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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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(パラダ) 押し売りを出してしまう

 私はパラダ商会の番頭バンディ。シルヴェスタから引き継いだ行商の統括をしている。


また役所のスミスから呼び出しを受ける。


「なんで呼び出されたかわかるか?」


お前が来てもいいはずなのに、横柄に呼び出して、この言い方だ。ふん、傍流のくせに。こちらが領主様に言えば、お前のしたことなどないことにできるというのに。


とはいえ、ご領主様に頼みごとをするのはまた面倒だし、トラブルを起こせば私が睨まれる。とりあえずは下出に出ておこう。


「はて、うちは町でまっとうに商売をしている商会でして……」

「押し売りだ!」


押し売り? さすがにそれは穏当でない。


「詳しくお聞かせ願えますか?」

「ああ、北部の老人の家に上がり込み、買ってくれるまで帰らないと居座って数万のものを売りつけたそうだ」

「何かのお間違いではないですか? まったく流れの商人が来たとか」

「1軒ならば間違いということもあるだろうが、3軒も同じ名前が出て来て、まさか間違いということもあるまい」


確かにそれは、考えにくい。もちろん流れの商人がうちの名前を使うこともありうるが、ただそんなことをしても何の得にもならない。うちの行商人がした可能性が高い。


「ときにな、その方の使っている行商人、少し筋のよくないのが多いぞ」


それは感じていた。例の完全委託制の商人の方になんというかチンピラに近いものが含まれているのだ。


彼らはよく群れているが、シルヴェスタから引き継いだ商人たちとはあまり交流しない。というより何か見下している。


上役の言うことにははいはいと返事だけはいいが、実際には従わない。その場の気分だけで物事を決めるのだ。


なんともうちのような老舗商会には似つかわしくないと思うが、彼らから利益が上がっているのも確かである。


「ところでな、わしはきちんと事件を解決したいとは思っているが、老人たちはお金が戻ってくればいいと言っているのだ。

まあ彼らにお金が戻れば事件自体がなくなる。あとは再発防止だけすればいいということにもなる」


スミスはかなり面倒なことを言ってきている。要するに金を返せば不問にするというのだ。それは上に持ってい行ったら、主流派に止められると思っているのだろう。


ただ受け入れない場合には調査に入られて、その間は行商人も他の係の者も取り調べがなされる可能性もある。前に一度調査に入られたことがあったが散々だった。


1日は完全に営業ができなくなる。わたしがまたパラダ様から怒られることにもなる。


払い戻しは10万近くなるだろうが、それに比べれば安い。かなり面倒な選択だが、払うよりほかあるまい。


「わかりました。返金させていただきます」

「そうか、それならいい」


そういうわけで押し売りに来られた家を回って事情を聴く。


「それでは確かに返品ということで承ります」

「ああ、そうしておくれ。これ全部で3万だよ」


確かにうちで扱っていた装飾品だ。ただ他の物も入っている。しかも値付けが合わない。


「これはうちの商品ではないのですが……」

「いや確かにお宅の商人から売りつけられた」

「しかし……これは……」

「とにかく引き取っておくれ」


領都で仕入れたうちの商品が入っている以上はおそらくうちの商人であることは確かなのだろう。


ただうちのものでないのが入っているのは、こちらの老婆がどさくさに紛れてこちらに引き取らせようとしているのか、


それともうちの完全委託制の行商人がうちの名前を使って、勝手に自分で仕入れたものを売りつけていたかのどちらかだろう。


結局3軒回ってみて、3軒とも同じものが出てきた。老人たちが示し合わせたとは考えにくい。うちの商人がかってに自前の物を売りつけたらしい。


「それから金額ですが……、確かにこのお値段でしょうか?」

「ああ確かだよ。領都の高級品だからこの値段だと言っていた。シルヴェスタ商会のものよりずっと劣るし高いけれどね」

「うちではこのような値段はつけておりませんが……」

「そんなこと知らないよ。あんたのところの商人がこの値段で売ったんだから、これで引き取っておくれ」


ここで和解しないと、あの役所のスミスに営業を止められかねない。仕方なく言い値で引き取ることにした。


「怖いお兄ちゃんたちが、そこに座り込んで、買うまでは帰らないと……。もう2度とこないでおくれ」

「街の老舗だというから話を聞いてみたら、単なる押し売り。パラダ商会という店がどういう店かよくわかったよ」

「今度お宅の商人が来たら、自警団を呼ぶからね」


さんざんに非難されて、返金もさせられてほうほうの体で帰ってきた。


さすがに放置しておくわけにはいかず、完全委託制の商人たちを呼び出して、事情を聴いてみる。そうすると、ある3人組が浮き上がってきた。


「あの婆、チクったのか」

「いや、喜んで買ってもらいましたが」

「話相手のいない年寄の話し相手になってやったんだよな」


言うこともそうだが、外見からしてお近づきになりたくない様子で、なんとも質が悪い。こんな者、店舗の方ではとても雇える者たちではない。


「とにかくうちから客に返金した分はお店に返してもらう」

「ああ? 俺たちの苦労はどうなるんだ」

「押し売りなんて犯罪で苦労しても仕方ないだろ」

「完全いたく制とかで、こちらが自由にできるんだろ?」


何とも話が通じない。契約書を読んだのだろうか。そんなことは書かれていない。ただそのことを問いただしても、全く話が通じない。


だいたい文書の読み方自体が怪しいのだ。読める単語だけを拾って生わかりしている様子だ。


「とにかく、俺たちが商売したのに、かってに返品を受けておいて、金を返せなんて言うのは受け入れられない」

「だまれ! このまま自警団につきだすこともできるんだからな」


そう言うと後ろ暗いところがあるのか、相手は返金に応じることになった。


「ただな、ちょっと今持ち合わせがないんだわ。月末には払うから待ってくれ」


そう言われて月末の給料のときに相殺すればいいと思い、それを受け入れた。しかしその金が戻ってくることはなかった。

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