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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
4章 13歳~ 領主との争いとクルーズン事業の伸長
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(パラダ)番頭のその後

ひさびさに番頭バンディの登場です。

 私はパラダ商会の元番頭バンディ。シルヴェスタから引き受けた行商を統括していた。もう行商どころかお店も終わってしまった。


パラダはシルヴェスタに最後に討論に挑んで完膚なきまでに叩きのめされてしまった。もはや商人としての格が違うことが公然となる。




 本来なら私はそれなりの出資をしてもらい、のれん分けしてもらえるはずだった。もちろんそんなものは一銭ももらえなくなる。


さらにまずいことに、余剰のお金を商会に預けていた。それも1500万ほどあった。


預けた金がどうなっているのか、つぶれる前にパラダに聞いてみたが、「お店がつぶれるというのに自分の金の心配か? そんなもの戻ってくるはずないだろ!」とけんもほろろだった。


もうあんな男、主人でも何でもない。いやもう奴隷に落ちたわけだが。




 私が手代や徒弟に呼び掛けて集めた商会への預金は1割も返ってこなかった。パラダ相手では私もいちおう債権者だったのだ。倒産したからにはパラダより立場は上だ。


預金をよびかけたことについて手代や徒弟から恨まれ責められる。でもお前たちはせいぜい数百万か数十万だろう。こちらは1500万だ。返ってくるのは120万ほどか。


お店を見限って預金をさっさと下ろしてしまった者たちもいた。その者たちは預金の話になるとそそくさといなくなってしまう。倒産は元店員も分断してしまった。


商会が傾いた後に預金を呼び掛けたのは、突進してくる馬車を手で止めようとするようなものだったと今になって思う。




 私も債権者だったので、債権者の会議には出席した。


その席でパラダ本家がパラダとクレムを奴隷として売り払おうと言いだしたのには驚いたが、賛成した。


いや私だけでなく、預金をしていた者はみな賛成していたと思う。倒産前は担いでいても金の切れ目が縁の切れ目だ。


ただあの連中を売っても大した足しになるわけでもない。それでも賛成したのは、みなそれだけ恨んでいたのだろう。


ところでもっと驚いたのはシルヴェスタが反対したことだった。あれはあれでまた何か深い考えがあるのかもしれない。





 私は経営者ではなかったため奴隷落ちはまぬかれたとはいえ、再就職をしなければならない。


あの1500万があれば中年にもなって新たに職探しなどしなくてもよかった。


商業ギルドの求人などを見て、応募し面接に行く。


「何ができますか?」

「番頭ができます」

「番頭というのは具体的に何ができるのですか?」


そこで言いよどんでしまう。何か空気が重い。そして結果は郵便で届けますからと言われ待つ。


結果はシルヴェスタが復活させた郵便で届く。届いてほしくないものが確実に届くのだ。


中には紙切れ1枚、「ますますのご活躍をお祈りします」と書いてある。




 いやそれならまだいい方だ。中には私の顔見るなり、吐き捨てる者もいる。


「悪いが、お前さんのところを辞めてきた徒弟がうちにいてね。彼らはお前さんと一緒に働くことはできないだろう。お引き取りいただきたい」



 この町はシルヴェスタの息のかかった商会か、友好的な商会ばかりになってしまった。彼と対立する商会は軒並み没落している。


もうこの町で就職する余地もない。領都に行くしかあるまい。ところが妻も子もついて来ない。


「あなたのせいでどれだけ恥をかいたかわかりますか?」

「ずいぶんと店員たちにひどい扱いをしたようだな? こちらにもチクチクと非難が来るぞ」

「若い者に厳しくするのは当然だ!」

「あんたのは厳しいんじゃなくて理不尽なんだ。シルヴェスタ商会だって求めることは多いが、みんな納得している。それにペイもいい」

「とにかくあなたと一緒にいると、近所の皆さんからの目が怖いの。領都だって彼らの親戚が多数いるわ。もうあなたとは別に新しい生活を始めたいの」




 今まで稼いで食わせてきたつもりなのに、もうお払い箱だそうだ。


財産分与ということで、家も処分してわずかに残った財産も半分は取られてしまった。


数百万の金はあるが、住むところもない。50過ぎた私に何をしろというのだ。




 それでも奴隷に落ちたパラダやクレムよりはましか。奴隷とて能力のあるものは、知的な職業に就くこともある。


だがあの2人には到底無理だろう。もっともクレムはゴマすりだけは一流だから、もしかしたら新しい主人に取り立てられるかもしれない。


あんなものを取り立てるのは不幸なことだが。そうは言っても私もひどい目に遭ってようやくわかったのだ。


パラダの方は主人相手に反抗的な態度を取って、鞭で打たれる姿が目にうかぶ。





 パラダ自身は後から奴隷として叩き売ることを強く主張したのが本家だったと聞き、改めて震え上がったとのことだ。


そして奴隷落ちに反対したのは奴隷などという制度は使うべきでないと主張したシルヴェスタ1人だったと聞かされて、泣き崩れたそうだ。


まったく商人としての格が違いすぎた。




 私はもうこの町にはいられない。領都に行っても元妻の言うように人の目が冷たいだろう。だいたい領都もこの町と同じで仕事も少なくペイも少ない。


クルーズンに行くほかないのだろうか。


そういえばパラダ商会の末期の出張では1泊1000ハルクの宿に泊まった。あんなところを寝床にして日雇い仕事でもするのだろうか。


あのとき見かけた景気の悪い中年は私の未来の姿だったのかもしれない。




 それとも残ったこの数百万の金で事業でも起こそうか。シルヴェスタが数年前に事業を起こしたときは100万余りから始めたらしい。


いや、あれは我々よりはるかに有能だった。しかも助けてくれる仲間もいた。悪評もなくゼロからのスタートだった。


マイナスからのスタートの私が同じことをして上手く行くはずもなかろう。だいたい行商などシルヴェスタ以外の商会はたいして儲からなかったのだ。



 肉体労働をして手堅く稼ぐしかあるまい。だがこんな中年を雇ってくれる店はあるのだろうか。

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