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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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裁判の手続き

 パラダ商会はうちからクラープ町北部の事業を奪い、従業員の待遇はそのままと言っていたのに、ちっとも守らなかった。


ペイのない仕事をさせたり、無茶苦茶な歩合制を導入してみたり、思い付きで首にしたりとやりたい放題だった。


いまここクルーズンには逃げてきた者たちがいる。



 彼らの受け取るべき給料や賠償を取り返したい。それは俺が領主に強要されたとは言え、事業を手放したことに端を発するからということもある。


またブラック企業などというものは存在すべきでないと思うからでもある。そんなわけで直接当事者にはならないものの、代言人の費用など手助けすることにした。




 はじめは彼ら原告も訴訟に尻込みしていた。だいたい若い子ばかりだ。いや俺だって外見もこの世界での年齢も若いが、中身はおっさんだからそのように言う。


やはり若いと気後れして、強く主張できないところはある。だから俺がたきつけて、訴訟に踏み切らせることにした。



 いまは代言人のカルターの事務所で初めに訴訟する者たちが相談している。


「とにかく、勤務と報酬についてなるべく思い出して書き出してください」


実はこういうことになることを予測して、あらかじめ働いた時間についてメモを残させていた。もちろん報酬についてもだ。


給与明細があるわけでもないので、こういうメモはますます重要だ。ジラルドに指示して、メモの仕方を印刷までして、準備してあったのだ。


元ブラック企業の従業員をなめてはいけない。ブラック企業もそれへの個人レベルの対策も、日本はこちらよりずっと進んでいる。



 一方的に首だとされて未払いの賃金や、ペイもないのに突然ふられた仕事の分や、一方的に待遇を変えられた分などどんどん計上していく。


もちろん脅されて買わされた髪飾りや食べ物の分なども入れていく。


「食べてしまったものでもいいんですか?」

「いいよ。いいよ。それが本当に脅されたなら」


そんなやり取りで積みあがっていく。




 客にいやらしいふるまいをしたと糾弾されたオードルという者もいる。パラダの番頭バンディがいい加減な事情聴取で思い込みで首にしてしまったそうだ。


彼も訴訟メンバーだ。彼については名誉棄損分の損害も請求する。


彼の名誉のためにバンディに詰め寄って首になった者たちの分も、とうぜん未払いの給料と遅延損害金を請求する。



 未払い賃金を請求したにもかかわらず、首だから出て行けと言われた者もとうぜん請求する。


そんな調子でどんどん積みあがって300万を超えてしまっている。本当に取れるのかどうか心配になり、代言人のカルターに聞いてみる。


「こんな金額請求して大丈夫ですか?」

「取れるかどうかはわかりませんが、とりあえず主張をぶつけるだけだからいいですよ」

「はあ、そういうものですか」

「まあ、向こうが反論して来たら減らされるかもしれませんがね。ただあのメモはよかった。

どうやら向こうはいい加減でろくに記録もとっていないからこちらが認められる部分は大きいでしょうね」


メモはまさに日本のブラック対策ではよく言われたことだ。ブラック先進国でそういう技術は発達する。


ブラックを放置するとパラダみたいな無能で無茶苦茶するのがいつまでも上に居座るからなくした方がいいのだ。



「お宅の従業員はなんというかずいぶんと教育を受けた人が多いですね」

「ええ、うちは研修でかなり読み書きを教えています」

「そうですか。道理で。話が通じやすくて助かります」



「裁判になったらずいぶんと大変なんでしょうね」

「まあ相手によりますね」

「そんなにすごいところもありますか?」

「自分に都合のいい話ばかりして、都合の悪いことになるとどちらでもいいことに話を変えたりする相手もいます」

「まさにパラダ商会との交渉がいまそのような調子です」

「まあ、そういうのも慣れていますから」

「頼もしいです」

「ただ、原告は代言人である私には正直に全部話してくれないと、相手から不意を突かれて危ないことにもなりかねません」

「それは私からも言っておきます」

「そうしてください。裁判は戦いですから」

「長くなるとつらいでしょうね」


「いや、もしかすると、簡単に終わるかもしれませんぞ」

カルターが不意にそのように言う。


「え? それは、どういうことですか?」

「いや、すいません。特にうまく行ったらの話です。そうでなくてもこちらはメモがあります。相手がおっしゃるようにいい加減な者ならやりやすいですね」


簡単に終わるの意味は話してくれなったが、期待はできそうだ。




 カルターが中心となり、パラダ商会の元従業員が数人集まって訴状を作っていく。


そして中心街にある裁判所に提出に行く。俺も後学のために見に行くが、原告も数人ついて行った。



 提出時に書記官が少し戸惑っている。やはり事件が他領であるクラープ町であることのようだ。


その点はパラダ商会がこちらでも取引があり口座もあること、原告がこちらに住んでいることなどをカルターが説明して、いちおう受理された。



 しばらくすると裁判の通知がなされる。ただここでまたややこしいことがある。裁判があることを原告が相手に伝えないといけないというのだ。


日本なら裁判所がしてくれそうなものだが。もちろんここは異世界だし、しかも今回は、他領の事件というややこしい話だ。仕方ないのかもしれない。


そこでカルターから、この通知を必ず、向こうの責任ある立場の人間に渡すようにと言われる。


そして渡した印も受け取ってくるようにとのことだ。それは確かに言質を取らずに、向こうにいい加減なことをされたこともあり、なんとなくそれが必要と分かる。


「番頭ならばよろしいでしょうか?」

「ええ、それでけっこうです」




 番頭のバンディは週に何度か役所のスミス氏に呼びつけられているという。その時なら受け取らせやすいし、証人もできる。


ところでクラープ町にはギフトで帰るが、そうすると発行翌日に渡すことになりかねない。3日ほど寝かすことにする。


スミス氏には郵便をこちらで行うための仕込みですと言って、バンディが来る日を教えてもらった。

そして実際に呼びつけられたときに、裁判通知を手渡す。


「こちらをクルーズン市の原告から預かってきました。今すぐ確認して、こちらに受け取りのサインをお願いします」


バンディは嫌そうにしているが、スミス氏の手前、いつもの横柄な態度は取れないようだ。確認してしぶしぶサインをした。



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