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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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(パラダ)悲惨な出張

 私はパラダ商会の番頭バンディ。老舗であるパラダ商会の存続はひとえに我々ひとりひとりの献身によって途が開ける。


いまこそ頑張りどころだ。慣れない仕事だが、クルーズンに出張し、裁判関係のことを調べてきた。



 しかし出張から帰るとパラダ様から怒られる。馬車に2日乗るというのはきついものだ。そこにまたこれではかなりこたえる。


「10数人分あるが、全部同じことが書いてあるではないか。髪飾りを売りつけられた、無賃労働させられた、ブドウを売りつけられた、

高級パンを売りつけられた、チーズ入り揚げパンを売りつけられた、団子入り飲料を売りつけられた……、同じことばかり書いてあるものも10数人分も持ってくる馬鹿がいるか?」


そう言われてもクルーズンまでの往復で5万はかかる。出張中に働けない分の費用も含めたらもっとだ。


確かに裁判記録の写しに10万あまり使っているが、足りないよりはいいように思ったのだ。



 代言人との相談についても35000もかかったが、パラダ様はお気に召さないようだ。もっとも結論がうちに有利だったら、お気に召したのだろう。


2人目に言われた「一審のときに相談にきてもらえればよかった」を言ったとしたら、烈火のごとく怒られそうな気がする。



 立て替えた分も払ってくれない。見たいものがないという。なんでも差し押さえの記録が欲しいそうだ。


そんなもの言われないとわからないではないか。資金がショートして裁判所が絡んだ時の対応など、ふつうの商会の番頭が知っている知識ではない。



 そしてもう一度行って取って来いと言う。しかも金がないからクルーズンまで歩いて行けと命じられる。


片道1日余計にかかり、その分の給料は無駄になるわけだが、もう目先の金ことしか考えられないらしい。


宿泊費もかかるはずだが、一泊1000ハルクのボロボロの宿に泊まればいいという。そんな宿、まともな商会の番頭が泊まる場所ではない。もはやそう言う商会としか言いようがない。



 1日歩くとくたくただ。脚は痛いし、全身もけだるい。それに精神的な疲労もある。歩いている者などほとんどいないのだ。ましてクルーズンまでなど皆無ではないか?


宿に行ってみると、入り口からして何かうらぶれている。フロントも大声を出してようやく出てくる始末だ。そして係りの者の服は普段着で身だしなみもしていない。


1000ハルク払って案内された部屋は、少し広い部屋の中に粗末な2段ベッドが複数あり、全くの他人と同室で寝る形だ。これでは金目の物や秘密書類など持ち込めない。


しかも入るなり何となく据えたにおいがする。さらにそこにある毛布も擦り切れている。しかもまともに洗ってなさそうだ。虫がいそうで怖い。同室の客は若者か何か景気の良くなさそうな者ばかりだ。


 翌日もまたひどい宿だ。そしてクルーズンにたどり着いたのは夕方だ。裁判所などもう閉まっている。またきのうと似たようなうらぶれた宿に泊まる。


明朝まずはパラダ様が欲しがっている差し押さえ命令の写しを取りに行く。


ところがまた同じような命令が多数ある。写しを作るには金がかかるし、パラダ様は同じようなものを多数持ち帰るとしかりつけてきそうだ。


ここは重要そうなものだけ持って帰ろう。シルヴェスタ商会による差し押さえ命令は金額が大きそうなので、もちろん写しを作ってもらう。それ以外は2つか3つでよさそうだ。




 クルーズンでは元行商人の意見も聞きたくなり、例の髪飾りの返却にかこつけて訪ねて回った。


ところが彼らはいずれも髪飾りを返すなり、誰も相手をしてくれない。


意見を聞きたいと食い下がっても、さんざん言いましたよねとか、意見するなではなかったのですかと言い返される。


何人か回った後で、どうやら元行商人からシルヴェスタに通報が行ったらしい。


シルヴェスタから「彼らはお宅の商会でずいぶんひどい目にあわされたわけです。どういう対応を取るべきかよくお考え下さい」と抗議を受ける。


数か月前までは彼ら相手など一方的に命令すればよかった。それが間違いだったのかもしれない。




 クルーズンからむなしい仕事を終えて帰る。全身はくたくただ。消耗しきっているし、体調も良くない。ところがまたパラダ様から怒られたのだ。


「なんで全部持ってこないんだ?」

今度は全部持ってきてほしかったらしい。


前は同じものばかりいらないと言ったから気を利かせたのに、いちいち言ってもらわないとわからない。


「前に同じものばかり持ってくるなと言われたので……」

「前回は前回、今回は今回だ」

「どういたしましょうか?」

と聞き返すが、

「もういい!」

これだけだ。今回分の経費は受けているが、前回分の清算はまだしていない。いつか機嫌のいいときに持ち掛けるほかあるまい。




 ところでシルヴェスタは元従業員だけでなく、うちの取引先も回って債権を買い集めているらしい。


パラダ様にこれ以上シルヴェスタが差し押さえできないように先に下ろしてしまうことを勧めるが、分家分を超えて下ろしたことが本家にばれたら怖いと取り合わない。


それなら本家に通知して、本家に下ろしてもらえばいいと勧めるが、そんなことは到底考えられないと、ほとんど激高して否定した。


「シルヴェスタより本家の方が恐ろしいんだ」


これは実際にそうだということが後でわかる。


ただ思うのだ。ここで預金を引き出すか、本家に通知していれば、本家が失う金はもっと少なくすんだと。


恐怖で人を支配したときに、支配された者だけでなく支配した者も不幸になるのがよくわかる。




 しばらくしてクルーズンから宿駅止めで送っておいた髪飾りが到着する。


この送料も立て替えだが、それくらいは手代に言って出してもらう。


だがこれもパラダ様に見つかったらまた怒られそうだ。店の在庫ということで目立たぬところに放置しておこう。

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