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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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(パラダ)裁判の通知を受け取る

 私はパラダ商会の番頭バンディ。シルヴェスタから引き継いだ行商の統括をしている。


連日、役所のスミスに呼びつけられている。郵便はどうしたとか、行商はしないのかとか、いちいちうるさくて敵わない。


だが下手に逆らうと、検査が入り、商売を休まないといけなくなりかねない。




 ところでこの前、スミスのところに出頭したら、シルヴェスタが来ていた。


そしてうちを訴えるとの通知を渡される。さらには受け取りのサインも求められる。


スミス氏の手前、あまり無茶なこともできず、しぶしぶサインする。ところで通知文を読むと裁判地がクルーズン市なのだ。


これは商会の一大事だと押っ取り刀でお店に駆け付けたいのだが、こういう時に限ってスミス氏のお説教が長い。


いやもう本当にお説教なのだ。役所が商人を説教するのもおかしな話だと思うが、実際そうなっている。


だからもちろんパラダ様は来たがらないし、クレムも来ない。こういう嫌な役は私に回ってくる。




 しびれを切らしてようやく解放されると、駆け足で商会に戻り、息を切らせてパラダ様に通知を渡し、報告する。


「さきほど、役所のスミスのところに出頭したところ、シルヴェスタが現れ、こちらの裁判通知を渡してきました」


パラダ様は不愉快そうに受け取る。しかもこういう時に限ってクレムとモナプも同席している。暇なら役所に一緒に来てくれ。




 パラダ様は通知を一瞥すると、フンと言って、通知を投げ出す。


「ここは子爵領。クルーズン伯爵が容喙する場ではないわ」

「まったくでございます」

「シルヴェスタは一体何を考えているのやら」


クレムとモナプがお追従を言う。だが2人の無能ぶりはもはや身に染みている。シルヴェスタがそんなにすぐにわかることを間違いをしでかすのだろうか。


社屋で判断するのもどうかと思うが、あれだけ立派な社屋を、わずかな期間で築き上げた者が、そんなにつまらないことを考えるものなのかと思う。


「しかし、いちおう法律の専門家の意見も聞いておいた方がよろしいのではないでしょうか?」

正直逆らってもいいことはないと知っているが、商会自体の存続の危機のような気もする。


「どうせ裁判に負けたところで、向こうは取り立てる方法もないのだからと放置しておけばよい」

「さすがパラダ様」

「バンディ殿も気の回しすぎですな」


「だいたい、クルーズン伯爵が何を言おうと、ここは子爵様のご領地だ」

「まったく陛下の下された領地をなんと考えているのか?」

「子爵様について行けば、将来まで安泰です」


それはそれでもっともな気もする。だが本当にそうなのだろうか? シルヴェスタというのは子どもなのにあまりに用意周到すぎる。


こちらがどんなに難癖付けてもすべて跳ね返してくる。商売だって実績を考えればどう見てもうちよりはるかに優れている。




 恐ろしいと思ったのはずっと前にシルヴェスタから引き継いだ行商人が言っていたマニュアルというものについてだ。


なんでも商売の方法を印刷物にして徒弟クラスにまで読ませていたらしいのだ。これはかなり驚異的だ。


うちは手代はもちろん全員読み書きができるが、徒弟クラスとなると怪しい者も多い。


さんざん辞めさせてきたが、とても同じだけの能力の者は採れなかった。後から採った者ははるかに劣る者ばかりでとにかく問題を起こしていた。


最近の若い世代の識字率は上がってきているとはいえ、そんなに多数の識字者がいるということはシルヴェスタが意識的に教育していたのだろう。


そうすることで、シルヴェスタ商会では半年でよその手代並みの働きをする者もいたというのだ。


あれだけの業績を上げたのがその結果だとすれば、恐るべき用意周到さだ。もしかすると恐ろしい相手を敵に回してしまったのではないか。


「パラダ様、本当にそうでしょうか? シルヴェスタはいつもうちの裏をかいてきます。何か恐ろしい考えがあるのではないでしょうか?」


「あんなガキが何ができるというのだ! まさかクルーズン伯爵とて、うちのご領主様と戦争をするわけでもあるまい。

裁判所にそもそも相手にされるかどうかも怪しいし、向こうが勝ったとしてもしょせん空判決だ」


そう断言されるとそういうものかと思えてくる。しかもこれ以上逆らっても、どうせまた後でどやされるだけだ。


いちおう警告したので、それでよしとする。本当にいいのかどうかわからないが、ここは仕方あるまい。




 受け取りのサインを書いたことを報告しておいた方がいいのかもしれないが、またどやされるのも嫌なものだ。


しかもお追従の2人も何か嫌味を言ってきそうだ。まあ放置しておくほかないだろう。




 そういうわけで商会としては何の対応もとらないことになった。不安だ。本当に大丈夫なのだろうか?


そうは思いつつもリストラで人が減った分、仕事が忙しくなっていて誰かに相談に行く時間もあまりない。


しかもこの町だと法律に詳しい者もいないのだ。いや実は領都に行ってもそれほど多いわけではない。


それに引き換え、クルーズンは多数の法律家がいる。シルヴェスタが法律家に相談していたら……。不安は募る。


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