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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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90. パラダの元従業員たちを炊きつける

 クラープ町北部の事業はパラダらに取り上げられたが、パラダらはちっとも経営ができていない。早く取り返したいので訴訟をしようかと考えた。


パラダの経営では従業員も住民も大迷惑だ。だが、おそらく赤字とはいえ、このままでは本当におしまいになるまで何年かかるかわからない。


はやくどうにかしなければならない。そこでパラダがクルーズンと取引があり預金口座もあることに気づき、元従業員に対する不払い分について訴訟して、クルーズンにあるパラダ商会の預金を差し押さえようと考えた。


法律の専門家である代言人と相談したが、可能性はあるという。


そこで幹部会議に諮る。


「そういうわけで、代言人も試す価値はあると言っているんだ」

「それは面白そうね」

「取り返したら、合同商会の行商は町全域になるね」

「実際どれくらいうまくいきそうなんだ?」

「うまくいけば、パラダから事業を取り返せますね」

「北部の営業取り返さないとな」

「あの者が営業しているなど住民の不幸です」


みんなわりと乗り気だ。ただうまくいくかどうかだ。


「うまくいくかどうかについては全く新しいことなんで未知数なんだ」

「それは怖いわね」

「実際どうなんだ?」

「うまくいかない可能性もあると……」

「でもやってみないとな」

「まあ、それはいいんじゃないですかな。失敗しても裁判費用が掛かるくらいで商会からみれば大した額じゃありません。むしろ手間の方が問題で……」


そう、その通りだ。お金の方は失敗してもさほどはかからない。せいぜい数十万だろう。とりあえずは元従業員の負担だが、もし負けたら何らかの形で大半は商会で負担しようと思っている。俺が譲渡してしまったことへのせめてもの償いだ


ただ手間の方が問題だ。ひどい目にあわされた元従業員たちが動かないといけない。代言人と話したり裁判所に行ったりする手間について手当を出すわけにはいかない。


「そうなんだよな。問題は手間の方で、元従業員たちが動かないといけないんだ」


それは悩むところだが、後回しにすることになった。





「ところで、そのパラダの口座に金はあるのか?」


そういう疑問はもっともだ。ただ何となく予感はある。


「連中はクルーズンを敵視しているらしい。物を売りつける先ではあるが、購入はしない可能性が高い。そうすると口座の方もブタ積みにしてあって、ときどき金貨で運んでいる可能性が高い」





「初めに戻るけど、そもそも本当に口座はあるのか?」


確かにそれは問題だ。おそらくあるだろうが、裁判した後にないなどということになれば、勝ったとしても勝訴判決だけでとりっぱぐれになる。


確実にあることを確認しなければならない。あらかじめしなくてはならないことを整理する。


まずパラダ商会の預金口座がクルーズンの商業ギルドにあることを確認する。


それからいつ振り込まれるかを確認する。


最後が面倒で元従業員たちを炊きつけることだ。さすがに代言人と話したり裁判所に行くのに給料は出せないが、代言人の費用は何とか補助できないかと思う。


「代言人の費用だけど、何とか商会から出せないかな?」

「それなら、代言人とうちで顧問契約すればいいですな。それでうちの者が安く使えるようにする。まあ、うちの事業に絡んだ訴訟ですから大丈夫でしょう」


アーデルベルトのそのアイディアで行くことにする。





 まずはパラダ商会がクルーズン商業ギルド口座を持っていることはほぼ間違いないだろうが、確かにあることを確認しなければならない。


そこで適当な偽名を使い、振り込みを行うことにする。ギルドの窓口で係の人に声をかける。


「振り込みをしたいのですが、よろしいですか?」

「はい、どちら宛てですか?」

「クラープ町のパラダ商会です」

「あら? これは……」

「どうかしましたか?」

「いや、パラダ商会はゼーラン町とクラープ町になっておりまして……」


領都にある本家と一緒の口座ということか。これはもっと面白いことになりそうだ。


「ふだん、クラープ町の方としか取引していないので忘れていました」

「わかりました。こちらの書類にご記入ください」


名前はとりあえず「クラーク・ケント」とでもしておこう。あまり多額でも無駄だし、少額でも疑われそうなので1000ハルクだけ振り込む。


書類と1000ハルクを出すと、係りの人は何やら処理をしていた。ともかくこれでパラダ商会の口座があることが確認できた。





 次に知りたいのはパラダの取引先の各商会からの金がいつ振り込まれるかだ。


さすがにブリュール氏に俺がパラダと敵対していて差し押さえたいから、差し押さえやすい日を教えてくれとは言えない。


ただ多くの商会が支払いをする日くらいなら聞くことはできそうだ。ブリュール氏に会った時に聞いてみる。


「慣習として支払いというのはいつ頃が多いのでしょうか?」

「それは月末ですな。たいていはその日になります」


おそらく取引しているのはブリュール氏だけではあるまい。すると月末に何人かがパラダの口座に振り込む。


オンラインで振り替えできるわけではないから、パラダの番頭か手代あたりが来て金貨を持って行くのだろう。


すぐにとは限らないし、高額だと移動しにくく、残高がある可能性は高い。


これで差し押さえは月の初めと決まった。





 あとは元従業員たちに訴訟を起こさせることだ。


ただ訴訟などしたこともない者たちだ。いや元いた世界だってたいていの人は訴訟などしない。


弁護士などは気軽に訴訟することもあるらしいが、ふつうは躊躇する。


案の定、「もういいですから」などと言っている。向こうでさんざんひどい目にあわされて、もう関わりたくないというのもあるらしい。


ただこちらの都合もあるが、彼らだってあんなのにやられっぱなしで放置していいはずはない。


「いいかい、権利は主張しなきゃいけないんだ。権利が侵されることを放置していたら、人格まで侵されてしまうよ」

「でも、みんながかってを主張していたら、協働などできないんじゃないですか?」

「自分と相手と権利を主張し合って、妥協できるところを探すんだ。

妥当な範囲を超えて、一方だけが権利を主張して押し通してはいけない」


そう言うと、何人か反応している。


「でもたいていの場合は力の強い者が弱い者に一方的に都合のいい論理を押し付ける。

今回はパラダの力が強くて、そして君たちの当然の権利を蹂躙したんだ。

それを跳ね返さないと、ずっと食われたままになってしまう。

いいかい、そんなことがまかり通っていいなどということになったら、君たちだけでなく、みんなが迷惑するんだ」



目の前にいるのは徒弟で俺と大して変わらない子もいるが、数歳年上も多い。


だが俺の中ではもう50年以上生きているから、教えるような物言いになってしまう。しかも前世知識があるし。



「そうだな。あんな商会が続いたら、弟や妹たちもひどい目に合うな」

「俺たちをひどい目に合わせた商会に目にもの見せてやろうぜ」


まだ数人だが、盛り上がってくる。闘うのは1人でしない方がいい。数を頼んだ方が、もちろん勝ちやすい。


それから法律の知識だ。法律は弱い者の味方ではない。知っている者の味方だ。


もちろんかなりのおぜん立てはしたが、直接は俺がタッチせずに彼らに任せて訴えさせることにした。


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