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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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(パラダ)ブドウ売り

 私はパラダ商会の番頭バンディ。シルヴェスタ商会から行商事業を受け継いだが、あまり運営がうまくいっていない。


さいきんは従業員たちにも不穏な空気がある。休憩室を改造して裏から盗み聞きできるようなスペースまで作ってしまった。また行商人どもの愚痴を聞くとしようか。


「まったくあんなダサい髪飾りよく作るよな」

「シロウトの工作じゃないッつうの」

「だけどバンディが売れ売れってうるさいだろ」

「ああ、まったくめんどくせえよな。あんなものが売れると思っている時点で商売のセンスがねぇ」

「ああ、フェリスさんのときはよかったな。商会も成長してたし、俺たちの成長も実感できたし」

「それに給料もよかったし、だろ」

「もうあのゴミ、買ったのか?」

「いんや、まだだ」

「上からうるさく言ってきて面倒だろう?」

「まあな。だけどあいつら、売り切れたら、また新しいの持ってくるぞ。適当にかわしておかないと、次から次に売りつけられる」

「ああ、なるほどな。本当にろくでもないな。そろそろ脱出を考えた方がいいかもな」

「クルーズンか。確かにそろそろ考えないといけないな」



そうか、まだ買う余力はあるのか。髪飾りはともかくとして、夏のブドウキャンペーンをしようかと思っていた。


もちろんノルマ付きだ。買い控えもあるようだし、もう少し圧力をかけてやってもいいのかもしれない。


うむ、これで売り上げアップして、パラダ様からの覚えもめでたくなる。





 店にいるとパラダ様から呼び出される。パラダ様は事業譲受前は大儲けの夢を描いておられた。


「あんな10歳やそこらのガキが大儲けして商売を拡大しているのだから、よほどおいしい商売に違いない。かならず分捕ってやる」

「ええ、領都に発しクラープ町の老舗パラダ商会ならではの商売を見せてやりましょう」


ところがふたを開けてみるといちおう黒字ではあるが、期待していたほどの数字が出ない。


シルヴェスタが帳簿で主張していた数字の半分ほどだ。これはシルヴェスタめに計られたのか。


「それでだ。売り上げがいまいち伸びないが、何か打開策はあるのか?」

「はあ、それです。実はいくつかキャンペーンを打とうかと思っております」

「キャンペーンだと?」

「はい、とりあえずブドウの季節ですので、ブドウを並べましょう」

「そんな程度で売れるのか?」

「行商人にノルマを課すのです。これだけ売り切らなければ成績を下げると脅します」

「なるほどな。だが売れる者ばかりではないだろう」

「その点は大丈夫です。売れなければ本人が自分で買い取ります」

「なるほどな。そちは知恵者だな」

「ありがとうございます」

「確実に売れるなら過去のブームをリバイバルさせてはどうだ?」

「あ、いろいろありましたな。高級パンと団子の入った飲み物とチーズの入った揚げパンと……」

「次から次にいくらでもアイディアは出るな」


そんな感じで、売り上げ拡大策も決まった。


ブドウの仕入れにかかる。ここ数年、クラープ町でもブドウがよく売られるようになっていた。確かセレル村のブドウだ。さっそく村に視察に行く。




 村には商店がただ1つだけある。屋号はドナーティ商会。これはクラープ町のドナーティ商会の分家だろう。


あまり関係はよくないが、私の顔まで知っているとは思えない。ちょっと聞いてみる。


「ごめん。ブドウを買いたいのだが」

「ブドウはこちらですね」


200ハルクや400ハルクの格安品が並んでいる。


「少し多めにし入れたいんだが、可能かな?」

「行商人の方? 村のブドウで外に売り出すものはクラープ町のシルヴェスタ・ドナーティ商会で扱っているからそちらで聞くといいよ」

「はあ、こちらはそちらの分店で?」

「ええ、もともと分家だったけれど、いまは親父が向こうで経営しているね」


そうかマルクの子か。


「どこかブドウを直接買い付けることはできませんかね?」


「ああ、うちの村のブドウが有名になったから、一かみしたいの? ちょっと難しいと思うよ。

だいたい村のブドウはフェリス君、いまはクルーズンのシルヴェスタ氏か、彼が一から産業として育てたからね。

ちゃんと利益も適正に分配しているとみんな認めているし、横から入って儲けるすきはないよね」


「シルヴェスタ氏はずいぶんやりてなんですな」


「前はうちの弟のマルコと野原を走り回っていたんだけどね。でも子どものころから利発だったな。

郵便を作ったり、教会の補修費用を稼ぎにブドウをクルーズンまで売りに行ったのは8つのころじゃなかったかな」


そんな感じで、シルヴェスタの神童エピソードをさんざん聞かされた。とにかく村に来て見て、ブドウを卸売り価格で買う余地がないことは分かった。


しかもブドウの利益はシルヴェスタとドナーティでせしめていることもわかる。




 とはいえ、ブドウの産地はセレル村だけではない。クラープ町の周りにはほかに4か村あり、どこもブドウを作っている。


そちらを見て回れば、おそらくキャンペーンの分のブドウは確保できるだろう。



 ところが他の村に行ってみると、ブドウはあるにはあるのだが、セレル村の物よりずっと劣るし、量も少ないのだ。


どうもセレル村では木を殖やしたりしているらしい。しかも量が多くなったので、よいものが出荷されていまいちのものは自家消費用となる。


栽培や収穫の技術などもずいぶん上がっているらしいとのことだ。他の村ではもちろんそんなことは起きていない。


パラダ様にキャンペーンをすると言ってしまった手前、何とかかき集めてきたが、正直な話あまり良い出来のブドウではない。行商人たちも顔をしかめている。


「明日からブドウのキャンペーンを始める。各自必ず1房は売ってくるように。もちろん成績に加味する」


また文句やボヤキが出るが、もちろん無視する。帰ってくるといちおうはけているようだ。だが、いつものように休憩室の盗み聞きをする。


「本当ひでえブドウだよなあ。去年に売り物にできないから家で食べてくれと配られたものよりずっと悪かったもんな」

「ああ、痩せているし、色も悪いし、案の定誰も買わなかったな」

「そりゃ、ドナーティさんの店に行けばもっとずっといいブドウが買えるわけだし、同じ値段で」

「俺たちだけこんなひどいもの買わされて、何の罰を受けているんだろうな」

「もうそろそろ潮時かな」

「ああ」



その週は3名ほどが退職を申し出てきた。


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