満足な仕込みはできないということだった。


「まあ、それでいいんじゃないか?」

「でもうちで加工をするのはできなくなっちゃうんじゃない?」


それを気にしていたのか。まあ気にするよな。


「リアナがしなくても誰か加工のできる人を採ればいいだけの話じゃない?」

「確かにそうね」

「誰か心当たりはいそう?」

「修行先に聞いてみるわ」




 そこで翌週になって修行先の肉屋から40代くらいの職人を連れてきた。


「こちら修行先でお世話になっているミルトンよ」

「よろしくお願いします」

「彼をうちで採れない?」

「だけど引き抜いちゃったらお店の方は困らないの?」

「向こうはいいと言っているわ」

「実はそろそろ独立する年齢でして、お店の方もいいと言っています」

「わかりました。前向きに検討しておきます」


役人の答弁みたいな言葉を使ってしまった。ただ事情が分からないと不安だ。


後で肉屋から取られたと恨み言を言われても困るし、逆に追い出したいような人だと困る。そこで肉屋の方にも聞いてみる。


「そちらの職人さんがうちに来る話が持ち上がっていますが、よろしいのですか?」

「ああ、ミルトンのことか。そろそろのれん分けさせてやりたいがちょっと向かなくてな。技量はちゃんとあるし、まじめに仕事する性質だから、その点は大丈夫だ」


リアナの修行先は少し大きい肉屋で毎年必ず新入りを取るようにしているとのことだ。


それでサイクルを作っているという。それでもちろん上の方のポストは限られているので年齢が高い層は人余りになってしまう。そういう人たちはのれん分けするとか、他の店に出したりしているらしい。


ミルトンは職人としては技量はきちんとあるというが、どうにも経営には向かないらしい。


経営となると現場仕事以外にしないといけないことが多すぎる。お金の管理とか店の運営とか近所や同業者との付き合いとか実は面倒だ。誰にでもできるというわけではない。


そんなわけでうちに行くことは店の方でも歓迎するということだった。


けっきょく彼を採用することにした。


「それではうちの加工部門をよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

「けっきょくあたしの方は無駄だったな」


それは違うだろう。加工の難しさを知っただけでも価値はある。彼女の本来の仕事に密接に関連する仕事だ。


それについて薄っぺらな知識だけでなく感覚として奥が深いことが分かったことだけでも、今後は元の仕事をするのに十分に役に立つ。


しかも肉屋の方に知り合いがたくさんできたことも今後の仕入れなどでいろいろスムーズに行くことも多いだろう。


「それは絶対に違う」



 そういえば前世でも若い人は役に立つものを身に着けたがっていたが、実は何が役に立つかそんなにわかる物でもない。


いや年配者でも役に立つものを教えろと言っていたな。思わぬものが役に立つことはあるし、役に立つと思っていたものがそうでもないことも多い。


それにすぐに役に立つものがすぐに役に立たなくなるのも真理だ。だいたいそういうものはみんな飛びつくからすぐに陳腐化するし、また新しいものにとってかわられる。


それに役に立つものと言うのは特定の状況に過度に対応していることが多い。だから状況が変わると途端に役に立たなくなる。


別に役に立たないものをしろと言うのではなくて、そんなに簡単に役に立つか立たないか見分けられると思わないでほしいということだ。


「まあ、なにかいいこともあるかもな」


リアナは肉の加工に知識と感覚を得て、こんご調理部門の統括をしていけそうだ。ミルトンを採ってうちで加工ができるようになった。

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