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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
4章 13歳~ 領主との争いとクルーズン事業の伸長
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コピー本業者を訴える

 クルーズン市の観光ガイドを作り、好評を得ることができた。ただコピー本を作られて売られてしまった。


こちらは編集にそれなりに金をかけているのに向こうは完全にただ乗りだ。これでは本を作れなくなってしまう。


出版者のギルドで聞いてみたが、有効な対策はないようだ。




 コピー本を売っていた業者に問い詰めてみたが、出版者は知らないとかコピー本はよくないがこれがコピーかどうかわからないと居直られてしまった。


 そこで以前にお世話になったカルター代言人に相談することにした。


「実はこういう観光ガイドを作ったのですが、コピー本が作られて困っています」


後刷りで少しにじんだ冊子とコピー本を渡して説明する。


「話題になっていましたね。確かに話題の本はすぐにコピーが作られます」

「何とかできないでしょうか?」


「これがなかなか難しいのです。相手を訴えることはできます。相手がコピーであることを証明するのも難しくありません。ただ代言人の私の費用や労力を考えると必ずしもお勧めできるわけではありません」


訴えればカルターの仕事になるが、彼はうちの損得を考えて言ってくれている。




 観光ガイドは評判でものすごい売れ行きに見えるが、実はたいして儲かっていないのだ。


1冊600ハルクで経費は販売まで含めると6割以上かかっている。1部200ハルクの儲けとして、500部でも10万にしかならない。


まだまだ売るつもりだが、その10倍でも100万でしかない。もともと観光客向けの店を競合より有利にするために作ったもので、本の販売自体ではそれほど儲けは考えていない。


懲罰的損害賠償で実際の被害の何倍何十倍もの賠償でもあれば別だが、被害を補償するだけしか勝ち取れないとなると元は取れそうにない。




 ただ思うのは、あれだけなめられて悔しい。悔しいだけで動いては経営者として困りものだが、そもそも著者としての尊厳が侵されている。


それを損得勘定だけで放置するのもいいことだとは思わない。それから損得勘定の方も実はまるで損ではないと思うのだ。


訴えたら、うちは多少の損をするが、相手は大損をする。うちが必ず訴えるということが分かれば、今後はうちについてはコピーを作らなくなるだろう。


「カルターさんがうちの損得を考えてくれることはわかりました。ただ訴えようかと思います」


「はあ、それはなぜでしょうか」


「まず尊厳の問題です。私がアイディアを出し、編集担当者に執筆させています。これらの努力をタダで奪われるなど到底容認できません」


「おっしゃることはごもっともです。訴訟は損得だけでするべきものではありません。ただ商会主となると損得も考える必要があるかと存じますが」


「ええ、実は得もあると思っているのです」


「それはどんなことですか?」


「出版は今後も続けるつもりです。うちはコピーを出したら損をしてでも訴えてくるとわかれば、コピー業者は2度とコピーを作ろうとは思わなくなるでしょう。目先だけ考えれば損ですが、長い目で見れば得になります」


「なるほど。そこまでお考えでしたか。それでしたら私もご依頼を引き受けたいと存じます」





 その後は事実関係を固める必要がある。コピー本の出版元のヤクザ者と販売元は調べてあったのでカルターに伝える。


ただ彼も調査となると護衛が必要だった。そちらの費用も掛かってしまう。


裁判で証言させる必要があるので関わった人間の名前と住所くらいは押さえておく必要がある。




 ヤクザ者が絡んでいるだけに途中で嫌がらせ儲けた。


「明るい月夜だけじゃないぞ」

などと言う、あまりにもべたなセリフも聞かせてくれた。


だが俺はいつもシンディと一緒に通勤している。


シンディはクルーズンでも相変わらず道場に通い詰めで、もうすでに師範や師範代しか相手にならないらしい。


ある夜のことだ。

「あっちに行こう」

シンディが手を引いて道を変えるように促した。


俺は全然気づかなかったが、シンディの方は不穏な空気を感じたらしい。


俺たちが人のいる方へ歩いて行ったので向こうも上手く行きそうにないとわかったのか逃げていったようだ。


従業員が脅されると面倒だが、その時は絶対に全力をかけて潰してやる。




 訴状も書いて、実際に訴えを起こした。相手はコピー本の出版元と販売元だ。俺に憎まれ口をたたいたのは販売元だった。


要求は金銭賠償と版を引き渡すことだ。まだ印刷業がそこまで高度に専門化していないようで、印刷業者には頼まず、職人を抱え込んでいるようだった。




 実際に訴えるとあの不愉快な販売元が接触してくる。ただ代言人の知らないところでやり取りすると、後で迷惑がかかる恐れがある。そこで代言人に言ってくれと言う。


「カルター代言人が代理人ですのでそちらに行ってください」

「まったく子どもだな。自分のこともろくにできないのか」


安い挑発だ。代言人相手だと面倒なのでこちらに来たのだろう。


「代理人を指定していますので、そちらとお話しください」


こういうことは形式的に進めるに限る。形式と言うのは多くの人が思っているより重要なのだ。


しつこく絡んでくるが、こちらが同じことを返すのであきらめたようだ。




 すると今度は販売元の関係者の商人とかいう者が取引先の名前を出して知り合いだとかで近づいてきた。


これも代言人に投げてもいいが、何か約束しない限りは大丈夫だろうと話してみる。


「あんたも物好きだね。こんな裁判してもちっとも儲からないのに」

「ええ、すでにほとんどの支出はしてしまったので、後は最後までしてしまって賠償をいただいた方が得です」

「まあお互いの得になるように話をしようじゃないか」

「こちらの要求をすべて飲んでくれたらいつでもやめますよ」


また少し向こうが言質をとろうとして危なくなってきたので、代理人のところに行けと言って帰ってもらった。


こんなくだらない問答の相手はやめて仕事をしていた方がいい。いやもっといいのは猫なでなのだが。


ともかく後で不利にならないためにも、こんなことに時間を割かないためにも、代言人にどんどん投げることにする。代言人は裁判だけでなくそのためにもいるのだ。


これだけ面倒だと他の出版元が裁判をしたがらない気持ちもわからないではなくなってくる。

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