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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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(パラダ) 行商事業の始まり

パラダ商会の番頭バンディの視点です。

 私はパラダ商会の番頭のバンディ。パラダ商会は領都に本店を持つ、クラープ町でも老舗の商会だ。それが最近、現れたシルヴェスタのせいで、ずいぶんと業績を削られていた。


だか天網恢恢疎にして漏らさず、シルヴェスタめは領主様のお怒りをかい、その独占をなじられ、クラープ町北方の行商の営業は我々と同業の商会に引き渡された。


もっともシルヴェスタめが抵抗したため、買収価格はかなり高いものになってしまった。だが我々はシルヴェスタめよりはるかに商売にたけている。


すぐに取り返せるだろう。




 シルヴェスタ商会から引き継いだ従業員たちに向かって挨拶する。


「私はパラダ商会の番頭のバンディだ。諸君は今日からこの栄光ある老舗の商会の一員となる」


何か反応が悪い。


「とにかくパラダ商会の一員として誰に見られても恥ずかしくない態度をとるように」


こう言ってもいまいち反応がよくない。


「何か質問はあるか?」


「仕事と待遇は今まで通りということで間違いありませんね」

「ああ、そうなっている」

「マニュアル類が引き上げられましたが、今まで通り上手くいくのでしょうか?」


うん? マニュアル? なんだそりゃ、聞いてないぞ。


「なんなんだ? そのマニュアルというのは?」

「はあ、商売の手順やトラブル時の対応などが書かれた冊子ですが……」


なにかそんなことも知らないのかと言われている気がする。


「それがないと商売ができないのか?」

「いえ、ある程度は覚えているのでできますが、何かトラブルがあったときは難しくなるかもしれませんね」

「そうか、その時は上に知らせるように」

「わかりました」


マニュアルなんてものは聞いてなかったぞ。商売上の秘密やノウハウなら開示しないのは仕方ないが、ないと困ることになるのか?


そんな不安はあったとはいえ、商売はじめということでパラダ様も出店先においでになる。私もすぐに行かなければならない。




 実際の開店時刻より早めに広場につき、パラダ様を待つ。ところが予定の時刻がきてもパラダ様が来ない。


店員たちは客との約束があるので商売を始めたいというが、パラダ様は開店前に客に声をかけたいというので待たせておく。


15分ほど遅れてパラダ様の乗った馬車がやってくる。ふみ台を設置してパラダ様を立たせ、演説をお願いする。


「クラープ町で長らく商売をしてきた信頼のパラダが引き継ぎます。皆さん大船に乗ったつもりでご利用ください」


だが客の反応はいまいちだ。パラダ様もそこそこにお帰りになってしまわれた。




 手持ち無沙汰なので、客と店員の話などを聞いてみる。


「フェリス君、領主に無理やり商売取られたんだって?」

「ええ、公文書の写しも見せてもらいましたよ」

「そりゃ、あたしも見たよ。それであんたは仕事は変えないのかい?」

「いちおうシルヴェスタさんが交渉してくれて前の条件で働き続けることができるので。商会は違っても北部の住民のために頑張ってくださいと」

「ああ、そうかい。まあこの辺は、この行商がないと不便だからね。だけど、開店時間を20分も遅らせて、あんなくだらない演説聞かされたんじゃたまったもんじゃないわ」

「私の方もやきもきしていました。本当に申し訳ありません」


ふん、負け犬たちが勝手にほざけばいいさ。




 本店に戻ってしばらくすると、先ほどの店員が戻ってきた。


「先ほどの開店時刻ですが、あれは困ります」

「何が困るというのだ」

「開店時刻はお客様との約束です。それを簡単に踏みにじるようなことはしてはいけません」

「仕方ないだろう、パラダ様が初めにお言葉を述べたいと言っていたのだから」

「内部の事情で外部をかき回すようなことはしてはいけません」

「だまれ、これがうちのやり方だ」


全く腹が立つ。だいたい下の者が上の者に意見するなどまともな商会では考えられない。どういうしつけをしていたんだ。一から考え直す必要がありそうだ。



それから数日間は無事に商売も進んでいった。ところが数日が過ぎたころから行商人たちから声が上がる。


「小麦が北東の拠点に来ていません」

「油が北西の拠点に来ていません」

「どういうことなんだ?」


なんでも行商人たちの話によると、保存のきく物はまとめてそれぞれの地域の拠点に送られて、そこで行商用の荷車に補充していたという。


「なんで中心部の本店から持ってこないんだ?」

「なんでもその方が効率がいいとか」

「とにかく店は出さないといかん。小麦と油なしで売って来い」


そう指示すると行商人たちはぶつぶつ言いながらも出店先の方に向かった。何となく不穏な感じがあるのでこっそりついて行く。


「もうしわけございません。本日は小麦を切らせておりまして」

「フェリス君のときはこんなことはなかったのにねえ」

「ええ、それはきちんとしていました。どうも今度のお店はその辺がいい加減で」

「あんたたちがしっかりしてくれないとねえ」

「ええ、そうなんです。前のときは黙っていても的確な指示が来たので安心していましたが、今度は自分で注意していないと怖くて怖くて。でも上に意見すると怒られるんですよ」

「まあそういう商会は多いさね。あまりひどいようならやめたらどう?」

「本当に考えないといけないかもしれません」


あとで客と余計な話をするなとしかりつけてやろうかと思ったが、それはそれで盗み聞きが明らかになって体裁が悪い。気分もよくないが捨ておくことにした。


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