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マルコ(上)

こんどはマルコです。

 シンディとともにいつも一緒にいる相手にマルコがいる。こちらも教会の寺小屋で一緒だ。


なお父親はマルクであり、さらにマルケという兄がいて、村を出て修行中である。ちょうど年齢順で覚えやすい。マルカやマルキがいるかどうかは知らない。


マルエやマルオもありうるのか、などと考えるのは日本人だからか。マルサとなると税金をとられそうだ。そんなことはともかくマルコの話に戻す。




 年齢は俺より数か月だけ年下だが、身長は少し高く、細めである。俺も太っているわけではないが、マルコは痩せている上に筋肉がつきそうにない。


髪の色も目の色も黒に近いような濃い色であるが、肌の色は逆に白っぽい。これは本人がインドア派だからかもしれない。


眼鏡はまだこの世界では一般的ではないが、眼鏡があればマルコは間違いなくかけていただろうと思う。




「将来のこと考えないといけないよなあ」


まだ10歳にもなっていないのにずいぶん早いと思う。日本なら高校卒業か大学卒業が見えてくる頃に考えればいい。


だがこの社会では庶民の子は10歳くらいから徒弟として手に職をつけ始める。たいていの場合は親が自動的に割り振ってしまう。


かってによそと話をつけてきて、来月からそこに行けなどという。だから何かしたいことがあれば、あらかじめ親と相談しておかなければならない。


とはいえ、親の意向の方が強い世の中だから、本人の希望が親の許容できる範囲内でないと通るとは限らないし、それで当然とされる。




 マルコとも夢の話になったことがある。この時もシンディに話したのと同じことを言った。


「うーん、そこそこ働いて、いや働かなくてもいいけど、クロをなでながらそこそこの生活ができればいいや」

「夢がないなあ、なんかおっさんみたいだ」


また言われた。そりゃどうせ俺はおっさんだよ。そうだな、考えないといけないかもな。人に聞かれたとき用に一応用意しておこうか。そのうちそれが夢になるかもしれない。


そこでマルコの夢を聞いてみた。


「それは国一番の商人になることさ。王都に本店をもって国中に支店を出して、外国とも貿易したいな」


騎士団長になりたいと言っていたシンディもそうだが、親の職業の延長線上だ。やはり親の期待を内面化するのだろうか。


おれがちっとも聖職につきたいと思わないのは、神(猫オタ)の実態を知っているからか、それとも幼児のときから中身がおっさんだったからなのか。


「それで10歳になったらどうするんだ?」


マルコに聞いてみる。いつまで3人の関係が続けられるのかもある。


「わからない。商人になるとしたら、どこかの商店に徒弟に行くと思う。父さんの元では修行にならないし、店も小さいしね。


クラープ町に伯父さんが経営する本店があるけど、父さんは伯父さんと折り合いが悪いからないかもしれない。もしかしたらクルーズン市の方に行くかもしれない」


クルーズン市はここから徒歩で3日ほど西に行ったところにある都市だ。王都から南に向かう街道沿いにある。


「そうかあ、クルーズンに行ったらなかなか会えなくなるかもしれないな」

「そうだよね」


マルコは少し寂しそうに言う。


「まだまだ先のことだからな」

「ところでフェリスは何をするんだ」

「何も決めていない」


全く考えていないわけではなくて、チートを使って何かしようとは思っているが、マルコにはまだ言えない。チートを知っているのはロレンス司祭だけだ。


「ロレンスさんは何か言わないのか?」

「そういう話はしないね」

「教会に入るのもあるだろ」


司祭の見習いとして大きな教会に入ることはできる。それなら金もかからない。だけどどうにも性に合わない。修行僧のように朝から晩まで教会の中で黙々と作業している姿は想像もしたくない。


「俺には合いそうにないよ」

「確かにそうだね」


そこは否定し……ても仕方ないか。


「商人もいいかなと思っている」

「フェリスは……確かに商売に向いているかもね」

「おい、その間はなんだ?」

「いや、数字には強いし、村の配達の仕組みとか、本当に感心しているんだよ」


そりゃここよりずっと複雑な社会で学んできたのだから数字には強い。高校数学などこの国の最高の学者でも知らないことも多くありそうだ。配達の仕組みは元いた社会からすればずっと原始的だ。


「それなら、なんでさっき間があったの?」

「そこそこ働いて仕事辞めたいとか、まあそういう商人もいるけど、あまり大成しそうにないから」


あ、そういうことか。FIRE(Financial Independence, Retire Early)つまり金銭的自立と早期退職の概念はまだこの社会では理解されないということだな。


ついでにSC(stroke Cat)猫なで、という素晴らしい、まさに神の領域のことまで考えている。何も考えていないなどということはないのだ。


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