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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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クラープ町あちこちからの陳情

 クルーズンで楽しそうに事業を拡張している幹部たちをしり目に、クラープ町ではまた問題が起こっている。


各地域の組長たちが合同商会やジラルドのところに元の通り行商を復活させてくれないかと陳情に来ているのだ。


マルクもジラルドも領主の裁定があるから無理と回答しているのだが、もう耐えられないなどとこぼされるらしいのだ。


仕方がないので、地域の人たちを集めて説明会を行うことになった。


うちの社屋だとそれほど多くの人を入れるスペースがなく、教会のサミュエル司祭にホールを借りることにした。


教会というのはけっこう地域の集まりにそのように場所を貸していたりするようだ。


「なんで、営業をパラダなんかに渡してしまったんですか?」

「以前もご説明しましたように、ご領主様の決定なのです。うちが独占をしていてけしからんから譲れとのご命令で。

うちもさんざん独占などないと説明しましたが、結局聞き入れられず……。こちらがその公文書の写しです」


公文書の写しを回覧し、さらに写しの写しを配る。撤退時にも行商先に来ているお客さんたちには見せたが、もっと広まることを目指す。


さらにウドフィとのやり取りなども詳しく話した。


「まったくあの領主はろくなことをしない」

「どうせパラダから金をもらっているんだろ」

「あたしらからパラダが金を巻き上げて、領主がご相伴にあずかっているのか」

「高い税金取っているくせに、また取ろうっていうのかい」




 その後も住民たちはパラダの横暴を散々こぼす。


「シルヴェスタさんは街中から遠いうちのあたりにも行商に来てくれましたが、パラダは遠くて儲からないからとうちの広場への行商を廃止してしまいました」

「うちの近くはパラダ商会から押し売りが来て、年寄りが何人も泣かされました。さすがに役所に苦情を出して返させましたが、もう二度と来てほしくありません」

「うちのあたりは年端もいかない女の子に色目を使う中年の行商人が来て、叩き出してやりました」

「何とかシルヴェスタさんがこっちで商売をしてくれないのかい?」



「実は、先日、パラダが雇っていた子どもたちをいい加減な理由で首にしました。しかもうちから引き継いだ塾もやめてしまいました。

それでうちには利益はありませんが、子どもたちや親御さんに従来通りにするとお約束があったので、馬車を出して子どもたちをバイト先まで連れて行って、塾にも通わせました。

それに対してパラダ商会の番頭たちは、ご領主様の裁定に逆らう不届き者とばかり文句をつけてきたのです。

さすがに親御さんたちの反論もあってそのままになりましたが、本当にご領主様の裁定に触れる内容では何をされるかわかりません」


「シルヴェスタさんはお金にならなくても約束を守ってくれているというのに、あのパラダときたら……」

「まったくあのパラダの奴はろくに商売もできないくせに、上に媚びをうることだけは得意なんだな」


「私からも役所の方にはいまの状態には問題があることを伝えています。ただご領主様の意向ですし、私が言うと私の儲けのため言われかねません。

ぜひ皆様からも役所の方に問題が起きていることをお伝えいただければと思います」


「ご領主様の裁定に文句をつけて大丈夫なんですかい?」

「私の方はクルーズン司教様が手紙を書いてくださったようなので、めったなことは起こらないとは思います。皆さんは役所には問題が起きていることだけお伝えください」


サミュエル司祭はちょっと困ったような顔をしている。俺が司教に結構な金をとられたことに気づいているのか、それともみんなが教会に頼ってくる心配をしているのかわからない。






 営業してくれの声は住民からだけでなく役所からも聞かされた。役所のスミス氏に呼ばれる。


「パラダ商会から郵便事業をそちらに譲渡するとの話を聞いたが、あれはどうなっているのだ?」

「いえ、それはきっぱりとお断りしました」

「なぜだ?」

「1億で譲渡すると持ち掛けられましたが、向こうにはもう郵便事業の実態がありません。そんなものを大金を出して引き取れるはずもありません」

「実態がないというのはどういうことか?」


うちが以前にしていた仕組みを説明し、さらにパラダがそれを全部だめにしてしまったことを向こうの商会をやめた従業員たちの証言録を見せつつ説明する。


「この通り、うちは効率よくかつ間違いのないように。そして間違いがあっても後から追跡できるように、仕組みを作りました。ですが、パラダはそれを全部壊してしまったのです。ですからあちらの郵便事業には実態がありませんし、失敗するのも当然です」


「なるほどな。実績にあれだけ差がつく理由がよく分かった」

「はい。ですから引き取れません」

「タダなら引き取るのか?」

「いえ、タダでもお断りです。もともとうちがしていた時も行商事業と一体にして利益を出していました。郵便事業単独では赤字です」


そういって前に作った試算結果を見せる。郵便だけでは赤字だ。


「役所としても困っているのだ。南部の方では全く問題なく手紙が届くというのに、北部ではまともに届くことの方が珍しい。

最近の北部で住民に何かを通知しようとすると係員が直接住民の元に行かなくてはならない状態になっている」


「それはそうだと存じます。北部では未配達の手紙が店に積みあがってもはや彼らは全く把握しきれていないようです。

慣れた者もすべて辞めて、素人に配達させているようなものです。いや放置なので、もっとひどいと言えます」


「まったくあいつらときたら……。やはりそちらの商会で引き受けてはもらえまいか?」

「それでしたら行商の営業権もいただきたく存じます。もちろん無料です。それが無理なら、年間の赤字分の500万ほどを毎年補填していただければ引き受けます」

「さすがにそれは無理だろうな」

「うちとしても赤字が確実な事業は無理でございます」

「そうか……。なんでこんなことになったんだろうな?」

「パラダが無理を押し通し、領主様がそれを認めてしまわれたからです」

「そう言うことだろうな」


俺が領主を非難するのは実害を受けているし、クルーズン司教の後ろ盾もあるから可能であるが、役所の者までそれに同意するとは思わなかった。けっきょく話は平行線のまま進まなかった。


 数日前から多くの方に読んでもらい、評価やブックマークもいただいています。


 新しい読者の方も以前から読んでもらっている方も大変にありがとうございます。


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