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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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105. 意外な人物の訪問

 意外な人物から接触があった。


役所のスミスと子爵領の家宰のイグナシオだ。


スミスは何度も会っているからいつものことだが、イグナシオはけっこうな重役だ。




「ときに、パラダたちがそろそろダメになるが、その方は行商と郵便に復帰するつもりはあるのか?」

「パラダたちはダメなんでしょうか?」


とぼけて聞いてみる。もうとっくの昔に実質的には商売になっておらずダメだったが、名実ともにダメになる日が近いことはわかっている。


というよりなんで店が続いているのかわからない。前世だと手形を2回不渡りにすると全銀行からの取引停止となりそこで事実上の倒産となっていた。


ただ前世で倒産という言葉が実ははっきりした定義のないあいまいな言葉であったのと同じで、こちらでも借金が返せそうになく実際に期日を遅れても、まだ完全におしまいというわけではないらしい。


それはパラダの店は曲がりなりにも老舗だから期待する人がいてもおかしくない。


「ダメかどうかはその方の方が詳しかろう。彼らは借金を返す当てもない。何とかあがいているようだが、早晩両手をあげるだろう」

「はあ、確かに売掛金の清算の期日遅れなどが見られますね」


もう少し相手の出方をうかがう。だいたい俺のやったクルーズンの裁判所をかませることは実は領の主権の侵害になりかねない。家宰としては歓迎できないことだろう。


「それで元の質問だが、再参入するつもりはあるのか?」

「役所としてもシルヴェスタ殿にはぜひとも郵便事業は復活させていただきたい」


なるほど、スミスはともかく家宰もこちらの再参入を期待しているのか。とはいえ、いろいろ問題があるので、それを正直に話す。


この家宰はウドフィとは少し違うところがみられる。


「はあ、クラープ町の北部の住民の方々にも多くのご支持やご期待をいただきましたので再参入したいのはやまやまですが、いろいろ障害もございます」

「ほう、障害とは何だ?」

「まずはもうスタッフが足りないことでございます。元々、うちで働きパラダに移籍した者たちの大半はいまクルーズンにおります」


そういうとイグナシオは少し困ったような顔をしている。


「まあ今のご時世、他領に行くことは仕方ないが、それにしてもあんなに一気に出るのもこちらとしては困る」


それは若者が大量に他領に出るなど困るだろう。ただ俺がパラダに引き取られた元従業員をクルーズンに引き取る前から、流出は起こっていた。


だいたい今回のことは領主が愚かにもパラダの提案を受け入れるからパラダが暴走し、パラダが暴走したから彼らはクルーズンに出ざるを得なかった。


結局は領主の無能のせいだと言える。まさかそうも言えないので、黙っている。チクリとにおわせるぐらいはしたいものだが。


「ええ、そうは言っても、パラダの働かせ方はあまりにもひどかったので、仕方ないところです」

「いちおうあそこも長く商売を続けてきた老舗だが、そんなにひどいということがあるか」


「少なくともうちよりはよほど悪いです。平気で時間外に仕事をさせ対価を払わない。売れ残りを無理に売りつけるなどうちでは考えられません」

「それくらいはどこの商会もしておるだろう?」

「少なくともうちではしておりません」

「うむ。なるほどな。その方がよい待遇を出していることは分かった」


「別にタダで出しているわけではありません。うちの店員は読み書き計算はよそよりはるかにでき、徒弟でもよその手代並みなどとも言われることもあります。

それで商売がうまく動いていたともいえます。だから彼らはパラダのまずい商売では我慢できなかったのでしょう」


2人は少し考えこんでいる。


「まあ今回のことが片付いたらクルーズンにいる者も戻ってきてくれるのだろう」

「それはどうなるか。もちろん戻りたい者には戻らせてやるつもりです。ただ向こうで責任のある地位について充実している者が果たして戻りたがるでしょうか?」

「うっ、ううむ」


「まあ、その辺は小さくでもいいから戻っていただいて、少しずつ拡大してもらえればいいかと」

スミスが横から助け船を出す。


「なるほど、ただもう一つ問題があります」

「なんだ」

「家宰様に言うのも心苦しいのですが……」

「かまわぬ、言ってみよ」

「つまり、またとつぜん商売が取り上げられるような危険があると、とても商売をしようとはなりません」


要するにお前の上司の馬鹿領主の元じゃ危なっかしくて商売などできないと言う。


「さすがに御館様も今回のことで懲りただろう」


本当にそうだろうか。領主はたいして痛い目に遭っていない。むしろ意趣返しにあいつはまたやらかすのではないかと思う。


「戻るかどうかは私の一存では決められません。どうか私だけでなく他の商人にもお声かけください」



 後から聞くとイグナシオは町内の他の商人や商業ギルドのパストーリ氏にも声をかけたそうだ。


ただ行商はほかの商会も以前してみたがたいして儲からなかったため皆積極的ではなかったとか。


まだこちらはパラダ攻略が完全ではないが、役所の方ではポストパラダが始まっているのだった。


少なくともバンディは駆けずり回っているようだが、役所の方ではもうないもの扱いなのだった。




 さて今日も家に帰って一番に行くところはクロのことろだ。そしてすぐにクロのお腹に手を当てる。


猫の何がいいかというと、なでられてかわいがられて、そうされることが当然とばかりの顔がいい。


寝床に入ってくるのももちろん当然だ。そんな存在他にあるだろうか。


「クロはかわいいねえ」

「そんなこと当たり前ではないか」


最近登場の少ない、とはいえ実はいつもクロのそばにいる暇神ひまじんが答える。


「当たり前でもあらためて言うのがいいんだよねえ」

「まあそれは認めてやらんでもない」


クロは目を細めて、いかにも気持ちよさそうな顔をしている。その表情がまたいいのだ。


猫が幸せそうなだけで人が幸せになれる。


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