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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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(パラダ)シルヴェスタの行商をチェック

 私はパラダ商会の番頭バンディ。シルヴェスタから引き継いだ行商の統括をしている。


とはいえ、もはや行商事業などボロボロだ。領都に起源をもつクラープ町の老舗であるパラダ商会がうまくいかないなどということはあり得ない。


おそらくもともと譲渡を受けた事業に欠陥があったのだろうとクレムが言い出し、モナプもそれに同意した。そこでなぜか私が役所のウドフィ様とともに、シルヴェスタ・ドナーティ合同商会に申し入れを行った。



 だが相手をするのはジラルドという軽輩者だ。まったく馬鹿にしている。


こちらが何を言っても一方的に事実を並べて反論されるだけだ。取り付く島もない。さすがに交渉相手として困るので、もっと上の者を出すように申し入れた。



 それで出てきたのはシルヴェスタだ。だがシルヴェスタもやはりこちらの言うことは聞き入れない。なんでこの商会はこんなに頑ななのかと思う。


シルヴェスタは譲渡前にパラダの譲渡した地域で月に250万の利益が出ていたという。だがうちが継承した初めの月はその半分ほどだった。いまはさらにその3分の1ほどだ。



 シルヴェスタは複式の簿記があると言って、帳簿を見せてくる。複式簿記というのはクルーズン当たりの大商会では使っているらしい。


だが私は見方がわからない。見方がわからないというのも悔しいので、こんなものでは証拠にならないと突っぱねる。


するとシルヴェスタは、うちと役所と一緒に南部の行商を抜き打ちでチェックするように提案してきた。


なるほど、それならシルヴェスタがごまかしていたことがわかるというものだ。



 ところが役所からはスミスの部下が来るというのだ。クラープ町の役場はもちろん領主様に従う領都組が主流派だが、人数が多いのは土着組だ。


そこでこのような雑用は土着組に回されるという。土着組でまして上司があのうるさいスミスだと、こちらが何か言っても反論してきかねない。


正直を言えば領都組に来てもらいたいのだが、ウドフィ様にそれを言ってもいい顔をしない。


やはり行商先に抜き打ちでチェックに行き、何時間も見ているなどというのは面倒なことなのだ。




 チェック要員をこちらからも出さないといけないが、行商人には任せられない。


シルヴェスタから引き継いだ者たちはシルヴェスタに味方しそうだし、後から入った者たちは質が悪くとてもそんな仕事は頼めない。


シルヴェスタの行商に絡むのは面白いが、スミスの部下がいるのだから、こちらにとばっちりが来るに決まっている。



 そこでチェック要員を抜き打ちでシルヴェスタの行商先に派遣する。買ったものをチェックして、おおよその売り上げと利益を計算するのだ。


向こうはドナーティ商会の小売値の6割ほどで仕入れて、11割で売っているという。1割分は行商での割増しということだ。


うちももともと引き継いだ時は1割だったが、クレムの提言で2割増しにしている。それ以来客足はさっぱりだ。



 それはともかくざっと計算するとシルヴェスタはなんと一回の行商で7万も粗利を出していた。


もちろん従業員たちへの支払いや、家畜やら荷車やらの維持費もあるからそれが全部利益ではないが、それでも5万は残りそうだ。


「あれだと商売が楽しそうですね」

視察に行ったうちの徒弟が言う。



 さすがにこの数字ではまずい。次はもっと儲かりそうにない場所を見に行かせることにする。


あまり人が多くない地域だ。それほど裕福なものがいそうにないし、だいいち家と家の間が離れている。ここなら利益は出ないだろう。


そう思って調べさせたところ、確かに前ほどではないが、それなりには売れている。3万は粗利がありそうだ。大して利益は出ないだろうが、それでも赤字ではない。


もう一軒くらいと調べさせたが、やはり5万以上の粗利は上げているようだった。



 これを調べたのが店の中の者だけだったら、知らん顔して握りつぶすこともできたが、スミスの部下が同席している。


金額まではともかく、売り上げたもののリストは向こうも持っているはずで、ちょっと調べればすぐに利益も判明してしまう。


これではシルヴェスタが月に250万の利益を北部で上げていたというのも嘘ではないということになってしまう。



 そのうちにパラダ様に視察の結果を聞かれる。なぜかこういうときだけはモナプとクレムも同席しているのだ。


「それで視察の結果はどうなんだ?」


ここで本当のことを言えばどやされるに決まっている。だが嘘をつこうにも役所は知っているので、後でバレたらもっと恐ろしいことになる。


その前にさっさと逃げてしまうという手もあるが、こんな大した技術もない50過ぎの者を取ってくれそうなお店もない。


まだしばらくはこのお店も続きそうだ。そんなことをさんざん悩む。3人はどうしたんだとばかり、こちらをにらんでくる。


「そ、それが……、シルヴェスタの方は利益を上げているようでございます」

「どういうことだ?」

「はあ、初めに調べた店では、おおよそ7万ほどの粗利を上げているようでした」

「7万だと?」

「それは特別に儲かる場所で、何か特殊なものが売れたのではないか?」

「いえ、ふつうに客足が多く、3人の行商人がけっこう忙しそうにしていました」

「それで、他の場所はどうなんだ?」

「ええ、もう少し悪い場所にもいってみましたが、それでも3万ほどは粗利がありそうでした」

「なんということだ」

「ほ、ほかはどうなんだ?」

「それだけでは足りないと思い、やはり調べてみましたが、今度は5万ほどの粗利です」

「それでは250万儲かっていたというのもあながち嘘ではなくなりますな」


「そ、それで、以前にこちらの会議で決まったシルヴェスタへの追及ですが……」

「あの、250万も儲けているはずがない、譲渡に問題があったというものだな」

「はい、すでにウドフィ様に同席いただいて、シルヴェスタを追及してしまっております」

「なんと間の悪い」

「もう少しお待ちになった方がよかったですな」


ふだんは仕事を急がせる癖に都合が悪くなるとこれだ。


「まあ、こちらの調査結果については知らん顔すればよいわけだ」

「そ、それが……」

「うん? なんかあるのか?」

「それが、調査自体がシルヴェスタからの提案で、しかもこうなることがわかっていたのか、役所の者も同席しております」

「なんだと?」

「まあ、役所の方はパラダ様のご意向次第ではいくらでも黙っていてくれましょう」


そういう都合のいい話であればよかったのだが……。


「ただ、あのうちにやたらとたてつくスミスの部下でして……」

「もう少しうまくやってウドフィ様の部下にでも頼むべきでしたな」

「これは行商統括のバンディ殿の責任は重大ですな」


全部こちらに押し付けて、面倒があれば追及するのはひどい。


とはいえ、この会議の席で嫌味を言われるだけで、どうなるわけでもあるまい。


そんな感じでくだらない会議は終わった。だいたい、こちらの間違いがわかり、それをごまかせなくなったことが確認できただけなのだ。何が悪いのか。



 ただ後日また悪いことが起こった。視察に行った者がうちを辞めてしまう。向こうの合同商会がうらやましくなって、再就職したというのだ。わりとまともな徒弟だったのだが。


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