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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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拍子抜けの裁判

 パラダ商会にひどい目にあわされた元従業員を炊きつけてクルーズンで裁判をしている。


彼らが原告となり訴状を出すと、裁判所から裁判通知を受け取った。俺がそれをパラダ商会の番頭に届けた。


それについて代言人のカルターに確認される。


「確かに受取をもらってきましたか?」

「はい、この通り番頭のサインを受け取ってきました」

「確かに番頭の方ですか?」

「はい、実は番頭が役所に呼び出されていて、その時に役人の方の前でサインしてもらいました」

「サインだけでも十分ですが、証人がいるのは実に素晴らしい」

「そんなに大事なものですか?」

「はい。裁判があることを通知していないと、こちらで裁判をしても『そんなことは知らなかった』と後でひっくり返されかねません。きちんと知らせておくことが重要なのです」

「あ、なるほど」


確かに相手に知らせることは重要なことだ。前世でも裁判所は特別な郵便を使っていた気がする。


訴訟前でも相手に何かを知らせるために、というよりはむしろ相手に知らせたことを証明するために内容証明やら配達通知やらがあった。




 裁判の少し前の日には原告のパラダ商会の元従業員たちが代言人のところに来て、裁判当日のことを相談する。


「裁判の当日はどうしたらいいでしょうか?」「何か作戦はありますか?」


「そんなややこしいことは考えなくて結構です。裁判官に聞かれた通りのことを答えてください。

前にも確認しましたが、訴状に書いたことはまちがいないですよね。それでしたら、その通りに話してくれればけっこうです」


「話す際の注意はありますか?」

「判事に聞かれると頭が真っ白になってしまう人がときどきいるのでメモを用意したり、事前に練習したりしておくといいでしょう」


それについては原告はその内容についても詳しく聞いていた。


「向こうは誰が来るんですか?」


俺に対してもパラダの番頭は上から物を言っていたくらいだから、彼らに対しては相当高圧的だったのだろう。


不安があるのはもっともだ。だいたい15歳の成人前の子も多いのだ。俺はおっさんだから阿呆が何か言っているとしか思わなかったけれど。


「それはまだわかりません。ただ相手が不規則な発言をしても裁判官に止められるだけですし、むしろ相手の印象が悪くなるだけです。


そんな発言があっても、愚か者が何か言っているくらいの気持ちで見ていてください。ひどいようなら私も止めます」


「負けたらどうなるんですか?」

「負けても裁判費用は取られますが、それ以外は取られません。20~30万というところでしょう」


その後も皆不安なようでいろいろ聞いてきた。俺も裁判は初めてなので、勝手がわからない。


前日は少し興奮して寝つきが悪かった。裁判中に眠いなどというのは避けたいのに。


翌日になり、代言人と馬車で新中心街の裁判所に向かう。クルーズン教会とはまた違った威容のある建物だ。




 しばらく待合室にいたが、書記官に案内されて時刻より前に法廷に入る。時刻間際になると判事が入ってきて席に着く。


だが相手のパラダ商会の者はだれも来ていない。いったいどうなるのだろうか。




 既定の時刻になり、判事は訴訟の開始を宣言する。そして

「パラダ氏側は来ていないようですね」

というと、書記官がうなづく。


それから原告側に訴状の陳述を促す。それは代言人のカルターが行う。


パラダがこの地で取引があり、預金口座も持っていることを確認する。


次に判事が欠席のパラダ側に答弁を促す。いないことを確認して終わりになる。


その後は証拠調べだ。メモ書きを提出してあったので、それが形式的に確認される。もうすでに見てあるらしい。


判事がその内容について、原告にいくつか質問する。オードルについてはやや踏み込んで聞いていた。途中で言いよどむところもあったが、メモや練習のおかげか何とかこなせたようだ。


あとは判事が次回の期日を指定して終わりになる。




 いつも「だまれ」と言ってくるバンディのような相手との言い争いが起こると思っていたが拍子抜けしてしまった。


これはパラダの戦略なのだろうか? 原告の方もかなり当惑している。不安になり代言人のカルターに聞いてみる。


「相手が欠席してどうなるんですか?」

「これで勝ちですよ」

「へっ?」


思わずおかしな声を出してしまった。


「裁判に欠席して、さらに何も意思表示しないということは、相手の言い分を全面的に認めたことと同じです。ですから事実については裁判所は原告の出した通りを認めます」


「金額については裁判所が判断するので、満額ではないかもしれませんが、ただ大半は取れるでしょう」


カルターが前に言っていた「簡単に終わるかもしれない」ということの意味も分かる。


あれだけさんざん難癖をつけてきたパラダ商会が、クルーズンの裁判所となると何もせずにあっさり負けになってしまった。


これがあったから裁判通知が相手にわたっていることが必要だったともいえる。




 実際に次の裁判期日では、裁判官はこちらの原告の勝訴を言い渡した後、ほぼ満額の300万に近い支払いがパラダにたいして課された。


判決の理由はやはり断りなく欠席したため、原告の主張が全面的に認められたことだ。


原告と代言人とで勝訴を祝う。紙に「勝訴」と書いて上に掲げて、裁判所の前を走りたいほどの気分だ。





 家に帰って、すぐにクロを抱き上げる。いつもの癒しを求めてではなく、単に喜びを表したいからだ。


持ち上げたり、膝にのせて撫でまわしたりする。クロもこちらの腕に口の端をなすりつけてくる。どうもにおい付けらしい。


ただ30分以上になっていい加減疲れてきたのでやめるとまだ続けろとすり寄ってきた。


仕方ないなあと抱き上げると、クロは甘噛みしてきた。まだ遊び足りないらしい。


ただこちらは疲れてしまったので、エサを出して気をそらすことにする。それを用意している間もすり寄ってくる。


エサを出したら、そちらの方がいいみたいで、もうあんたはいいよという態度だ。


なお一部始終を神はうらやましそうに見ていた。


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