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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
4章 13歳~ 領主との争いとクルーズン事業の伸長
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クルーズンの事情に疎くなっている

 クルーズン市の行商は急拡大中だ。アランがあちこちの広場に顔を出して、出店の合意を取っている。


それ以外にも店舗を構えることもある。うちは教育研修体制が他より優れているのでわりと早く店員は育つがそれでも足りないくらいだ。


クラープ町の方は大半が住宅地だった。ところがクルーズン市の方は大都市だけあって、場所ごとに街の様相が変わる。それに合わせた商売を展開しないといけないようだ。



 飲食もリアナが新しくとった店員たちに指示している。セストだけは3か月とはいえ店で修行しているが、後は素人ばかりだ。


軽食でそれほど凝った料理ではないので、仕込みさえしておけばそれほど技術が必要なわけでもない。


そうは言っても素人が調理するとなると、仕込み段階では誰でも作れるように準備しないといけないようだ。


けっこうそれで苦労しているようだ。そろそろエミリの方はクラープ町の仕事も落ち着いてきたので、クルーズンに来てもらうことになりそうだ。



 ジラルドにはクルーズンに来てもらうはずだったが、まだまだ向こうは仕事が山積みだ。


マルクからもしばらくいて欲しいと言われている。


いま見えている仕事だけでも彼が必要だが、それ以外でもまだもう一波乱ありそうだから、ジラルドにはもうしばらくいてもらうのもいいのかもしれない。




 そんな状態の中で俺は久々にクルーズンの仕事をしている。いやこれまでも会議などには出ていたのだ。


ただ前線で仕事をしているわけでもないし、クラープ町のことで頭がいっぱいなので、何か疎くなっている気がする。


幹部たちが話していることが、ある程度はわかるのだが、ところどころわからなくなるのだ。


「検討中のあそこだけど、観光地仕様でいい?」

「基本的にはそれでいいけれど、あそこは年齢層が高いから少し修正した方がいいかもな」


確かに町の様相が違うのでそれに合わせた商売をすることは話し合われていたし、実際にそうしていた。


ただもうそれで何店も出しているので、観光地仕様のフォーマットがあるらしいのだ。


「観光地仕様って、何かそういうフォーマットがあるの?」

「ええ、店員の研修や商品の種類などだいたい決まっています。それようのマニュアルも作成しつつあります」


説明を受けて会議が進むが、またわからなくなる。


「例のコンサルおじさん、進展あった?」

「いやなかなか難しくてな。少し時間がかかりそうで、かなり面倒だ」

「面倒な人って誰かいるの?」

「ええ、なんか毎回毎回店に来て店をああした方がいいこうした方がいいとコンサルする人がいて、行商人が困っているんです」


それは悩ましい。それはともかくとして、俺自身がこの会議の中でいろいろわからなくなってしまっている。だからしょっちゅう止めるのだ。



 経営者は現場仕事する立場ではないから仕方ないと言えば仕方ないのだが、話がすぐに分からないのはなんとなく悲しい。


だいたい俺はよそから呼ばれた経営者ではなく、元は現場にいたわけだ。それが今ではすっかり疎くなっている。


しばらく他の地域に行っていたので疎くなるのは仕方ないのだが、そうはいっても話が通じなくなるのは何ともさみしい。


若い子たちはこうやってどんどん新しい物事を追求していくんだろうなと思う。いいもん、いいもん、どうせオジサンだもん。その言い方自体がオジサンぽいのだが。




 会議ではいちおう議事録も作らせているが、議事録はやはり会議の息遣いまでは感じられない。


録音しているわけでもなく、無駄な雑談などは当然省かれている。


無駄と言ったが、本当にまったく意味がないわけではないのだ。


だが、そんなことまで書いていると冗長になりすぎる。そうなると後から見返すこともできなくなる。まとめて重要なことだけ書くのは意義のあることなのだ。


録音があったとしてもそれを倍速で聞いたとしても時間が足りなくなるだろう。



「ちょっと疎くなってしまっているので、経緯とか注意とかそれに用語なんかを書いておいてくれるとありがたいんだけど」



 書いておくことはいろいろといいことがある。


まず経緯はすぐに忘れる。いまは夢中になっていて当たり前のことでもその仕事を離れると半年ですっかり忘れてしまう。


そういう時に過去に何をして何を考えていたか参照できると道を誤りにくくなる。




 それから実は何人もの人間で仕事していたとしてもみんなが仕事の内容を記憶して精通しているわけではない。


あやふやでなんとかやっとのことで仕事ができている人もけっこういるのだ。


そういう場合に合意した文書があれば見直すことができる。何度も人に聞くのも暇で暇で仕方ない時ならいいが、そうでないときは頼みにくくなる。




 それに引継ぎの問題がある。新入りは当然のことながら過去のことは何も知らない。それは少しずつ覚えていくのだが、あくまで少しずつだ。


ところが将来までの相当長い期間その仕事をするつもりだった人が、突然いなくなるということは意外にあるものだ。すると経緯を知らない人が突然担当者になってしまう。


だから平時から早めの引き継ぎのことは考えておいた方がいい。


そんなわけで背景を記した文書を頼んだのだ。


「仕方ないな」

「まあ店主はクラープ町にかかりきりでしたから」

「でもこっちの会議にも出ていたわよね」


それはフルタイムでそのことばかり考えていられる人と言うのはやはりずっと有利なのだ。


しかも向こうは心配事ばかりだった。心配事と言うのは他のことがどんどん上の空になる。


「もちろん会議には出ていたし、まじめに聞いていたつもりだよ。だけどあっちは心配事だらけだったんだ。細かいことまでは無理だよ」

「それはそうですね。わたしも心配事があったころの記憶は何かあやふやなところがありますよ」

「たぶん俺にとって以外にもいろいろいいことがあるから頼むよ」



 上役がその手のことを言うのもなんだか無理を通しているようだが、いちおう本当に他の人にもいいことがあると思っている。


それに一部の人間にだけ通じる言葉で次々に決定するのもいかがなものかとも思う。


株主にも説明しないといけないし、部下たちにも説明しないといけない。だから会議に出席していた経営者でもわかりにくい状態はよくないのだ。



 そんなわけでいまは幹部たちが進めてきた仕事の振り返りの文書を作ってもらっている。


あ、こういう文書を作る時もジラルドがいるといろいろよかったんだ。


さすがに向こうの仕事がたくさんあってしかも疲れる仕事で連れてくるのはさすがに気の毒だし、彼の方が俺よりもっとクルーズンの事情には疎いはずだ。


カミロあたりが暴走しなきゃいいけど、マルコもいるので大丈夫な気もする。


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