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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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(パラダ)クルーズンに行ったり、社内預金対策したり

 私はパラダ商会の番頭バンディ。シルヴェスタから引き継いだ行商の統括をしている。


とはいえ、もはや行商事業などボロボロだ。あちこちの行商先の広場を追い出され、店を出せるのは当初の半分以下になっている。


残っている行商先も売れ行きはよくない。商品が高いからと言ってみんな避ける。領都の老舗だったはずが、今は評判がさんざんだ。


付随している郵便事業も事故ばかりで受け取っている料金より賠償の方が多いのではないかという始末だ。


それだけでなく、行商で評判を落としたからか、街中の店舗の方も売り上げが減っているのだ。




 さすがにシルヴェスタからの譲渡に問題があったから追及しようということになった。


それはいいのだが、それを実際にするのは私だ。パラダ様はもちろん、クレムもモナプも行こうとはしない。


そこでさんざん相手を追及したが、取り付く島もない。向こうに問題がないという証拠ばかりつきつけられる。



 はじめはジラルドという者が担当していたが、もっと上を出せというとシルヴェスタが出てきた。ただシルヴェスタはいまはクルーズンにいて何度も出てきたくはないという。


「ジラルドは合同商会の取締役で、決して軽輩ではございません」


だがジラルドと話していても取り付く島もないのだ。一方的に正論をまくしたてられる。


実は交渉相手がシルヴェスタに代わったところで結論は変わらないのだが、上と話して同じ結論ならパラダ様に言い訳もできる。


「私が毎回クルーズンから出てくるなど、どれほどの負担かわかりますか?」


それはそうだろう。だが散々ひどい目に合わせられているのだから、それくらいの意趣返しはしたいのも事実だ。


「どうしても私が出る必要があるなら次回からは交互にしてください。今回がクラープ町なら、次はクルーズン。その次はクラープ町」


シルヴェスタから条件が持ち出される。クラープ町の問題をクルーズンで話し合うのも何かおかしな話だ。




 だが出張もよさそうな気がする。クラープ町にいても、主人のパラダ様は怒鳴りつけるだけだ。


いつの間にか上司になったクレムとコンサルのモナプは人を小間使いくらいにしか思っていない。


外にいる方が気楽だ。家でも妻も子どもも必要最小限の会話しかしていない。


実はウドフィ様も役所では浮いているのは知っている。言うことがほとんど的外れで、部下も困っているのだ。それは本人の居心地も悪かろう。




 けっきょく、シルヴェスタにはもったいぶって、あちらにありがたがらせて、ウドフィ様とも納得して、交互での会談に同意した。


これでときどきはあのうっとうしい3人とも会わずに済むと思うと、心が晴れる。



 さらに言えば議論のときいつもそうだが、シルヴェスタは資料を大量に用意して、いちいちそれを見ながら答えてくる。


あれがうっとうしくて仕方ない。あれでは反論できない。だがクルーズンでの話になれば、シルヴェスタもいちいち資料を持ち歩くことができないだろう。


それはうちもそうだが、どうせうちは資料など持たずに文句を言っているだけだ。




 そこで先日は、クルーズンのシルヴェスタ商会に行ってきた。なんとも広い社屋で、さらに調度も行き届いている。


案内された会議室の椅子なども座り心地がよく、こんなにいいものがあるのかと思うほどだ。


多くの人が出入りして、事業が活発な様子がうかがえる。うちが老舗などと言ってもこれでは勝負にならない。


いやそもそもクラープ町の旧本社からして、うちより立派だったのだ。




 しかも相変わらず、大量の資料を用意して、いちいちこちらの言うことに反論してくる。結局今回も収穫なしだ。


ただウドフィ様は役所からずいぶんな出張費をせしめて来たらしく繁華街で豪遊している。私の方はまあいちおう商会として格好のつく程度だ。



 町に戻るとまたなんともせせこましく薄汚れた商会がある。ただシルヴェスタほどではないが、以前はもう少しきれいだったと思う。


あのシルヴェスタの事業を買ってしばらくしたころから、だんだんすさんできた。





 ところで最近、手代たちが店の不調をかぎつけているらしく、おたなに預けている預金を少しずつ引き出している。


もっともうちがうまくいっていないことは、町の子どもたちでも知っている。


むしろ気づかないとしたら、仕事を任せておいていいのか、能力を疑いたくなるほどだ。


とはいえ、預金が引き出されるとうちの運営資金も危なくなる。




 このままだと資金がショートしかねないので、主人のパラダ様に報告する。


「実は手代あたりが、うちの不調をかぎつけて、お店に預けている預金を引き出しています」

「不調とは何だ!」


パラダ様から叱りつけられる。こうやってすぐに怒鳴りつけられると、報告自体をしない方が楽な気もしてくる。


「領都に起源をもち、町の老舗であるパラダ商会は永遠に不滅です」

クレムが叫ぶ。クレムは手代から番頭を経ていつの間にか筆頭番頭になっていたが、こういうくすぐりで上に行ったのか。


「とにかく引き出そうとする者には引き留めを行うのだ。そうだ残高を成績にしろ」


そんな引き留めをすればするほど、危ないと思われそうな気もする。とはいえ、だましてでも引き留めないと、本当に運転資金が足りなくなりそうだ。


「商会がつぶれるわけがない。みんなで支えるぞ」

みんなの前で、そう言ってしまった手前、仕方なく率先して預金をする。なんとなく上の言うことをよく聞くものが、預金をしてくる。


ところが仕事にできる者に限って、「子どもの独立資金が必要で」「家を増築しようかと」などともっともらしい理由をつけて引き出してしまうのだ。



 しかしどんなもんなんだろう。お店が本当に立ち行かなくなったら、私が声をかけて預けた者からは恨まれる。


むしろ引き出してしまった者からは、なんとも思われないだろう。どちらの方がよいのかわからない。


こんなことで悩むのも、お店がどうにかなりそうだからだが、ダラダラ血を流していても、赤字幅はさほどでもなく、まだ数年は大丈夫なはずだ。

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