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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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(パラダ)事業の惨状とワンオペと唯一の希望

 私はパラダ商会の番頭バンディ。シルヴェスタから引き継いだ行商の統括をしている。


 とはいえ、行商事業など、もはや当初の3割以下だ。3割減でなく、7割以上が減っている。もはや壊滅に近い。


一緒に引き継いだ郵便事業もめちゃくちゃだ。


あまりに郵便事故が多く、賠償ばかりで赤字続きなので、潰すつもりでつくった別商会に事業を譲渡したが、役所の意向で譲渡を無効にされてしまった。



 シルヴェスタから引き継いだ従業員たちは次々辞めていくので、新たな者を採用した。


ところがその連中が押し売りをしたり、行商先の広場で客に絡んだりと散々だった。


それをとがめる役所のスミスはろくでもない待遇ではろくな者が来ないのは当然だと言い放つ。


まったく最近の若い者は苦労を厭うので扱いにくい。


「シルヴェスタが商売しているときは本当に何もなかった。

苦情もなかったし、通報もなかったし、郵便事故もなかった。本当に何もないというのは、素晴らしい商売をしていたのだと今になってよくわかる。

お前さんの商会ではトラブルばかりだ。何でワシがこんな苦労させられるのだ?」


スミスは心底嫌そうに言ってくれる。こちらだって嫌なのだが。




 さて行商や郵便でさんざんお店の評判を落とせば、とうぜん街中にある店舗の方も振るわなくなる。


いちおう卸売りもしていて、そちらは付き合いもあるからすぐに減るものでもないが、小売りの方はさんざんだ。


北部でうちの行商人に嫌な目にあった住民たちが、うちを使うなと言いまわっているそうだ。


こんな調子ではそのうち卸しにも影響しかねないかと思う。




 行商事業でシルヴェスタは月250万の利益があると称していた。だが実際にうちに引き継いだ月はその半分ほどだった。


ところが今の利益は30万ほどになっている。パラダ様から利益について聞かれたときにそれを答えるのがつらかった。


「ときに、いま行商事業ではどれほどの利益が出ているのだ?」

「はい、30万です」

「30万というのはどういうことか? 1日30万か?」


まさかそんなことはあり得ないので、そうでないと答える。


「それでは週に30万か?」


引継ぎ当初はそれくらいあった。だが、その時からはるかに縮小している。居心地が悪いが答えざるを得ない。


「いえ、月に30万です」

「30万? お前の月給でも30万は超えているのではないか?」

「はい。その通りです」


行商人を何人も使って30万しか利益がないのでは、よほど商売がうまくないとしか言いようがない。


「一体何をしているのだ!」


そう言われても仕方がない。だがもう評判を落としすぎてどうしようもないのだ。


あちこちの広場から来るなと言われている。何とか残っている広場でも評判が悪すぎて客がつかない。本当に客が来ないのだ。


だから売れ残りが多くなり、もはや持って行く量もかなり減らしている。そうすると今度は何かの機会に物が足りなくなったりする。


実は客が減ったので、一度に行商に向かう行商人の数も減らしている。


シルヴェスタのときは遠隔地などで客がよほど少ないときは2人、それ以外は3人だったそうだ。だが今うちは基本的に1人だ。


それを決めたときの行商人とのやり取りもいろいろ腹が立つ。


「これ1人でやれというのはきついですよ」

「仕方がないだろ。2人では利益が出ないんだ」

「シルヴェスタさんのときは3人だったんですよ」

「シルヴェスタはシルヴェスタ。うちはパラダ商会だ」

「ワンオペは危ないんですよ。万引きにだって対応できないし、商品の説明や返品を求められたら、支払いの客を待たせることになるし」

「万引きなどないように店員が注意するべきだろう。説明なんぞする必要はない。返品などもってのほかだ。金だけとってくればいいんだ」

「そういうことをして評判を落としているから売り上げが伸びないんです」

「何度も言うが、お前たちは黙って上役の言うことを聞いていればいい」

「1人では郵便だって引き受けられません」

「あんなものはもう引き受けない方がいいんだ」

「役所との約束があるでしょう」

「だまれ! だまれ!」


けっきょくこちらの方針を押し通したが、その時も何人か行商人たちが辞めていった。




 売れ残りが出れば、街の本店で仕入れ値より低い見切りで売るしかない。その損も合わせると、結局利益は30万となってしまう。


いや30万の利益が出ているというが、実はそれも怪しいのだ。私はほとんど行商事業につきっきりだが、私の給料は行商事業では計算されていない。


それらも合わせると実は行商事業は赤字ではないかと思うのだ。


「もはや行商事業は手放してしまった方がよいのでは?」


そう言うと、パラダ様は苦虫をかみつぶして言う。


「ご領主様にお願いして、シルヴェスタから取り上げた事業を、『できませんでしたからやめます』なんて言って投げ出せるか!?」


それでは赤字垂れ流しか。さらにシルヴェスタの事業を買い取るときの3億は領都の本家やらそれと付き合いのある金融筋に借りている。


その利子は5%で年に1500万だ。それらが全部降りかかってくる。いちおう他の事業の黒字があるから耐えられないわけではない。


「そ、それでは、行商事業は縮小することでよろしいですか?」

「そうだ。そうしろ」


もはや儲からない事業など、形だけ残して縮小し事実上ないものにしてしまえばいい。住民の不便など知ったことではない。


どんどん行商人を切って行けばトラブルも少なくなるだろう。私の仕事もどんどん減っていく。





 こんな商会だが、一つだけ利益の出ている商売がある。クルーズン市への野菜や特産物の卸売りだ。


クルーズン市は人口が多く、大消費地であり、近郊から多くの物資を購入している。


そこでクラープ町の分家のパラダ商会は野菜や農産物を中心に、領都の本家はもう少し保存のきく特産品を中心に、向こうの業者に卸している。



 本家も分家のパラダ様もご領主様の意向に従い領都を最上としているので、クルーズン市の製品は買わないが、卸先としては活用している。


その販売代金はクルーズン市の商業ギルドの預金に振り込まれる。年に何度か護衛をつけて取りに行くのだ。


このときに入る金貨が馬鹿にならない。というより街の店舗まで左前では、もはやこれ以外にまともに稼げる方法はないかと思う。

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