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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
4章 13歳~ 領主との争いとクルーズン事業の伸長
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(家宰)シルヴェスタに営業を頼む

 私は子爵領の家宰のイグナシオ。ふだんは領都ゼーランで領の政務を扱っているが、いまはパラダ商会らが無茶苦茶にしてしまったクラープ町の営業の整理をしている。



 領都系の商会の連鎖倒産が起きて、それの処理に追われている。店舗の方はクラープ町の土着の商会に引き取ってもらえそうだ。引き取るための資金の手当てをしなくてはならないのは面倒だが。



 問題は行商と郵便だ。以前には彼ら商会も行商をしたこともあるらしいが、たいして儲からなかったようだ。だから彼らはあまり乗り気でない。


郵便となるとさらにしたこともなく、パラダが完全に失敗していたこともあって、まるで希望されない。



 いちばんいいのはもともとそれらをしていたシルヴェスタが引き取ることだが、彼はパラダ本家や御館様を警戒して躊躇している。


そのシルヴェスタから役所のスミスを通じて会談の申し入れがあった。何とか引き取りにこぎつけたいと申し入れを受ける。




 会見に先立ってシルヴェスタはクルーズンからの土産物だと言って向こうの焼き菓子などを持ってきた。


「いや別にこういう物は不要だ」

「そうでございますか。それは大変に失礼しました」


下僚どもがそういう付け届けをもらっていることはよく知っている。だいたい御館様自身が付け届けをもらって政務を曲げているのだ。


上が堕落すれば下も倣っているに過ぎない。それをお館様が聴きつけてけしからんなどと言っているのだから呆れる。


「こういうものはいろいろ問題があるからな。人に疑われるようなことは控えるように」


少しくぎを刺す。ところが思わぬ反論が来る。


「本当に失礼致しました。ただ中には私どもにつらく当たる役所の方もいらっしゃいまして、ほんのお心ばかりのものでございました。パラダ氏などももっと高額なものを出されていたようでして」


ううむ。パラダの味方ということはスミスではあるまい。ウドフィあたりか。子どもを諭すくらいにつもりだったのに、うちの領の恥部を指摘されるなど、なんでこうなるのか。


あのウドフィもろくに仕事ができずにこちらに押し付けるは、付け届けは取るはでろくでもない。しょせんは上を見習っただけだろうが。


「それはともかく、クラープ町の北部の行商と郵便は引き受けてくれるのか?」

「そのことでございますが……、引き受けたいのはやまやまですが、商会の幹部の中でもまた何か無理難題を押し付けられるのではないかと不安の声があります」


まったくそれはウドフィや御館様の失態だ。


「もちろんその方の営業を無理に買い取ったことはわしも知っておる。だがその方とて十分な対価を得たではないか? 

領主とて財産をタダで取り上げるようなことは犯罪でもしない限りはできない。無理難題とまでは言えないのではないか?」


「はあ。ただ当初は3分の1以下の買取価格でした。3年も営業を続ければ元が取れてしまうほどの額でして、それもパラダらが参考人になって決めた価格です。

何とか反論して金額を増やしてもらいましたが、あのような決め方自体も無理難題ではないかと考えます」


「今後は当事者すべてが議論に関われるようにしよう」


この辺が落としどころだろう。シルヴェスタの方は何か考え込んでいる。そしてつぶやくように言う。

「そのような形でお願いいたします」



「それからパラダたちの本家ですが、私から買い取り代金分を何とか取り返そうとしています。

もし私が営業を引き取った場合にますますその主張が強くなるのではないでしょうか?」


「パラダ本家らがその方を訴えるかどうかは我々の感知するところではない。

ただ貴殿にこの営業を引き取らせることが領の政策として必要であることを強く説いていく。

それに引き取りの際に価格を決めれば、それで決まるのではないか?」


ほとんどゼロ回答に過ぎない。御館様の意向を考えると何かまともな提案をすることもできない。


いやむしろ約束をして御館様を縛ってしまった方がいいのだが、縛るための有効な手立てがないのだ。


「それで決まったものを後から蒸し返すのがパラダ流なのです。分家にはさんざんされました」

「それはそうだろうが結局すべてはねつけたではないか」

「ご領主様に介入されたとしたら、勝てていたかどうかわかりません」

「その方など御館様の判断があってもどうせ上訴するのであろう」

「それはそうですが、やはり消耗いたします。それなら別の場所で商売をした方がいいと考えてしまいます」


全く否定しなかった。御館様など歯牙にもかけていないということだ。


生まれが違うからいまは御館様の方が上にいるだけでしょせん中身が違いすぎる。


何不自由なく育ったのにぜいたくやえこひいきで領の経済を疲弊させるボンクラと孤児に生まれて数年で従業員も客も満足させる大きな商売を作り上げた商人と。


しかも上がおかしければ平気でよそに移ると言っている。だいたいクルーズンに移りすでにそうしている。


というよりシルヴェスタだけでなく住民たちも同じことをしているから人口が減っていくのだ。



 気を取り直して、元の話に戻す。


「それはそうと営業を引き受けてくれるな?」

「私どもが突然の上からの命令に左右されないという保障かせめて安堵などでもあればそうしやすいです」

「もちろん商人たちの財産に対する権利は守るつもりだが、領主としての権限や政策もある」

「私の営業をパラダたちに売らせたのも政策によるということでございますか?」


痛いところを突いてくる。商人ふぜいが役人にそのような口を叩くことはふつうないが、この者のバックにはクルーズン司教がいるし、いまはこちらがものを頼まないといけない立場だ。


「あれは独占を解消するためということだった」


まったく信じていないことだが、口にせざるを得ない。立場に基づく建前というのは出さざるを得ないことも多い。


本音を歓迎する者もいるが、関係者が多くなるとやはり理屈によってルールを作り、それに基づいて建前を言って動くほかなくなる。


「私どもは独占とは考えておりませんでしたが、それを表明する機会もありませんでした」

「今後は関係するものが弁明する機会を設ける」


これもシルヴェスタは考え込んでいたが、「どうかお願いします」とつぶやくように答えた。


「それでは引き受けてくれるか?」

「クルーズンに持ち帰りましての検討となりますが、前向きに考えたいと存じます」

「そうかそれは頼もしい」

「ご領主様のえこひいきを押さえるよう、それだけはどうかお願いいたします」


何とか飲ませることができたと思ったが、シルヴェスタはまた面倒なことを求めてきた。

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