ギフトを打ち明ける(上)
2人から離れて見えないところまで来ると、早速ホールを開けてクロのところに戻った。
教会ではロレンスがクロを抱えて不安そうにしていた。横では神がクロをとられて手持ち無沙汰そうにしている。
そういえばこいつがいた。こいつに頼めば助けてもらえたのではないかと念話で聞いてみる。
「いや、だめじゃ。人間界のことは不干渉じゃ。過去に干渉してとんでもないことになったことがある」
それはもっともだと思いつつも、その割にはクロがロレンスに追い出されないように、傷つけた家具なんかを修理していたような。あれは人間界じゃないからいいのか、いや猫のことならあらゆるルールに超越するのだろう。すぐにこんなくだらないことを考えている暇はないと思いなおす。
ロレンスに2人の状況を説明し、一緒に来るように頼む。
「シンディたちを見つけました。ただ谷底でケガをしています」
「やはりギフトを使わないといけませんか」
「ちょっとあのケガでは上にあげるのは難しそうです」
「わかりました、すぐに行きましょう」
と言って、俺と一緒にホールをくぐった。
「この力には驚きますね」
俺は慣れているが、あまりホールを通ったことがないロレンスには新鮮なようだ。それはともかくとして、ロレンスを2人のところに連れていく。
2人は横になっているが、ロレンスの顔を見て安心したようだ。ロレンスは2人の様子を眺める。
「回復魔法を使ったのですね。きちんとできています」
それからロレンスは2人に話しかける。
「これから2人を助けるのに必要な魔法をかけます。楽にしていてください」
そういうと2人の目をそれぞれ見据えつつ、耳元に何かささやいて魔法をかけ始めた。
後でロレンスに聞いたころ、記憶に膜を作る魔法だそうだ。膜を作って数時間の記憶とそれに強く結びつく記憶は忘却の際に他の記憶と切り離しやすく、精神に影響を与えにくいため、秘密を打ち明けるときには予備として膜を作るのが常套手段だという。
食べ物を凍らせるときにラップをはさんでおくとひとかたまりにならないようなものだろうか。
なお膜を作っても思い出せなくなるわけではない。
「これで大丈夫です。それでは帰りましょう」
ロレンスはそういって俺に帰り道を作ることを促す。
さっそく俺は斜面に向かってホールを作る。とはいってもロレンスに聞いたところ俺以外には穴は見えないらしい。だから2人から見ても何をしているのかわからないだろう。
その上でロレンスの手をつなぎ、さらにロレンスがシンディをシンディがマルコに触れるようにする。俺が4人で移動することを認識して、ホールの方に向かった。
「なにこれ?」「どうなっているんだ?」
「大丈夫なんでついてきて」
真っ暗な空間を1mほど歩いて、教会のクロの前に出る。2人は完全に目を丸くしている。
ロレンスが2人に説明する。
「今のフェリスの力はギフトです。ギフトについては聞いているかもしれませんが、いろいろと話しておかないといけないことがあります」
「2人にはよく話しておきます。フェリス、あなたは森に戻ってレナルドたちに2人を救出したことを知らせてきなさい」
そうだった。まだ大人たちは森を探しているのだった。森に行かないといけないが、谷から上がるのはつらいので、やや速足で歩いていく。
森につくと2人は自警団とくい打ちをしていた。
「2人は見つかりました。いま教会に連れて帰っています」
大人たちに安どの色が見える。レナルドとマルクは泣きそうだ。マルクはともかく、あの強いレナルドがとも思う。
杭はそのままにして、みんながやがやと話がながら村の方に戻っていった。そしてレナルドとマルクの2人を教会に連れていく。
俺が森に行っている間、教会ではロレンスが2人にギフトについて言い聞かせていた。
「先ほどのフェリスのギフトですが、ギフトについては大変に危ないものなので秘密を守ってもらわないといけません」
「そりゃ誰にも言わないわよ」「僕も」
子どもが、いや大人だって秘密を守るなどというのはそうそう簡単にできるわけでもない。ロレンスは続ける。
「あなたたちが決意しただけでは済まないのです。ギフトは他人に知られると誘拐されたり脅されたり命にかかわることになります。
ギフトの中身はもちろん、それを持っていること自体めったに知らせてはならないことが社会通念になっています」
2人は今日立て続けに起こったこと、その最後にロレンスが深刻そうに話していることに、頭がついて行けないように呆けている。
「少し難しい話でしたね。この後のことはレナルドとマルクが帰ってから話しましょう。今日はここで休んでいきなさい」
そう言ってロレンスは2人に睡眠魔法をかけて休ませてしまった。
俺はレナルドとマルクを教会に連れてくる。ロレンスはまず2人にシンディとマルクの様子を見せる。
「きょうはこのまま寝かせてあげてください。かなり疲れているようです。けがはしていますが、軽いものですし、もう処置はしました」
2人は寝ている子たちの様子を見て、一安心したようだった。とりあえず席を勧めてからロレンスが続ける。
「シンディとマルコには明日話しますが、ちょっと重大な話があります」
「これからある秘密を打ち明けなければなりません。申し訳ありませんが、あなた方にも魔法にかかってもらう必要があります」
ロレンスのいうことに2人はすぐに同意した。この辺はふだんの積み重ねなのだろう。それではさっそくと言い、ロレンスは2人に魔法をかける。
さっきシンディとマルコにかけた記憶の膜だろう。その上で2人に打ち明ける。
「実はフェリスはあるギフトを持っています。ギフトの中身は知らない方がよいでしょう」
ギフトについて少し驚いたようだが、危険性や秘密の必要性については2人はよく知っているようだ。子どもたちより話が早い。
「2人は谷でけがをしていました。助けるには彼のギフトを使わざるを得ませんでした。ですからあの2人はギフトの中身を知っています。
ご存じの通りギフトは人に知られると危ないので、2人には秘密保持魔法か、忘却魔法を使わせてもらうかしなくてはなりません」
かなり深刻な話をしている。なんとなく落ち着かないので、トイレに行くふりをして離れようとする。
「フェリス、あなたにも関係のある話なのですぐに戻っておいでなさい」
トイレに行きたかったわけでもないので、クロのところに行きしばらくなでてから戻る。
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