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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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南部も人に委ねることについての幹部たちの反応

 領主にクラープ町の商売の北半分を取り上げられることになり、俺も幹部もクルーズン市に移動する意向となった。


ただ南半分をどうするか決める必要がある。みな手放したくないとは言うが、みな移るつもりだ。


考え方としてはドナーティ商会と合併し、株式会社にして経営者としてのマルクとカテリーナに委ねようかと思っている。マルクからは前向きの返事をもらった。



 そこで次には幹部にはかる必要がある。


「南側をどうするかだけど、ドナーティ商会と合併して、彼らに経営をゆだねようかと思う」

「え? それだとうちのものではなくなるの?」

「いや、出資はするからむしろうちのものの割合が大きい」

「もちろん出資者は経営に口出しするけれど、直接的にはタッチできなくならない?」

「それを株式という新しい仕組みでタッチできるようにしようかと思う」

「株? あの大根みたいなやつか?」

「いや、もともと切り株が語源らしい」

「ふーん、それでどんなもんなんだ?」

「詳しい制度はいま商業ギルドで調整中だ。出資に対して株式という証券を発行して、それを売り買いできるようにする」

「株式を持っていると何かいいことがあるのか?」

「ああ。それで株式を持っている者は、役員を選んだり、重要事項の議決をしたりすることができる。議決権は株数に応じてだ」

「ふーん」

「それに定期的には事業の出来によって配当金をもらえる」

「それはいいな」


みなは通り一遍の反応だが、マルコとカミロはちょっと何か考えている。


「売り買いということは、経営者に断りなしに出資できるの?」

「そうだ」

「これはなんかすごいですよ。他にどんな特徴がありますか?」

「議決などはできるが経営にはタッチしない。だから商会がコケても責任は追及されない。つまり借金が残っても株が紙くずになるだけで個人の財産からは払わなくていい」」

「それはまたすごい」

「まあその部分はちょっと微妙なんだけど、そうしたいんだ」

「ぜひそうすべきですよ。この枠組みなら出資者になろうという人がたくさん出てきます」


「何を食ったら、そんなアイディアが出てくるんだ?」

「いや、みんなと同じ軽食を取っているし、朝夕はシンディやマルコと同じだし」

そういうことを聞いているのではないだろうが、そう答えるしかない。


「いや何か秘密があるはずだ。なんだ?」

「ああ、そういえば、クロの毛皮を通した空気を吸っている」


実は猫吸いをしている。そう言うとアランたちは微妙な表情になった。ところがさらに微妙なのがマルコだ。彼はときどき猫吸いをしているのだ。


何となく微妙な空気がたえがたく話を進める。




「株式会社にすると、監督者となる取締役を選んで、経営者を監督させることになる。そんな形でドナーティか誰かに南側も任せることでいいか?」


そういうとみんな反応があまりよくない。明示的に反対しているというよりは何かよくわからないようだ。


いちおう考えておいてほしいと言って、会議はお開きにする。その後で個別に聞いてみる。





 シンディはやはりよくわかっていなかった。ただ何となく離れたくないらしい。

「ここでずっと商売できないの?」


前は騎士団に入りたいとか冒険者になりたいと言っていたのに、心代わりしたらしい。もちろん追い立てられるようになっているから仕方ないのかもしれない。


「領主もアレだし、軋轢がいろいろあるから先行きつらいと思う」

「そうよね」

「何か気になることでもあるの?」

「いや2人で行商回っていた時は楽しかったなと思って。うまく荷車を動かせなかったり、チンピラやっつけたり」

「そんなこともあったね」


まだ2年余りしかたっていないが、なんとなく感傷的になって思い出話を語り合う。


「でも向こうに行ってもたぶん楽しいこともあると思うよ。つらいこともあるかもしれないけれど」

「そうよね」


シンディはそのまま黙って何か物思いにふけっている。それ以上は話しかけなかった。






 アランもあまりよくわかっていないようだ。


「さっきの提案だけど、あれでいい?」

「俺たちが離れても、その株式会社の議決には参加できるんだろ?」

「株を買えばね」

「それは高いのか?」


制度自体がないから仕方ないが、なにか先行きの不安になるような言い方だ。


「細かく分割するから、一番小さい単位なら10数万で買えるようになると思う」


アランの給料は勤務時間のわりに悪くないはずだが、けっこう派手に使っているから貯金があるかどうかわからない。


「まあそれくらいなら……、少し節約すれば出せそうだな」


これから節約するのかい!


「でもそれで議決に参加できるんだろう?」


「いちおう重要事項には。ただ株主総会はふつう年に1回、何か臨時の会議があるときは別だ」

「それじゃふだんはほとんど関われないな」


「取締役になれば、取締役会に参加して経営者を監督することになる」

「それは給料が出るのか?」

「出るよ。ただ3か月に一度は会議に出て、もちろん諸表なども読んで、経営者ともやり取りしないといけない」

「表の読み方はアーデルベルトさんに習っている。こっちの商会は小さいころから関わったから先行きも見届けたいからな」


収入はともかく、本人の意識の上では売れない歌手が本業だと思っていたが、商売にもそれなりに思い入れがあるあるようだ。


たぶん大半の株を俺が持つことになるから取締役を何人か送ることになる。アランがうまくやれるなら彼が入ってもいいと思う。






 ジラルドはいろいろと質問してくる。しかもノートにまとめている。こういうのはありがたい。聞いても忘れるからな。


「あれでだいじょうぶだとおもう?」

「もう僕は半分以上クルーズンに行っているようなものですし、それで全然かまいませんよ」


いやありがたい。ただ実は引継ぎをジラルドに頼もうかと思っているんだよな。正直言うと一番安心できる。それはまたその時話せばいいことだけれど。ただ早めの方がいいような気がしないでもない。





 カミロはもう向こうの地図など見て、すでにどんな風に動くか考えている。言うまでもなくいく気満々だ。


しかも株のことも根掘り葉掘り聞いてくる。そのうち取引所を作って、相場ができてなどとどんどん考えが進む。


「うわさを流して相場を左右することもできそうですね」


何かカミロが黒くなっている。それをみんながしだすと刑事罰が制定されるんだよ。こちらの世界ではその前に領主が介入しそうだけど。


いやあの領主なら株を売り買いして、その後に株価に影響を及ぼすような政策を取りかねないな。


それはともかく悪いことを考えられるのは能力だと思う。それを実行に移すのはもちろんろくでもないことだが、人にさせないために考えるのは悪くない。


世の中はずるい人間がいくらでもいるのだから、そういう者を先回りして防ぐことも必要だ。ナイーブという言葉はバカの婉曲表現でしかない。





 リアナはもうクルーズンに行くつもりだし、実際に半分以上は向こうにいる。このまま向こうに行くのは確定だ。


エミリは引継ぎを始めつつある。エミリがいなくなっても工場が動くようにだ。


とはいえ向こうで管理が必要なほど軽食づくりが大きくなるのはまだ先だから、もうしばらくこちらにいてくれてもいい。


だけど本人がいなくても動くようにしておくのは悪くない。万一の事故もあり得るし、第一本人も気を使わなくて済むので楽ができる。




 そんなわけでみんなの心づもりも整いつつあった。


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