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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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95. 差し押さえは後のお楽しみ

 パラダから不当に扱われた元従業員たちのための裁判は、パラダ側の欠席でこちらの完全な勝訴に終わった。


だが、実際に金を取り立てなければ、まったくの空判決に過ぎない。たぶんそれでパラダも欠席したのだろう。


「それではさっそく差し押さえをしましょう」

「いや、ちょっと待ってください」


カルターが止める。


「差し押さえしないと空判決ですよね」

「はい、そうです。ただちょっと別のことを考えています」


カルターは楽しそうにしている。


「それは何ですか?」

「はい。今回のことでわかりましたが、相手は完全に油断しています。というよりなめてかかっているのでしょう」

「ええ、そんな気がします。とにかく、領都の老舗でうちのような新興商会など見下していましたから」

「それもあるのでしょうね。それにシルヴェスタさんはやはりお若い。いやご見識は並みの大人よりはるかに感じますが、容姿が年齢相応だ。それで相手も下に見ているのでしょう」


確かに13歳で、それくらいにしか見えない。相手が40や50ともなればこちらを下に見るだろう。


「それでですが、せっかく相手が油断しているので、警戒される前にどんどん訴えてしまいましょう」


なるほど。なんとなくわかってきた。口座の差し押さえが向こうに伝われば、とたんに警戒される。


そうすれば、次の裁判からは向こうも参加し、弁論があって、今回のように簡単にはいかない。


だが向こうが油断して、裁判の結果など空判決だと思ってくれていれば、その間は今回のように簡単に勝つことができる。


「差し押さえすると警戒されるから、その前に勝てるだけ勝っておこうというわけですか」

「はい。口座にいくら金があるかはわかりませんが、こちらの裁判所で下った判決ですから差し押さえは簡単にできます」


その口座のことについて思い出したことがある。


「そういえばパラダの口座についてですが……」

「なにかありましたか?」

「いえ、クラープ町とゼーラン町の両方になっているのです。どうもゼーラン町の本家との共同口座のようです」


さらにカルターの顔が緩む。


「それはまた楽しそうなお話ですな」

「でも大丈夫でしょうか?」

「大丈夫というのは?」

「差し押さえをして、預金をこちらの口座に移した後に、ゼーラン町の本家から本家の分は返せと言ってきませんか?」

「それは、そんな口座を作っていた向こうの責任ですね。まあ訴えられるかもしれませんが、勝てます」


カルターが何かにこやかなのは、なんとなくこちらも意味が分かる。


裁判が増えて仕事が増えるということではあるまい。いや俺も初めにギルドで口座の住所が2つあったときになんとなく思ったのだ。


「共同口座ならそのぶんよけいに預金がありそうですね」

「ええ、そうでしょうな。ゼーランからは工芸品などでしょうか。かなりの金額が期待できます」

「ええ、これで徒弟たちがひどい目に遭った分をすべて取り返せそうです」

「ところで、ゼーラン町の本家の方に迷惑をかけたくないなどということはありますか?」


念のためのようだが、カルターから問われる。正直な話、ゼーランのパラダの本家とは全くかかわりがない。店の者に会ったこともないのだ。


ただ俺の行商事業を取り上げるときの金は本家筋から出ているらしい。領主と結びついているのも本家だ。


あんな威張った分家のパラダを作ってしまったのもその本家とやらの責任だろう。


要するに主犯か従犯かは知らないが、俺の事業を取り上げた一味でしかない。うちのそして譲渡先のパラダ商会の元徒弟たちを守る方がよほど重要だ。


「いえ、まったくありません。取れるだけ取りましょう」


そういうわけで、差し押さえは後回しにして、できるだけブラックの不法行為の訴訟を進めることになった。



 それからもう一つ、売りつけられたものについて残っているものは返す必要がある。ブドウのように食べてなくなったものは仕方がないが、髪飾りなどは返さないといけない。


ただうちが集める必要もあるまい。パラダが、クルーズン市にいる原告をそれぞれ訪ねればいい。


原告には取っておくように言う。


「持っているとけがをしそうだから、さっさと手放したいのに」

「こんなものをパラダは欲しがりますかね?」

「そりゃ高い金で売れるものだと思っているんだから、高く評価しているのだろう」


勝った勢いもあって、みな楽しげだ。



 さてすぐに差し押さえしないとなると、今回勝った徒弟たちはすぐには金を受け取れないことになる。


まだ訴えていない他の徒弟のために待たせるのは気の毒だ。だいたい彼らが率先して面倒なことをしてくれたおかげで、今回の勝訴がある。


だから差し押さえを後回しにする分、商会でとりあえず負担してしまおうかと思う。


実は差し押さえで口座に現金がない場合に取り立てられないリスクはあるが、300万くらいで、少しくらい取りはぐれても、商会としては大した痛手でもない。むしろ信用の方が重要だ。


さすがに差し押さえ手続き分の費用はもらうが、ほとんど満額で買い取ることにする。




 さっそく勝訴した徒弟たちに話す。


「無事に勝訴した。君たちの努力の結果だ」

「いや、シルヴェスタさんに助けてもらわなかったら、とてもここまで来れませんでした」


みんなにこやかで喜んでいる。


「それでなんだが、ちょっとこの後に面倒なことがある」

「何ですか?」「言ってください」「僕らでできることであれば」

あのおどおどしていたオードルも何か自信が感じられる。


「実は代言人のカルターとの相談で、すぐに差し押さえしない方がいいことになったんだ」

「それはどうしてですか?」「パラダの口座から取れるんですよね」


「差し押さえすると、パラダは警戒してくる。もっとどんどん訴えようと思うのだが、警戒されると今回みたいに簡単には勝てなくなる」

「ああ、なるほど」「今回は簡単で拍子抜けでしたね」「じゃあ、それまで待ちますよ」


「それじゃあまりに君らに申し訳ないから、うちでこの債権を買い取るよ。ただし今回は差し押さえの手続き費用の分は出してもらう」

「いいんですか?」「取りはぐれるかもしれませんよ」「何か申し訳ないような」


「いいよ、君たちが勇気を出して、しかも面倒な訴訟を戦ってくれたおかげだ」

「ありがとうございます!!」


そういうわけで契約書を交わして、彼らの債権を買い取ることにした。


「それから、勝訴したことは話してもいいが、金を受け取ったことはしばらく黙っていてほしい。これから差し押さえすることにしておいてくれると助かる」


「わかりました」「じゃあしばらくこのお金は預金して使わないようにします」「あとの裁判も頑張ってください」



あの理不尽が片付きそうで、何となく晴れやかな気持ちだ。しばらくは無敵モードのような気がする。

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