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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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(パラダ) ノルマを課す

 私はパラダ商会の番頭バンディ。シルヴェスタから引き受けた行商を統括している。


2か月が過ぎて、2月目は1月目より売り上げが落ちた。まだいちおう黒字だが、同じペースで落ちていくと数か月後には赤字になりかねない。



 しかもまた先日、パラダ様から利益について聞かれたのだ。


「利益はどれくらいだ?」

「はあ、きちんと確保しております」

「数字を聞いているんだ」

「2か月の実績が200万ほどなので、年間は1200万の見込みです」

「それじゃ困る! いいか、この事業の買取に本家筋から3億借りているんだ。こっちの金利が5%だから、今のままでは大赤字だ」


ああ、これでは売り上げが落ちていることは言えない。事業立ち上げの年にこれくらい赤字になってもそれはありがちなものだとは思うが、ここではパラダ様の言うことが絶対だ。


「とにかくてこ入れをするように」

「わかりました」





 テコ入れするとなればまず手始めに例の髪飾りを売り切らなければならない。1人必ず1つ売るようにとノルマを決めた。まあ難しいことは下の者に丸投げしておけばいい。


「この髪飾りだが1人必ず1つ売ってくるように」

「えーっ!」

「えーっ! ではない。その口答えもやめろ」

「しかしこんなもの誰も買いませんよ」

「とにかく、今日からは『髪飾りはいかがですか』と客に声掛けするのだ」


そう言い渡すと行商人たちは商売に向かった。だが実際に声掛けするかどうか不安になったのでまた視察に行く。


行商の広場でうちの行商人と客がやり取りしている。客はおばさんのようだ。


「髪飾りもあるので見て行ってください」

「ぷぷっ。何これぇ? だっさいわねえ!」

「なんでも領都の高級品だそうです」

「今どき領都の装飾品なんか使う人いないわよ。前はクルーズンの新しいものがきていたのに、なんでこんなダサくなったの?」

「経営元がパラダ様になって、領都の方の職人の品が入るようになりまして……」

「いくら領都がダサいと言っても、これは特別にダサそう。またクルーズンの物を持ってきてくれないかな?」

「お客様の声として、上に伝えておきます」




 1人1つ売って来いと言ったにもかかわらず、1つも売れていない。連中は上司の言をなめているのではないか?


「何で売ってこないんだ」

「いえ、お客様にはお勧めしております」

「だが実際の数字につながっていないではないか」

「それは……、この品では……」

「お前たち売りたくない言い訳をしているだけじゃないのか?」

「いえ、お客様からは元のクルーズンの品のご要望があります」

「いまあるのはこれなんだ。とにかくこれを勧めてこい」

「あまりしつこくし過ぎると、お客さんが敬遠してきてくれなくなる可能性もあります」

「だったらお前たちの方で売る方法を考えろ」

「しかしこれを売れと言っても……、買ってくれる人が出てくるとは思えませんが」

「言い訳ばかりするな! 為せば成るだ! 1人1つは必ず売ること。売れなかった場合は成績を下げて来月の給料は減らすからな」

「そんな、ひどい」

「だまれ! 信賞必罰だ」


突き放して、命令する。上司は時には鬼とならねばならぬのだ。


行商人たちはぶつぶつと何か言っているが、そんなものには耳を傾けず商売に行くのを見送る。





 数時間して行商人たちが帰ってくる。


「どうだ? 売れたか?」


行商人の何人かは売れたと言っている。だがその表情は硬く、むしろ不愉快そうだ。


「やればできるじゃないか」


やはり義務である。義務を達成することこそが商会の繁栄につながるのだ。後は売れなかった者たちへの叱咤をしなければならない。


「いいか、実際に売れているんだ。今月中に売れなかったら、来月からの給料はどうなるかわかるな」


売ってきたものも来なかったものもみな押し黙っている。


何かこちらを見る目が冷たい。敵意を表すわけではないが、まるで何か空でも見ているような見方をするのだ。気味が悪い。




 また休憩室を盗み聞きする。どうも最近こういう仕事が多い。


「何が信賞必罰だ。罰だけで賞がないじゃないか」

「フェリスさんのときは本当に良かったよな。働き甲斐があって」

「装飾品だって新しいのが入るたびに買うお客さんいたよな」

「このゴミどうしよう?」

「ゴミなんだから捨てるしかないだろ」

「まあ何かにはなるかもしれないからいちおうとっておこう」

「まったく邪魔になるばっかりで、ろくなもんじゃない」

「そんなにいいものなら、主人や番頭は妻や娘にでも贈ればいいのにな」

「商売のセンスも仕入れのセンスもないが、これが駄目くらいはわかるんだろうな」


また散々なことを言っているが、盗み聞きの手前、表に出るわけにもいかず、歯噛みして悔しさに耐える。


しかしこの方式はいいかもしれない。必ず売ることを義務付ければ、行商人本人か家族か友人か誰かが買う。


髪飾りだけでは大した金にならないが、また領都のはやりものを定期的に持ってきて販売キャンペーンを行えば、そのたびに商会に金が入る。


これなら年間の赤字分の300万などたちどころに取り返せそうだ。


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