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ギフトを打ち明ける(下)

 ロレンスはそれぞれの魔法についての説明を始める。


「忘却魔法はその名の通り忘れさせる魔法です。記憶の膜がないと少し危険ですが、今回は先ほどの予備があるのでほとんど危険はありません。

秘密保持魔法は、秘密にかかわるキーワードについてそれらが複数想起される状態で許可された対象以外にもらそうとすると、何らかの魔法が発動するようにします。例えば不快感が起こるとか話している相手を攻撃するなどがあります」


魔法というのも火が出るとか水が出るものと思っていたが、いろいろ奥が深いらしい。



「かつては重大な秘密について被術者に死をもたらすような魔法も使われていたらしいですが、もちろん今はそんなものは許されません。

最近は秘密を洩らそうとすると不快感が起こって警告し、さらに続けると忘却してしまうようにするのが主流です」


説明が長いが、彼らの子の安全にかかわることなのでロレンスは続ける。


「秘密保持魔法の解除は、契約当事者の同意がないとかなり難しくなります。当事者の知らないところで他の魔術師が解除しようとしても記憶をなくしたり精神に悪影響が及んだりします」


さらにこの後のことについて話す。


「子どもたちには明日、どちらにするか選んでもらいます。同意書にサインしてください。ギフトの秘密は外に漏らすと大変なことになります」


この辺はマルクの方が詳しいようで、レナルドに秘密を洩らした場合の訴訟沙汰や洩らされた者による報復について説明していた。


2人も納得したようで、同意書にサインをする。マルクは書き慣れているようだ。レナルドはあまり得意でないようだが、署名くらいはできる。



「村人には2人は森の谷ではないところでけがをして歩けなかったことにしましょう。それであなた方にもどちらかの魔法にかかってもらう必要があります」


ギフトを持っていることを知られるだけでも危険なため、レナルドとマルクにも秘密の保持をしてもらう必要がある。


レナルドもマルクも顔を見合わせて悩んでいる。2人で少し相談する。その上で結局は先のことを考えるのに知っておくのも必要だと秘密保持魔法を選んだ。


ロレンスがそれぞれに施術して、長い一日が終わった。俺はクロのところに戻り、なでているうちに眠ってしまった。





 翌朝起きて、ロレンスのところに行く。シンディとマルコのことだ。よほど疲れたのかまだ2人は寝ている。


「まだ寝ていますね」

「実はきのう睡眠魔法を使いました。その方が回復にもいいので」


ロレンスはずいぶんいろいろと細やかに魔法を使っている。そこであることを考えた。


「睡眠魔法を使ってから、ホールで運ぶことはできなかったのですか?」

「ああそれは、途中で目を覚ましたりしてしまうこともありますし、睡眠中のことを記憶していたりすることもあります。ですからあまり安全とは言えませんね。しかも谷にいたはずなのに教会に戻っていることに説明がつきません」


魔法というとなんでもできそうなイメージがあるが、実は技術レベルでいろいろ難しいことがあるのに気づく。日本で仕事していた時もそういうことがあった。


「それでは2人を起こして朝食にしましょう」


2人を起こすとはじめは目をこすり、さらに当惑した様子だった。4人で朝食をとってから、ギフトの話になる。




 ロレンスは2人に同意書を見せつつ、昨日親たちにした説明を繰り返す。その上で問う。


「それで忘却か秘密保持か、どちらにしますか?」


2人は明らかに当惑している。子どもがそんな判断を迫られてもすぐには下せないだろう。


もちろん重大な事件を起こしてしまったせいだし、その割には本人たちにさほど不利益があるわけではない。


なかなか選択できずに時間が過ぎる。ここで俺が口をさしはさむ。


「2人とはこれからも一緒にやっていきたいんだ。ギフトを使うこともあると思う。2人には知っておいてほしい」


ほとんどこれが決定打となって、2人は秘密保持を選ぶ。ロレンスも納得したようで、魔法をそれぞれにかけ始める。


フェリス・ホール・ギフト・クロ・移動などをキーワードにして、秘密保持魔法をかける。




 場が重いのかシンディはちょっと変わったことを言いだした。


「あのクロという変わった犬、ずいぶん大事なものなのね」


この世界には猫がなく、俺以外には犬に見えている。俺が言いよどんでいると、ロレンスがいう。


「あの子は何か不思議なところがあります。ちょっと不細工ですが、妙に神々しい」


あ、ロレンスもちょいブサと思っていたのか。まあそうなんだが。神々しいのは神が付きまとっているせいだが、ロレンスも気づいていたのか。


「今後はシンディとマルコの前ではギフトを使っても構いません。ただ相変わらず見つかると危険なものなのでできるだけ使わないように。どうしても使うときは人がいないかよく注意してください」


秘密を知る人が増えた。そして活動の幅が広がるのだろうと思う。




 シンディとマルコは案の定、家に帰ってひどくどやされたらしい。命にかかわることが起こったら困るだろうし、二度とさせないのは親心だろう。2人には言わないが、泣きそうなほど取り乱していたのだ。


「しかしフェリスはどうやってそんなにたくさんのカブトムシを取れたのでしょうねえ?」


ロレンスから聞かれてひやひやしていた。実はこっそりギフトを使ったわけだが証拠もないので、たまたまだとごまかした。

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