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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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あぶく銭の使い道

 クルーズンのうちの本社の方にバンディが来ている。毎度毎度無駄な努力でご苦労なことだと思う。相手するのも無駄な努力だが。



 買い集めた債権の方は支払い督促や差し押さえですでに2000万ほどは回収している。あとは期限が少し先だったため間に合っていない1000万ほどだ。


買い取ったのは3割の900万ほどだったので、もうとっくに出した分の回収はできている。だが可能なら全部回収できた方がいい。



 バンディはうちが預金を差し押さえたことに抗議している。あーあ、とうとうばれてしまったか。この後は預金の引き出しがされかねない。残りの1000万は回収できなくてもすでに元は取っているが、可能なら回収したい。


「こんなやりかたあっていいものか」

「いえ、クルーズンの裁判所で認められた結果です。そもそも従業員に働いた分の給料を払うことも借金を返すことも当然のことです。当然のことをしないで、それが不当だと裁判所で認められて、支払うのは当たり前でしょう」

「こんな不意打ちのようなやり方、汚いじゃないか?」

「いえ、従業員たちは求めましたし、裁判の通知もいちいちそちらに送っています。もちろんこちらの勝訴後の請求も送りました」


バンディはいつものように黙りこくる。




 それからパラダ商会が従業員たちに売りつけた髪飾りなどを返すことにする。裁判所で返品が認められたのだ。


ここにあるのはクラープ町の元従業員から預かったものだ。


「こちらですが、クラープ町のお宅の元従業員が無理に買わされた髪飾りです。裁判で返金と返品が認められたのでお返しします。返金は先に口座から頂きました」


バンディはものすごく嫌そうにしている。そもそもこれが価値のない欠陥品だということも知っているのだろう。


「それからクルーズン在住の元従業員については預かっておりませんので、それぞれ訪ねて回収してください」


どうせ価値のない品だから回収にはいかないだろうと思う。もし元従業員のいるところにバンディ一人で行ったらどんな目に合うかわからない。


強い者と弱い者が入れ替わってそれまでの理不尽が清算される。


「それならブドウやチーズ入り揚げパンや餅入り飲料の分はどうなっているんだ?」

「裁判所の方で消費した分は返さなくてよいとのことでした。返金は例の預金から受けましたが」


数十個の髪飾りでそれなりの重さもあるが、バンディは持ち帰るのだろうか。持って帰っても売り先などあるとは思えない。



「あ、それからこちらの債権ですが、すでに期限が来ているので直ちにお支払いください」

「そんなもの払えるはずないだろ!」

「わかりました。支払い拒否ということでまたご署名をお願いします」

「ダメだ! またそれで訴訟をするつもりだろう?」


その通りだったが、別に拒否されてもいくらでも手はある。だが、また預金を下ろされても困るので、あえてそのことには触れない。少しでも下ろすのが遅くなってくれるといい。




 正直なことを言えば、訴訟までするほどの手間に見合うほどの金でもないような気がする。


しかも本業以外でずる賢くあぶく銭を稼ぐのはどうも従業員の手前いいことだとは思えないのだ。


金が足りなくなったときにそういう手を使えばいいと思われても困る。




 だが今回の場合は、パラダを早くつぶしてしまいたいし、うちに友好的な商会や生産者を少しでも守りたい。ついでにパラダに友好的な商会や生産者は回収できない方がいい。


そんなもろもろの理由で、面倒なことをしている。


「このお金どうしよう?」


みんなに聞いてみる。





「別に普通に使っちゃえばいいんじゃないの? お金にきれいも汚いもないでしょう」


いや実はきれいや汚いはあると思うのだ。


「うーん。何か気が進まなんだよな」





「債権を安く買い集めた商会や生産者に返すのはどうだ?」

「うーん。それもいまいち上手くないと思う」


正直な話、彼らがパラダと取引したこと自体が道徳的によいことだとは思われない。


しかもリスクを把握せず、あんな危ない商会に売掛や借金を認めたことも、商売をする者の能力としてはまずいものだ。


ここで安易に返してしまうと、今後も彼らは同じことを続けるのではないかと思う。小さいところで痛い目に遭っておいた方がいい。





「うまいものでも食おうぜ」


それはそれでいいアイディアだと思う。うちのみんなは散々ひどい目に遭ったのだ。少しくらい打ち上げをしても罰は当たらない。


実際に幹部だけでなく、従業員たちも集めて、派手なパーティを行った。


ただ100人くらいいて高級料理とはできない。王宮くらいならそれにふさわしい会場があり、用意できる料理人もいるかもしれないが、ここは大都市とはいえそうはいかない。


まあそれでもわりとおいしそうなものを用意してもらって、今回の苦労をお互いにねぎらった。


「本当によくここまできましたよね」

「いや、悪い奴に目にもの見せてやれてよかった」


みんな口々に感慨を表す。本当に勝ってよかった。とはいえそれでも50万余りしか使えていない。




「残りをどうしよう」

「それではいっそのこと寄付してしまってはいかがですかな?」

「それは、いい考えだ!」


うん、それはいいような気がする。だが、どこに寄付するか? 一瞬司教の顔が思い浮かんだが、すぐに首を横に振って否定する。


いや別にあれはあれで意義のあるものだが、なんとなく対価もなしに寄付したいとも思わない。


そんな風に思わせるのが彼の徳であり、彼が信仰している神の徳なのだ。


あの神は教会に寄付しようがしまいが全く興味はなく、猫に美味しいご飯をやるかどうかにしか興味はない。


それはともかくとしてなんとなく、全く理由は説明できないが、頼みごとなしに金を出そうという気にはなれないのだ。


まあこれからも散々頼み事はするだろうから、それはそれでいいだろう。


なおセレル村の育て親のロレンスは本人が気にするので、マルクを通してこっそり少額ずつ寄付している。


「さて、どこに寄付しようか?」


どうせならすでに広く行われている寄付ではなく、王や貴族が対応すべきことでもなく、何か新しい流れを作るような寄付にしたい。


そんなことを考えつつ、ブラックをつぶして得た金はもう二度とブラックを作らないために使うのがいいのではないかと思いついた。


それにはやはり法律家だろう。さっそくカルターに考えを話す。


「法律家のギルドの方で、今回のようなブラック労働に対抗するための組織を作れませんか? うちで寄付をします」

「あ、なるほど。それはいいですな。ぜひとも取り組みたい」


うちはブラックはしない。ということは同業他社がブラックで営業されると、競争で負けてしまうかもしれない。


クルーズンの商会はクラープ町の商会よりはるかに実力がありそうだ。


だからブラックをさせないことは俺の満足や社会正義だけでなく、うちの商会の損得としても意義のあることだ。


そんなわけで、とりあえず1000万を寄付して基金とし、ブラックに対抗する研究会や代言人の補助を行うことにした。


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