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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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(パラダ)本家からの圧力と合理化

 私はパラダ商会の番頭バンディ。シルヴェスタから引き継いだ行商の統括をしている。


パラダ商会はいま4つの事業がある。元は街のお店だ。こちらは卸も小売りもしている。それからシルヴェスタから買い取った行商と郵便。


それから近隣の農家から野菜を買ってクルーズンに卸している。


毎度のことだが、多くの事業はさんざんだ。


行商はボロボロ、郵便は開店休業、不祥事を起こして役所に連日呼ばれ、評判が悪くなって街の店の方まで売り上げが悪い。


唯一の希望はクルーズンへ野菜を売っていることくらいだ。




 行商はほとんど儲からない。いやいちおうわずかに利益が出ていることにはなっているが、実は経理上の問題で本当は赤字だ。


中心街の店の人員が行商のカバーに入っているのだ。もはや行商事業自体やめてしまった方がいいのだが、領主様にお願いして買い取ったためにやめられないという。


もっともうちが投げ出すと、譲渡のときの条件でシルヴェスタが入ってくるから、中心街の店の利益がますます減るかもしれない。


行商事業の継続でうちは損して、住民も損して、シルヴェスタも損をしている。


行商人も暇だとはいえ楽しくなさそうだ。シルヴェスタから引き継いだ行商人はもはやほとんどいないが、わずかに残った者は「あの頃はよかった」とばかり言っている。


まったく誰にもいいことはない。




 郵便事業の方は役所のスミスがうちができないことを知りつついやみったらしく出してくるので、ぜんぶギルドに丸投げすることになる。


クルーズン冒険者ギルド支部のスコットはこの手の手紙の配達もしている。若い者なども使っているらしい。


ただギルドに頼むと値段が安くないのだ。特に南部から引き受けた手紙については南部の経費が取られているので、ギルドに頼むと赤字になってしまう。


だがもううちでは配達する能力はない。郵便事業自体を返上してしまいたいが、それは領主様の意を受けた役所が許してくれない。


赤字を垂れ流すことを続けるしかないのだ。





 パラダ様は領都ゼーランのパラダ商会の一家の分家だ。領主様と結びついているのも本来は本家の方である。


シルヴェスタの事業を買い取るときの3億の資金は本家やその付き合いのある金融筋から借りた。



 さすがにうちの不調がひどいので、本家や金融筋も嗅ぎつけてきている。何度か質問というより尋問の手紙が来た。


パラダ様も私に会うと領都にはあまり行きたくないとこぼしている。もちろんその後はお説教になるわけだが。


本家や金融筋の尋問にはモナプやクレムが何か理屈をつけて言い訳するわけだが、もはやむこうも騙せなくなってきている。


2人の理屈は私が見てもトンチンカンだし、だいたいモナプなどどちらの味方かわからない。金融筋から非難めいた質問が出る。


「シルヴェスタからの引継ぎ以来ずっと下方修正が続いている。商会長の責任をどう考えるのか」

「くだらない質問だ。従業員が働かないからいけない」


この調子だ。これでは何のために商会長がいるのかわからない。


行商は全部私に押し付けて、ゴマすりのクレムやモナプを取り立てて、いったい何の仕事をしているのだろうか。


シルヴェスタの方は何を聞かれても資料を操って答え、有能な部下もいて、きれいな社屋を整え、顧客に喜ばれて、事業をますます拡大している。


あれは元は孤児だったと聞いているが、こちらのバカ息子よりずっと優秀だ。



「なに、野菜の輸出があるから屋台骨は揺らぎませんよ」


確かにその通りだ。だがクルーズンへの輸出だってシルヴェスタも同じことはできるのだ。


もともとシルヴェスタは生産者からの購入はあまり得意でなかった。ぜんぶドナーティを通して仕入れをしていた。


だがいまはドナーティと合併しているのだ。生産者との付き合いもある。


もっともうちの仕入れ先は彼らとはあまりかぶっていない。村長やら集落の長やらとパラダ様は結びついている。


だがそれだってシルヴェスタがもっと高い金額で買い取ったらどうなるのかわからない。


長たちがパラダ様との付き合いでパラダ様との取引を継続したら、その下の生産者たちの損でしかない。


何かうちが絡むとみんな損している気がする。




 本家からは合理化しろと言われている。合理化と言えば聞こえがいいが、要するに人を減らして、少ない人員で同じ仕事をしろということだ。


仕事がきつくなるばかりで中にいる者にとってはちっともうれしくない。


実際に本家の者がきて、パラダ様に申し付けている。本家の大パラダ様は来ていないが、代わりに番頭が来ている。


「いいかげん、この調子では先行きが見込めない」

いや一応は借金を返しても黒字ではある。


「お前のところは人が多すぎる。もう少し少ない人員で効率的に仕事をするべきだ」

効率化と言えば聞こえがいいが、手抜きになるか、1人1人の負担が重くなるか、実は両方なのだ。


しかしまあ本家の番頭ともなると分家の主人を上から叱りつけられるらしい。

まあ金を持っている方が強いわけだが。


パラダ様はたいして反論することもなく、むしろ積極的に合理化を受け入れた。

だがそれを下の者に言い渡すのはやはり私の役目だ。嫌なことは基本的に下の者に回ってくる。


一緒にやってきた仲間に暇を渡すのはつらいが、それをしないとまたパラダ様から何を言われるかわからない。


さすがに行商人とは違い、お店の使用人の方はもう少しソフトな話し合いになる。


「お店の方のやりくりがきついので少し使用人を減らすことになった」

「いまだって仕事が楽でないのに、もっときつくなるんですか?」

「それで少しは給料は上がるんですか?」


仕事がきつくなるのはその通りだ。給料は上がるはずがない。だいたいこの商会で上がると思っているのだろうか。


クルーズンあたりの大商会では退職者を募集するときに退職金を増やしたりするという。もちろんそんな余地はない。


というより将来退職金は減るかもしれないから、今のうちにやめた置いた方が得だよとにおわせるほどである。


とにかくさんざん突き上げられながら、最後は逃げるようにして説明を終える。



 翌日さっそく手を挙げたのは仕事のできる手代だ。さらにそれを慕っていた徒弟がついて行く。


実は後になって、このときにやめていた方がよほどましだったことがわかる。


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