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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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譲渡価格でもめる

 営業の譲り渡しの具体的な話をする必要が出てきた。取り上げられると言っているがあくまでも譲り渡しだ。


さすがに対価はある。いくら横暴な領主でも営業権はともかく財産権までは取り上げられないらしい。どうも社会の構造がわからない。前世もわからなかったけれど。




 いろいろ工夫して作ったものだから長期的には持っていた方が儲かるものだ。


ただこの町の先行きの見込みが乏しいから、売り払ってしまってもっと見込みのあるクルーズンに投資するのも悪くはない。


自分自身ではそういう決断はできないが、強制されればそう言うこともあり得るとは思う。




 そこで予想していたことだが譲り渡し価格の点でもめた。


実はうちの商売が儲かっている理由は仕組みの部分が多く、資産はそれほどでもない。


北部の各地の店舗なども賃借だ。いちおう家畜や馬車や荷車はあるがそれはさほどの価格でもない。


かなりの部分はノウハウなどで儲かっている。ところがそれを評価するすべがない。



 これだけしか資産がないのだからと役所側が言ってくる。


だが提示された価格を分母に今年の利益を分子にして単純に割合を計算すると3割を超えてしまう。


これはいくらなんでもひどい。3年で元が取れるような商売はいくら何でもずるいというものだ。さすがに反論する。


「去年の利益はこれだけあります。譲渡価格の3割超の利益では利益が上がりすぎるでしょう。一般的な商売では5%程度です。譲渡価格はこの利益の20倍を主張します」




 役所はどうにも決めかねているようで、商業ギルドから参考人を呼ぶことになった。


そこで来たのが案の定というかよくもまあというかパラダたちだ。まったく役所を使って人の商売を安く買いたたくことしか考えていない。


「いや役所の提示した価格で妥当だと思います。資産がこれしかないのだから仕方ありませんな」

「ですから、出資して3年で取り返せるなどという投資は価格が安すぎますよね」

「それもお宅さんが勝手に言っているだけですな」

「いえ、うちはすべて複式簿記の帳簿をつけてあります。利益などはたちどころに把握できます」


こういうとパラダたちは歯噛みしている。どうせ連中はろくに帳簿もつけていないのだろう。


「そう言うわけで、去年の利益の20倍が妥当です」


パラダは役人と小声で何か相談している。おそらく役所の提示した価格も裏でこっそりパラダたちが作ったのだろう。本当にろくなことをしない。



 だいたい役所の決定に介入して、自分で買い取るのでは完全に利益相反だ。その部分を突くことにする。


「参考人になった方はまさか譲渡の対象にはなりませんよね」


そう言うと、パラダたちは明らかにしまったという顔になる。そこでさらに畳みかける。


「参考人となったものは向こう5年間は譲渡を受けられないことを定めてください。それまではこの話は進めないでください」


役人たちは当惑している。


「参考人になったものがその言により価格を決めてさらに譲渡を受けたら完全に利益相反です。参考人の意義はありません。どこか上に訴えますよ」


上というのは領主ではなくてもっと上だ。それがうまくいくかどうかはわからない。ただ過去に裁判の上訴をちらつかせたことがあるし、実際にクルーズン司教に介入させた。


そういう前があるためか担当者は困ったようで、結局その日の会議はそれまでになった。




 その後に役所からパストーリ氏に意見聴取があり、やはり価格の決定に中立の立場として関わった者が、実際に購入するのは不適切だと意見してくれたとのことだった。


半月ほどして、譲渡を受けられないとの規定は作れないが、参考人になる者には譲渡を受けない拘束力のある誓約書を提出させるとの提案があったので受け入れることにした。


それに伴い今まで上がっていた参考人たちが潮を引くように消えていった。しかも今まで言っていたこと自体も撤回とのことだ。




 そこで入った新たな参考人はクラープ町の土着組だった。もとより譲渡の相伴にはあずかれない人たちだ。


彼らはもとから譲渡分を得られる見込みはないためか、喜んで誓約書にサインをしていた。


しかも譲渡にあずかれないのが面白くないのか、こちらに味方してくれる。


「普通の商売では利益は資産の5%ていどがふつうですな」

「いや最近はこの町はあまり景気が良くないから、3%くらいになることもありますねえ」


こんな調子だ。パラダたちだけで参考人を決められれば、彼らの思い通りいったのだろうが、そういかなかった。


もう少しパラダたちが土着の商人にもふだんから気を使っていれば別だったのだろうが、そこまでの知恵も度量もなかったのだろう。




 参考人の意見を基にすると、利益の20倍程度が譲渡価格になる。さすがにそれはパラダたちは気に食わないらしい。


参考人というような明示的な形ではなく、領主あたりを通じて裏からこっそり役人に手を回すことにしたらしい。


そこでパラダたちの意を受けた役人たちが介入をしてくる。


「参考人の意見が一方に偏り過ぎているのはいかがなものか?」


公平を装っているが、参考人の意見が一方的にパラダたちに有利だったときには何も言わなかったくせに、どうかと思う。


だいたいこんなことは理屈が通っているかどうかで決めるべきだろう。




 けっきょくいろいろな悶着もあって、最近の利益の10倍というところに落ち着いた。


向こうの主張が利益の3倍程度で、こちらが20倍程度だから、間くらいかもしれない。




 今回のことで役所もパラダたちもノウハウや仕組みを評価することができないということは分かった。それならノウハウや仕組みなど提供するつもりはない。マニュアルも秘匿してやる。


いやもともとあまり見せるつもりはなかったのだが、いちおう商売が最低限回るくらいは譲渡しようかと思っていた。


それは向こうに行く従業員たちや、地域の住民のためだ。だがもはやそれすら減らしてやろうかと思う。



 これでたぶん今まで通りには商売が動かなくなるだろうが、それも仕方ない。


向こうに行かざるを得ない人たちにはちょっと気の毒だ。とはいえ彼らもさっさとやめて、あるいは商売がダメになって、こちらに戻ってきた方がいいと割り切る。


彼らにはいつでも戻ってきていい、5年以内なら何としてでも受け入れるからと繰り返し伝えることにした。


期限を区切ったのはその方が約束が強くなるし、本人も気後れせずに済むと思ったからに過ぎない。




 そうしてあまりの相手の敵意のために、引き渡す陣地の中に罠を作っていった。

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