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25. シンディとマルコの遭難(上)

事件が起きます

 シンディとマルコが遭難してしまった。はじめは誰が大きいカブトムシをとれるかの争いだった。


8歳の夏のことだった。シンディが大きいカブトムシを持ってきて俺たちに見せびらかした。


「こんなの見たことないでしょ」


俺はすごいとか、うらやましいとかよりも、女の子っぽくないなあというのが感想だった。


友達付き合いしているのは男の子ばかりだからそうなるのかもしれない。


ところでマルコの方は、いつもはクールなのに何かうらやましそうだ。例の収集癖のせいだろうか。


「どこで捕まえたの?」


対抗して捕まえに行くつもりなのか。


「北の森の中よ」


村の周りは森だらけだ。未開墾の場所はほとんど森になっている。


大人たちには森の奥に入ることは禁じられていたが、集落に行くにしてもクラープ町に行くにしても森は通らなくてはならない。


もっとも子どもだけで半日はかかる街に行くことはめったにないが、森に行くこと自体はいつものことだった。そして森の入り口と奥の区別はあいまいだった。




 フェリスも童心に帰ってカブトムシを取りに行くことになった。


一つにはシンディに取れるものなら取ってきてみなさいとばかりにはっぱをかけられたこともある。


ここは日本での知識を総動員して……と思ったが、カブトムシの捕まえ方など覚えてはいない。


樹液に群がるのでそれをさがすとか酒を木に塗るなんてあったような気もする。朝夕の暗いときの方が捕まえやすかった覚えもある。


もちろんあたりが暗い時間に森に入ることなど子どもには許されていない。




 だがホールを使えば明け方に森に行くことはできる。ロレンスからホールを使わないようにと言われているが、さいわい寝室は別である。


ロレンスは朝が苦手なのか、明け方に少しくらい音を出しても目を覚まさない。ホールを使ってこっそり森に行くことはできる。


前日の昼のうちに森からホールを使ってクロのところに出る。もちろん出口にロレンスがいないことを確認してからだ。


この辺はうまくできていて、ホールに入って真っ暗な空間を体感で1mほど歩いて今度はクロの前に出るときに、いきなり飛び出さずに空間の出口の外のことをうかがうことができる。


クロのところから元のところに帰るときも同じだ。これは敵相手のときはいかにも便利に使えそうだ。そして明け方に早起きしてホールから森に戻る。




 やはりカブトムシは夜行性で夜や明け方に集めやすいようだ。樹液のところにうじゃうじゃいる。

大きめのをいくつもとってかごに入れていく。あとはロレンスが起きないうちにホールで教会に戻ればいい。


ホールで戻るとこちらも夜行性なのかクロは起きていた。クロはかごの方を見て反応する。


かごをクロの前に置くと爪を立ててちょいちょいと猫パンチをする。


カブトムシに気の毒なのでクロから遠ざけるが、クロの方はいじり足りない顔で見ている。




 翌日、シンディとマルコが寺小屋に来る。授業が終わった後にロレンスが横眼で見る中、2人にカブトムシのかごを見せる。2人はどんな顔をするか。


「じゃーん。すごいだろ?」

「なに? これ!」


これにはシンディの方が目を丸くしてかなりうらやましがる。


だいたいはじめフェリスはカブトムシを触るのもおっかなびっくりだったのに、なんでこんなにいるのかと思う。


マルコの方は割とクールだが、シンディはなんとしてでもあれより大きいのを見つけるといきまく。ただクールに見える実はマルコも収集癖はあるのだ。


「えーい、甘ちゃんのフェリスでもあんなのを取れたのだから、何としてももっと大きいのをとる!」

「しかしどうすれば?」

「いい、さっそく今日から森に行くわよ」

「はい、わかりました」

「フェリス、あなたは来なくていいからね。素振りでもしていなさい」


こんな調子でいつものルーティンの釣りや花摘みや昼寝をすっぽかして北の森に行ってしまった。


ところが2日しても3日してもそこまで大きいものは捕まらない。一向に捕まえられない2人に焦りがあったのかとうとう事件は起こってしまった。




 シンディとマルコが薄暗くなっても帰らないのである。レナルドとマルクがそれぞれ教会に来て子どもがどうしているか聞きに来た。


いくら熱中しているにしてもシンディは稽古をすっぽかしたりしないし、マルコもそんなに遅くまでは外にいない。


どこにいるのか心当たりを聞かれ、たぶん北の森でカブトムシを探していると答える。これに対して大人たちの顔に焦りが見える。


「まずいな」

「まずいですな」

「どうまずいの?」


俺は聞き返す。


「この後、天気が崩れるかもしれん。濡れないところにいればこの季節なら大丈夫だが、濡れると危ない」

「夜は野犬も活動的になります。襲われなければいいのですが」

「あそこは谷があって、迷うと上がってこられないかもしれません」


ロレンスまで加わり不安を掻き立てる。


「だから森の奥には行くなと言っておいたのに」

「今は言っても仕方ありません、探しに行きましょう」


3人は自警団にも声をかけ、近くの村人にも頼んで10数人で森を探しに行く。レナルドとマルクはどちらも一家で参加だ。


ロレンスはもちろんいつもの法衣から着替えている。


薄暗くなってきたのでたいまつや魔法のランプを持っていく。ランプは魔人が出てくるわけではなく、魔石で光るものだ。


それ以外に野犬が出るかもしれないので、短剣も必要だ。俺も2人のいそうな場所を知っているのでついて行く。


「いいですか。決して我々から離れないようにしてください」


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