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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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110. パラダへの反論 競争と金銭評価と

 破綻したパラダとクレムが無駄なあがきでなんとかうちに責任を押し付けようとしているのに対し、衆人の前で反論している。


次にパラダは俺が年間3000万も儲けていたのはうそだと主張した。その嘘のために3億などとあまりに高い金で事業を買わされたのだと。これも前にバンディ相手に同じ問答をした。


「バンディ氏相手に同じ問答をしましたが、帳簿はつけてありますし、それを信じられないということで、バンディ氏は南部のうちの行商の売り上げを抜き打ちチェックをしています。

役所のスミス氏の部下の方も同席していますから、間違いない証言が得られます」


スミス氏がうちは確かに十分儲けていることが確認できたと証言して、真っ向から対立した。



「ではなんで、うちはそんなに儲かっていないのだ。お前が嘘をついているからとしか思えん」

「はっきり言えば、お宅の商売がまずかったからです。していることは間違いだらけでした」

「領都に起源を発するクラープ町の老舗であるパラダ商会が間違いだらけなどということはあるか!」


またこれだ。


「老舗だっていくらでも潰れています。いちいち意味のないことを言わないでください」


パラダは信じられないと言いたげな顔で見ている。


「ともかく、うちのどこが間違いだったというのだ」


「まず成績をつけて行商人同士を競争させ給料に反映させたのは決していいことではありません」


「商売など競争ではないか!」

今度はクレムだ。そこにこだわりがあるらしい。


「いいえ、異なる商人同士が競争するのは歓迎すべきことです。ですが、同僚同士を競争させることはまったく事情が異なります」


「どういうことか説明してくれないか?」

外野から言われる。


「はい。同僚同士で競争させると同僚が敵になってしまいます。だいたいこの行商では売れるか売れないかはかなり割り当てられた場所と時間によります。

ですから商会の中でいい場所と時間を取ってしまえばそれで成績はよくなるのです。

そこに工夫の余地もありませんし、そんな取り合いは商会が町全体で行う行商とはなじみません」


実際にあまり売れない場所に割り当てられた者が、評価が悪くなりこぼしていたそうだ。


「勤め人に成績をつけて競わせるなど当たり前ではないか」


「成績をもとに何か指導してもいいでしょう。もちろん明らかにまずい商人は再教育が必要ですし、明らかに優秀な商人を表彰するくらいはいいでしょう。

ただそれを露骨に給料に反映させるのが間違いだと言っているのです」


「給料に反映されるから、仕事が進むのだろう」


「その者1人の仕事は進むでしょう。ですが組織全体の仕事をうまく進めるためには成績で評価しにくい仕事もしなければりません。

そのとき成績をつけて競争させると評価されにくい仕事を他人に押し付けたものが得をしてしまいます。

うちでは成績で評価しにくい仕事もできるだけ意識的に総務のような間接部門で引き取るようにしていましたが、それでも全部をすることはできません」


「それではクレムのやり方はまずかったと?」

パラダがつぶやく。共同経営者パートナーなどと言っても切り捨てるべき道具に過ぎないらしい。クレムの方はパラダをにらみつけている。まあ対立してくれていた方がやりやすい。


「それは完璧な制度などない。それらの欠点があるにせよ、個人の頑張りを促すことはよいことだ」

クレムが主張する。


「いえ、まだまだ欠点はあります。それを説明しましょう」


「ある場所で何が売りやすいか、何か特別な注意点はあるか、新しい工夫があるかなど、そういうことはできるだけ多くの行商人で共有した方がいいのです。

ところが競争させて周りが敵になってしまうと、そんなものは他人に教えない方が得になります。

協力しないだけでもよくありませんが、もっとひどくなると相手の足を引っ張るようなことをし始めます。そうしたら営業は悪くなる一方です」


クレムは押し黙っている。心当たりがあるのだろう。


「うちは研修を手厚くして、従業員の能力を向上させてきました。ところがパラダ氏は競争させ仲を悪くさせて、せっかく育った者たちをどんどん首にしてしまったのです」

「仕事について行けないものが出て行ったにすぎん」


「いえ、内部の証言がいくらでも出ているでしょう。あとから雇った者の方が安上がりだと言っていたと。ただ後から雇った者の能力は全く違っていました。安上がりは能力も安かったのです」

「能力が安かったなどとお前が勝手に思っているにすぎん」

「実際に後から入った行商人はトラブルばかり起こしていたでしょう」


それについては散々苦労させられたスミス氏があまりにも多くを語ってくれた。


観衆たちもそれに同意する。

「そういえば押し売りが出没していたな」

「何かいやらしい行商人もいたわね」

「態度の悪いのがいたな」




 さらに金銭評価は従業員たちが目先の利益だけを確保することになりがちだ。


俺は前世であるときかなりぐいぐい押してくるセールスマンにやや不本意な契約をさせられたが、結局あまり良い商品でなかった。


それなりに付き合いがあった会社だが、それ以降はフェードアウトで付き合いをやめてしまったことがある。


実際にパラダたちの地域でも押し売りが出て、当人たちは目先の利益を得ただろうが、商会の評判を下げてしまった。

 

「押し売りが出たのも結局は金銭評価のやりすぎの結果でしょう」


「シルヴェスタさんのところは無理に勧めてこないから、安心して見に行けるんですよね」

外野から声が上がる。裏を返せば、パラダのところは成績を気にした商人が無理に勧めてくるから近づきたくないということだ。





 それに全部金銭で評価すると動機づけが上がるというのがあまりにも単純な見方で、そううまくいかないことが前世では研究されていた。


ああ、ちゃんと勉強しておけばよかったが、まさか転生して本も手に入らない世の中に行くとは思っていなかった。


そこまで想定して何でもかんでも知っておくのは無理だ。ただ何となくそんな断片的知識があるだけでも、それがないより考える余地が広がる。



 そんなことを言っているが、この社会だって「人はパンのみにて生きるにあらず」に近いような格言はあるのだ。


あの猫のみにて生きているオタの宗教で、そんなことを言うのも、神と宗教がまったく関係ないことを表している。


「成績をつけて競争させれば業績が上がるなどと子どもでも考えつく理屈を実際の運用も見ずに推し進めた結果がこの始末です」



俺が言っただけではパラダもクレムも否定しただけだっただろうが、あまりに実例が多くそれに同意する人も多数いる中で、2人はうなだれて行った。


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