(パラダ) 売り上げ拡大策を考える
私はパラダ商会の番頭のバンディ。1か月ほど経って、月の収支が明らかになった。いちおう黒字は出ている。ただ行商人たちに聞くと以前ほどの収入はないようだ。
「何か前ほど売り上げ上がらないなあ」
「何か理由はあるのか?」
「そういえば前は装飾品なんかを売っていましたね。それ目当てで店に来る人もいたりして」
「それに軽食もありました」
「目当てと言えば、アランとシンディのファンたちもだ」
軽食はうちも参入したがシルヴェスタ商会に負けている。譲渡された営業の範囲ではなく、北方にもシルヴェスタの工場で作った軽食を売る店があり、勝てそうにない。
アランとシンディのことはパラダ様が何かこぼされていた。客を扇動するおかしな商売男や商売女みたいなのがいると。
そんな真似はできないが、ただ装飾品の方は少し考えてもいいのかもしれない。
「装飾品はどんなものだ?」
「いろいろありました。動物を模したブローチとか。髪飾り・ネックレス・腕輪・指輪などもありましたね。フェリスさんがクルーズンで仕入れてきていました」
「なるほど、それで女子どもを呼ぼうというのだな」
「単調になりがちだから楽しみも必要だと」
「わかった、こちらでも用意してみる」
ただクルーズンに発注するのは上手くない。領主様がクルーズンを敵視していて、もちろんその脇とまでは言えないがその脇の脇あたりに控えるパラダ様の本家もクルーズンのことはよく言わない。
だからクルーズンから取り寄せるなどもってのほかだ。なに、領都に行けばこの田舎町の住民を満足させるものくらいすぐに見つかる。
そこで主人のパラダ様に相談すると、パラダ商会本家の伝手で領都の銀細工師に発注して装飾品が用意された。
だいたい5000~1万ハルクほどのものだ。それが納入されたので、行商のときに指示を出す。
「うちでも装飾品を扱うことになったので、今日からはこれを持って行くように」
「いやー、何これ? 野暮ったいし、高いし」
「なんかおばさん向けって感じで」
「最近はおばさんでもこういうのは敬遠するんじゃないかな?」
「田舎のおばさん向けって感じ!」
「あっ、それ!」
「おしゃべりはいいから、さっさと商売に行け!」
そう言うと行商人たちは商売に向かっていった。まったく、領都から取り寄せたものを田舎っぽいなどと。
行商人たちが返ってきたので、売れ行きについて聞いてみた。
「どうだ? 装飾品は売れたか?」
「いえ、見た人はそれなりにいましたが、売れ行きはさっぱりで」
「こちらも売れませんでしたー」
「まじめに売ろうとしたのか?」
「いや装飾品の販売のために行っているんじゃないんで。行商のついでに見てもらうくらいです。他の仕事もあるんでそこまで手をかけられませんよ」
「いままでもそうでしたから」
何かやる気のなさそうな答えだ。売れない理由も一応聞いている。
「それじゃあ、なんで売れないんだ」
「そりゃこれ高いですよ。フェリスさんのときは1600ハルクでしたから、その3倍からですね」
「しかも野暮ったいし」
ううむ。確かに野暮ったいな。妻もこれは欲しくないと言っていたし。だがこれはパラダ様の本家の伝手のある銀細工師のものなのだ。他に変えるなど考えられない。
「これがフェリスさんの扱っていた髪飾りですよ。軽やかでしかも華やかでいいでしょう? これで1600ハルクでしたわ」
確かに見比べるとはるかにセンスがよく、うちのものが売れそうにないことがわかる。はあ、これが全部不良在庫として残り続けるのか。
客相手にプレゼントにするには少し値が張りすぎる。取引先にでも渡すしかないか。そんなことを考えているとパラダ様から声を掛けられる。
「例の髪飾りはどうだ?」
「はい、素晴らしい出来栄えで」
「そうだろう。本家の親戚筋の名工の作だというからこの町にはもったいないかもしれんな」
いったいどこで名工の評価がなされているのか知りたい。だがそんなことを言えるはずもなく、話を合わせる。
「確かにその通りでございます」
「足りなくなったらまた送らせるから、遠慮なく言って来いよ」
「わかりました」
未来永劫足りなくなることはないと思うので、このまま忘れてくれるとありがたい。
これでは振り出しだ。一から考え直そう。売り上げをあげるものとしてシルヴェスタ時代からの従業員に聞いたところ、装飾品と軽食とアランとシンディがあった。
装飾品は今度の失敗でうまくいきそうにない。アランとシンディ路線はダメだ。そうすると軽食か。
せっかく元シルヴェスタの従業員がいるのだから聞いてみるか。
「シルヴェスタ商会の軽食を作った者はいないのか?」
そう聞いても誰も反応がない。
「あの軽食はどこで作っているんだ?」
こちらには答えが返ってきた。
「あれは南部に工場があってそこで作っていますよ」
「誰か工場に行ったものは?」
「工場の方ははじめから調理担当として雇われるので、ずっとそこで仕事です。ここにいるはずがありません」
「味の秘密について何か知っている者はないか?」
「あれはフェリスさんがクルーズンの新しい名店レオーニ亭のシェフのところに何日も通って作り上げたものです。
向こうのシェフともいろいろ面倒な契約があるとかで、秘密も我々のところになんか漏れてきませんよ」
まったく忌々しい。まねしようと思っても、これではまねもできないではないか。ああ、売り上げはどうなるんだ。




