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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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パラダのダメな例でこちらの商売を見直す

 クルーズンでの幹部との間でのパラダ騒動の振り返りが続く。


「従業員間の競争の話があったわね」

「そうそうあのクレムが言っていたやつだ」

「よさそうだけど、ぜんぜん上手く行かないんだな」



 俺はおっさんだから21世紀初頭の日本で成果主義を掲げて失敗していた企業があることを知っている。


もっともあの失敗は企業の方がせこかったのも理由である。


差をつけてもみんなが増えていくなら上手く行った可能性はあるが、パイを減らすためにあれを入れた。


努力しても全体の傾向としては減っていくなら、徒労感の方が大きくなるのは当然だ。


経営者がは経費が減ってうれしいだろうが、経営者がものを考えなくてよくなる制度というのはたいていろくでもないのだ。


上が最初にものを考えずに馬鹿な制度を作ると、下はわけのわからないことをさせられて、膨大な無駄が発生する。




「あのときに言った通りで、同僚が敵になってしまうし、評価されにくい仕事を人に押し付けた方が得をするし、同僚に商売の工夫などを話さない方が得になってしまう。

あのときには言い忘れたけれど、後輩を育てない方が得にもなってしまう」


「ほんとうにあいつら目先のことしか考えていないんだな」


そうなのだ。何か考えて工夫してうまいことをしているつもりだが、目先のことだけで、もっと先で他の効果が出てくることを考えていない。


工夫すればいいというものでもないのだ。もちろん工夫は大事だが、よくわからないことはあまり多くの人に影響が及ばないところからおそるおそる始めた方がいい。


それに上意下達で上の者の意見が通ってしまう組織だと、上がくだらないことを思いつくと後先よく考えずに通したがるし、それどころか通さないと気が済まなくなる。


さらにクレムやモナプがそれっぽいが、お追従ばかりの茶坊主がいると、ひどい思い付きでも反対を受けずに簡単に通ってしまう。そういう体制は危ない。


「俺が変な思い付きをすることもあるだろうけど、気づいたことはちゃんと言ってくれ」

「まあみんな言いたい放題言っているよな」

「それでも店主はちゃんと説明してくれますし」


そうなっているならいい。いつまでもそれが続けばいいと思う。






「売れないものを置いておく話もあったな。あまり売れないからと言ってすぐに外してしまうと、それを見に来るお客さんが来なくなってしまうと」


「あれも結局は目先のことしか考えない話だった」

「なるほど、確かにそうだ」

「ただスペースも限られているからやっぱり売れないものをいつまでも置いておくわけにはいきませんよね」


それは確かに難しい話だと思う。前世ではレジでのPOSデータがあってかなりの分析ができていた。


こちらでは売り手の直感によるしかないのかと思う。効率は上げているが、そこまで忙しくないようにはしているから気づく機会もあると思う。


ついでに言うと効率を上げた分は全部ではないがかなりを本人たちに還元している。それがないと仕事がどんどんきつくなり、ペイが増えない。


「売り手の人が何か気づくと思うよ。これはおいておいた方がよさそうか。それが言いやすいようにしておいた方がよさそうだ」


「なるほど。現場の人の意見を聞かないといけないですね」

「あまり売り場にも行けていないからなあ」


幹部になるとそれなりに管理業務も出て来て、売り場に行くのも難しくなるとは思う。


それでもまだ行っているだけでも少しは感覚をつかんだり、意見を吸い上げやすくなったりはするように思う。何とかそういう状態にしておきたい。


「最低でも月に一回は売り場に行けるようにしよう」


それはそれでまたお偉いさんが来て現場が苦労する儀式になる可能性もあるのだが、まだ手探りの状態でいろいろしてみるしかないと思う。







「あと他に何か気づいたことはあった?」

「引継ぎとか裁判の通知とかいちいち相手のサインを求めていましたね」

「あれでパラダはそれ以上は反論できなくなっていましたね」

「そうなんだ。口約束とか口で言ったことは都合が悪くなればすぐに反故にされる。重要なことは証拠を残しておかないと」

「本当にあんなに簡単に嘘をつくんだな」


嘘をついている意識もないのかもしれない。本当にその場限りの言い逃れをして、矛盾だらけでも平気な人間はいる。


「だけど、店主はよくサインを求めていましたね。あれのおかげで助かりましたが」


実を言うと予想がついていた。前世がブラック勤務だったからか平気で嘘をつく人間には慣れていたのだ。


「まあ嘘をつきそうだったからね」


「だけど何でもかんでも相手にサインを求めるわけにはいきませんよね。どうしたらいいでしょう」


「やはり重要なことをしているときには確認のサインを求めた方がいいと思う。引継ぎも重要だし裁判も重要だった。

物を売るときも金額が大きければ求めてもいい。だけどふだんの買い物とかふだんの取引でいちいち求めるのはやりすぎだよね」


「こちらがサインを求めるということは相手も求めてくるということですよね。そうするとあまり簡単にサインできませんね」


確かにその通りだ。だけど、そもそも同意しておいて、口頭だからと後で反故にするやり口自体がダメなのだ。


だからサインの時点というよりそれ以前の口頭での同意の段階から慎重にならないといけない。


「それはそうだろうね。だけど口頭でも一度引き受けたり約束したりしたことを後で反故にするのはやっぱりずるだから、サイン以前の同意の段階から気を付けないといけない」


「そうかあ。口だと簡単に同意しそうだな」


それはみんなそうだし、そうしないと円滑に取引などできないと思う。それでも後で反故にしない決意は必要だろう。


「それぞれの権限の中で処理できる範囲ならすぐに同意していい。それでいったん引き受けたからには少しくらい損しても確実に履行する。それでうちの信用になるから。

だけど少し面倒なことがありそうとか権限を越えそうだったら、そこでいったん止めた方がいい。それは幹部で話して決めることにしよう」


「何か難しそうだけど、なんとなく方針はわかりました」


パラダからはいろいろとダメな例を見せてもらったおかげで商会の運営を見直すことができた。あんな者でもそれくらいは役に立ったと言える。


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