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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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郵便トラブル対応

 クラープ町の北部の方はパラダたちが散々にしてしまっているようだ。


本当は俺はもうクルーズンに移っている。家ももうクルーズンだ。もちろんクロもそこにいる。


だがクルーズンの方は部下たちがどんどんと事業を推し進めていて、俺はむしろクラープ町の後始末に追われている。



 一部の幹部以外にはギフトのことは知らせていない。そして俺はクラープ町でばかり活動しているから、町のスタッフは俺がこちらに住んでいると思っていそうだ。


いちおう旧本部でシルヴェスタ・ドナーティ商会のシルヴェスタ側の代表をしているジラルドの執務室の奥に幹部用に寝泊まりできるスペースがあるから、そうだとしてもおかしくない。


いや、寝泊りできても、クロなしで寝るなど、生きている意義がない。No cat No Lifeだ。



 さていつものようにジラルドの執務室のあたりにいると、ジラルドは、その日に郵便部門から報告を受けていた。


「南部で引き受けて北部に出された郵便物や荷物が届いていないようです」


もともとこの社会にはきちんとした郵便制度がなく、手紙は子どもや冒険者ギルドに頼んで単発で届けてもらっていた。それを俺が、組織的な郵便制度にしたのだ。


まとめて回収して、まとめて運び、そして組織的に配布する。しかもその途中経過をいちいち記録する。


これによって効率化するとともに、配達漏れがほとんどなくなり、郵便の信頼性は格段に上がった。


役所なども今はこの郵便があることを前提に動いている。文書がきちんと届くというのは複雑な社会を作るにはどうしても必要なのだ。


「え? それはまずいな」

「はい」



 具体的に担当者から話を聞いてみる。郵便を出した客から届いていないとの問い合わせを受けているとのことだ。


うちの郵便システムはそれなりに信頼できるものだが、うち以外はそうでもない。だいたい子どもや冒険者ギルドに個別に頼んでいたのだ。


だから郵便については基本的に届けた後に届けた先から差出人へ受け取りが行って確認するシステムになっていた。その受け取り1か月たっても届かないとの申し出が続出したのだ。


いままでは届けるだけで町内なら長くても7日ほど、受け取りを返すのも7日ほどで、合わせても2週間もあれば済んでいた。それが1か月たっても受け取りが来ないという。




 郵便については事故を防ぐためにいちいち記録を作っている。引き受けたとき、そして別の部署に渡したとき、やや面倒だが、一覧表に書き込んでどこにあるか把握できるようにしてある。


そこで事故の起こった郵便を調べてみると、どれもうちで引き受けたがパラダら側に引き渡したものだ。引き渡しについては向こうの担当者の確認サインもある。


もうこれはパラダらの責任だ。向こうの担当者に調査を依頼し、期日までに満足な調査結果が出なければ賠償を要求する。



 郵便事業を引き渡したときには、さすがに公共性があるため、役所も入れて協定が作られた。


そこで南部から出して届いていないときに、北部のパラダらに引き渡した記録があるなら、北部で事故があったものとしてパラダらが賠償する。


北部に引き渡した記録がなければ、南部で事故があったものとして、シルヴェスタ・ドナーティが賠償する。


もちろん逆に北部で引き受けて南部に届くときも同じだ。ただ最近は北部から南部への郵便は激減している気がする。



 南部のドナーティが管轄している部分はほとんど郵便事故がない。


ところが北部のパラダらが管轄している部分は100件中2~3件の事故があるようだ。


彼らはその程度の事故は大したことがないと踏んでいるらしい。相当大きい確率だと思うが。


日本の郵便の事故率は知らないが、日本の製造業などは不良品率をppmオーダーつまり100万分の1レベルまで減らしていた。同じようなレベルだろう。



 もはや北部の信用ができず、南部で郵便を引き受けるときに、北部は届かない可能性があるので、どうしても届けたいときは時間をおいて複数出してくださいとお願いする始末だ。


事故が3%だとして、2つが独立ならどちらも届かない確率は0.03×0.03で0.0009つまり0.09%の事故になる。それくらいなら無視できるだろう。


郵便代金は安くないし、だいたい手紙を2つ書くなど面倒もいいところなので、とうぜん客から苦情が出る。


「なんで2つも出さないといけないんだ」

「ごもっともです。実は北部のパラダらの地域の郵便が信用できない状態でして」

「直接届けてはくれないのか?」

「はあ、ご領主様の裁定で、うちは北部での営業を止められておりまして」

「まったくあの領主のすることときたら、ろくでもない」


本当にろくでもないと思う。そのうちに客もわかったのか南部内とか、他の村やクルーズンへの郵便はうちに頼むが、北部への郵便は子どもや冒険者ギルドに頼むようになってしまった。


もはやパラダらは子どもより信頼がないらしい。これでは古い時代に逆戻りだ。



 さすがに役所にも苦情が行く。ところで役所は役所でいちばん手紙を用いるのだ。だから事故が多いことはとっくに知っている。


役所から呼び出されてどういうことかと問いただされる。


「当方の郵便はすべて記録があります。当方の管轄地域ではまったく事故がないとは言いませんが、ごくわずかですし、起きたものは把握して差出人に通知しています」


実際の数字とともに見せる。ここ1年で数万件引き受けて3件だ。そのうち2件は調査の結果、見つかって遅れて届けることができた。


「それで北部の方はどうなっているのだ」

「実はそれが……、当方から引き渡して、受け取りが遅れているものが数十件、来ていないものも数件ございます」

「それだけ届いていないということだな」

「はい、少なくとも遅れていますし、あまり期待はできないものかと」

「どう思う?」

「いや、困ります。手紙が間違いなく届くことは人々のやり取りを支えて、複雑な社会を作るのに不可欠です。これがないと古い時代に逆戻りです」

「そうなんだ役所でも困っているんだ。そちらで全部してくれないかな?」

「いえ、営業権の区分はご領主様の裁定の結果です。ご領主様に言ってください」

「そう言うことか……」


なにかあきらめたようなものいいだ。ただ役所だって領主の配下なんだからそれくらいは抑えておいてほしい。何でうちが言われないといけないのかと思う。


ただいずれ北部の郵便が破綻して、何らかの形でうちに回ってくるような気はしていた。


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