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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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(パラダ)値上げと合理化と

 私はパラダ商会の番頭バンディ。シルヴェスタから引き継いだ行商の統括をしている。


 相変わらず利益が上がらない。完全委託制の行商人を入れ、さらに既存の行商人も完全歩合制にした。能力主義を徹底している。


それにもかかわらず能力を示すものがいない。いや全くいないことはないのだ。ただあくまでも散発的だから困る。


 またパラダ様に呼び出される。胃が痛い。

「さて、また利益が減ったわけだが、何か申し開きはあるか?」


だんだん尋問調になってきた。だいたい行商事業のことはクレムに任せてある。クレムに返答を促す。


「そちらはクレムから説明します」

「はっ。それでは。新たに採用した完全委託制の商人は成果を上げつつあります。既存の行商人は完全歩合制にしたため一部の成績の悪い行商人が辞めております。

その分が減ったのでございましょう。ぜい肉をそぎ落としているようなもので、いずれ反転するものと思われます」


ここにはモナプもおり、彼も含めて全員ぜい肉がついているので、たとえとしてはいかがなものかと思うが、言わんとするところはわかる。


モナプも横から口をだし、やはりもう少し歩合制を続けるべきだとした。もしそれで効果がなければ、さらに歩合の割合を強めることも考えるべきだという。


「なるほど、よくわかった。ところで、その成果は期待したいが、それ以外にもう少し利益を増やすことはできないか。今のままでは借金がなかなか減らない」


だがそう言われてもすぐにアイディアなど出てこない。能力主義は進めているし、キャンペーンも多数行っている。軽食はシルヴェスタにかないそうにない。当面打つ手が見えないのだ。


「値上げはいかがでしょうか?」


クレムが発言する。


「何? 値上げとな」

「はい。行商は経費が掛かっております。それを利用者に負担してもらうのです」

「なるほどのう。それはいいかもしれないな」

「はあ、それではそのような方向でよろしいでしょうか」

「ああ、それでやってみろ」

「わかりました」

「ところでクレム、その方、次々に良いアイディアが出るな」

「パラダ様のためになるようにと日夜頭を働かせてございます」

「そうかそうか、その意気やよし。きっと報いてやるからな」

「はっ、ありがたき幸せ」




 それからしばらくしてクレムは番頭に格上げとなった。もっともパラダ商会は番頭は何人もいるからそのうちの一人である。とはいえ、急激な出世であることには違いがない。


クレムが出世したからなのか、少し関係性が変わってきた。


「ところでバンディ様、実はわたくしパラダ様から少し特別な用をいい使っております。申し訳ありませんが、行商人たちの統括を少しまた分担いただけないでしょうか」

「それはご苦労も多いかと思います。私の方で手伝えることは手伝ってまいります」

「それは大変にありがたい。どうかよろしくお願いいたします」



 ところがしばらくして分かったことだが、クレムは言葉だけは丁寧だが、統括の実務をろくにしようとしない。ほとんどこちらに丸投げだ。


どうなっているのかと聞くと、パラダ様からの用事がと言い抜ける。だんだん顔を合わせるのも嫌になり、一人で片付けた方が早く、結局私がほとんど片付けることになった。




 値上げについては、街中のパラダ商店の価格の1割増しでやってきたが、2割増しとすることになった。これを通告すると、行商人たちから一斉に反対の声が上がる。


「お客様からの反発がものすごくなりますよ」

「うちで買ってくれなくなりますよ」

「だまれ! そこを何とか売るのがお前たちの仕事だ」


もう決めたことだ。だいたい行商の負担が大きいのだから仕方がないではないか。だったらお前たちの給料を減らしてもいいかと問いたい。




 ところが値上げから数日すると売れ残りが多くなってきた。行商人もやる気がなくなってくる。


「値段を元に戻した方が」

「それが駄目ならせめて生鮮品の量は減らした方が」

などと余計なことを言ってくる。


「お前たちは上の指示に従っていればいい」


とは言ってみたものの生鮮品の方はこれから本店で売らないといけない。売り切れるかというと、無理そうな気もする。


最後は投げ売りか。それならなぜ値上げしたのかということになりかねない。


そうなれば行商先だけ高い金をとって街中の客に還元している。使用人の言うことを聞いたとなるとまずいから、そのうちこっそり生鮮品を減らしておこう。




 しばらく様子を見るが、売り上げが伸びない。行商人に聞いてみる。


「なんでこんなに売り上げが下がっているのだ?」

「よその店の値段が上がっているわけではないのに、うちだけ上げたら、客が来なくなるに決まっているでしょうに」

「どの地域の売り上げが下がっているのだ?」

「おそらく街中に近いところでしょうね」

「はっきりとはわからんのか?」

「はあ、以前のカミロさんがしていたように各回の行商ごとに売り上げを全部記録してみたらいいんじゃないですか?」


シルヴェスタのやり方をまねるのは面白くないが、やってみるしかない。


実際に1週間ほど調べてみると、中心街に近いところでの売り上げの落ち込みが激しい。遠いところではそんなでもない。


「なるほど遠隔地でうちの行商の支持が厚いのか」


どうしてそうなるのかよくわからない。行商人たちに聞いてみる。


「遠隔地の方が行商の支持が厚いようだが、どうしてこのようなことになるのか?」


「えーと、それは、遠隔地の支持が厚いというより、遠隔地の人はいやでも買わざるを得ないというところでしょうか。

値上げしてかなり評判を落としました。近隣地の住民は街中まで買いに行けばいいのでもううちで買う必要がないのかと」


「値上げのことはパラダ様のご判断だ。お前たちの決めることではない」

「ですが、値上げでお客さんから一番苦情を受けるのは我々行商人です」

「だまれだまれ、聞かれたことだけ答えればよいのだ」



どうもシルヴェスタ商会にいた者たちは基本的な躾がなっていないように見える。あんな子どもが店主だから仕方ないかもしれないが、パラダ商会では通用しない。




 値上げでも利益は上がらず、次にクレムから余計な経費のかかる遠隔地の行商を切るとの提案がなされた。だが行商人に効くと遠隔地はむしろ売れ行きがいいという。


「いや、遠隔地はむしろ売れ行きがよいのですが……」


「それはそうかもしれません。ただこの数字を見てください。遠隔地は往復にも経費が掛かる。また大きな荷車で行けないところも多い。

だから利益自体は少ないのだ。まあそれでも黒字ならば目をつぶらないでもないが、赤字では仕方ない」


パラダ様も「やむを得んな」と言って、赤字の遠隔地の行商を切ることにした。また行商人への通告は私の仕事だ。



「この3地点の行商については赤字続きのため、今月いっぱいをもって終了することになった」

「こちらは高齢の住民の方もおりますし、何とか続けられないものかと」

「商会の社会的責任もあります」


また行商人からの文句の声が出る。こいつらは文句を言うことしか能がないのだろうか。


「お前たちが赤字分を持つのか? それならいいが」


そう言うと黙りこくってしまう。経営という立場からの判断ができない者たちだ。全く話半分に聞いておけばよい。




 だが数日して、また行商人たちから再度苦情が出る。


「住民の方からは何とか残せないものかとお願いされています」

「いままで続いてきたものを一時の赤字でやめていいものでしょうか」

「こちらも商売だ。儲からない地域の行商などやっていられん」


経営に携わる者は決断が必要だ。安易な外野の声に振り回されてはならない。輝かしい商会の未来のために心を鬼にしなくてはならないのだ。


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