債権を買い集めて回収する
パラダ相手にブラックの裁判を続けて、第1回第2回といずれも勝訴し、さらに預金口座の差し押さえにより実際に被害者が計2300万余りを手にできた。
ただこの金がなくなったらパラダは本当に倒産だろう。うちの商会から向こうに移籍した者はほとんどパラダにやられた分を今回の裁判で取り戻せた。
だがパラダと取引して売掛金のある者たちは取りはぐれになる。
中にはクラープ町のシルヴェスタ・ドナーティ合同商会と友好的な業者もいる。彼らも債権を持っているだろうが、倒産したらほとんど返ってこないだろう。
できればそちらの分も確保したい。泣くのはパラダと友好的な業者だ。
なおこの預金はクラープ町だけでなく、領都ゼーランのパラダの本家の金も入っていそうだ。その分も取り上げてやろうかと思う。
そこで浮かれている今回の原告にもう一つお願いをした。
「勝ってうれしいと思うが、もう少しだけ我慢してくれないか?」
「どうしたんですか? もうほとんどの人が取り返しましたよね」
「今回取り戻せたことはしばらく黙っていてほしいんだ」
「どうしてですか?」
「ついでにパラダの取引先の貸金も取り戻してやりたい」
「話してしまうと、パラダが預金を引き出しかねないと」
「うん。そうだ。いやお金は使ってくれても構わない。あまり派手に豪遊してバレると困るが、君たちのお金だからふつうの生活に使ってほしい」
「わかりました」「被害者は僕たちだけじゃないですもんね」
クラープ町の条件付きで買い取った原告についてはもちろん勝ち分は渡したが、クルーズン以上に固く口留めをした。
口止めしたとはいえ、多くの人が知っているというのはいずれはバレることだ。さっさと進めてしまうに限る。
そこでクラープ町のパラダの取引先で、うちと友好的なところにパラダの資金繰りが近くつかなくなることを知らせてやることにする。
いやもうずいぶん前から、パラダの商売はまずいから期限があまりに先の売掛(つまりパラダの後払い)は拒否するように勧めていたのだ。
まずは商業ギルドのパストーリ氏に知らせる。ただし固く口止めをする。
ギルドはさすがに経営状況も把握していて、だいたい低利というのもあって貸金にはしっかり店を抵当に取っているとのことだ。
町の商会との付き合いはわりとあるが、生産者との付き合いはドナーティを通してとなる。
だからマルクやカテリーナと相談して知らせる。ただしあまり広く知らせると取り付け騒ぎが起こりかねない。
友好的な者に限定して、しかもしっかり口止めして、できる限り回収を進めるように伝える。
そうしているうちにパラダ商会の方で資金ショートで支払いができない事件が起こり、あっという間にうわさが広がった。
それでも大半の債権者たちは小規模で期限の月末まで待てばいいと言っている。ただ新たな取引は現金に限るとのことだ。
困ったことに少し大きいやはり1000万余りの売掛金のある業者があった。
ただうちで買い取ったとしても訴訟費用は掛かるし、取りはぐれのリスクはある。だからもちろん満額では買い取れない。
代言人の費用もあるし、うちの責任でもないので、3割ほどだ。
もちろん見込みが違ってパラダが倒産せずにきちんと返せたなら、この業者の損になる。
そのことも伝えたが、もう彼の仲間の中ではパラダの倒産はほぼ決定事項らしい。
「もうそれでいいから買い取ってくれ」
そういうわけで300万ほどで買い取る。
最後にパラダと友好的な取引先だ。これは俺の責任は全くない。それどころか、パラダに儲けさせて俺にむしろ迷惑をかけた者たちだ。
それに商取引するからには危険があるに決まっている。さらに前世だって会社がつぶれたときの取引先のふつうの債権は従業員の賃金より後回しだ。
ただそうは言っても野菜の生産者に過ぎないような者もいる。もちろんパラダに積極的に協力していたような者の債権は買い取る気はない。
だがそこまででもない者は2割くらいで買い取ってもよいようにも思うのだ。
結局3000万余りの債権が集まる。そして月末の満期が来るが、パラダは支払いができない。
またいつもの手でクルーズンの裁判所に訴えて、バンディに裁判通知を交付する。よくもまあ、毎度毎度役所のスミス氏に呼び出されるものだと思う。
おかげでこちらは楽できるのだけれど。とはいえ、スミス氏を通すので、毎度毎度、スミス氏から郵便の引継ぎはまだかと聞かれる。答えはパラダがつぶれたらだ。
初めにバンディが裁判通知を受け取ったときは、相当動揺しておっかなびっくりだったが、いまではまるでどうでもいい様子だ。
なにか前世でポストに入っていたチラシくらいの扱いでしかない。
もちろんその債権もしっかり回収する。そのうち法務部も作ってもいいかもしれない。
いつまで気づかないのだろうか。だいたいパラダはこの口座から補填しないと商売を続けていけないような状態かと思う。




