神との交渉と転生(下)
神との交渉の続きです。
やっぱり前書きとあとがきのシステムがわかっていませんでした。
「そうするとして、私はどんな世界に生まれ変わるのですか?」
「わしの世界の中に、猫や人間の住める星だけでもいろいろな星がある。お主の好きなものを選べばよい」
そこで全く世捨て人というわけでもないので、他に人がいた方がいい。地球の恐竜時代みたいのは避けたい。2020年代の日本より技術のある国も何か疲れそうだ。
ほどほどに人間の社会があって、ついでに魔法でも使えたら面白いと希望を出すと、神は俺たちを送り込む世界を決めたようだ。
「まあ事情はいろいろあるのじゃが、おぬしはその猫の面倒を見てくれればよい」
そう言われるが、正直言うと、また生きるのも面倒だと思っていた。そこで
「それは、やらないといけませんか?」
と聞いてみる。すると
「しなくてもいいが、結局は生まれ変わるのだ。その場合は記憶をなくして、虫になるか木になるかガチャでわからん」
そうかガチャか。そういわれると猫をなでていればいいというのは、しかも記憶が残るというのは、何かいい条件にも思えてきた。だがもう少し考えてみる。
俺に持ちかけるということは、何かその方が神にとって都合がいいのだろう。どうもこの神は猫に執着しているし、そのために以前には地球のある世界の神にずいぶんな対価を払ったようだ。
それなら少しくらい何か要求してもよさそうに思えてくる。
「それでは無敵とか強大な魔法とかいくらでも生産ができるチートとか、そういうのはつけてくれますか?」
神は少し悩んでいるが、諭すように言う。
「神も大世界の神の定めた物理法則は変えられないし、あまり極端な能力は高価なうえに世界の変化が大きくなりすぎるので無理じゃ。」
大世界から見たらこの神は子会社の予算の限られた中間管理職みたいなものか。
「それでは大貴族とか大富豪の三男坊あたりに生まれさせてくれますか」
長男だと家を継いで政治や経営に忙殺されそうだが、三男あたりなら優雅に余生を送れそうな気がして要求してみた。
「それくらいならたやすいが、その辺でも転落や謀殺などはありうるぞ。ほどほどにしておいた方がよいのではないか?」
確かにそういわれると面倒そうだ。
「まあ、猫のこともあるからそんなに悪いようなところには送らない」
どうも要求してもまともに聞きそうにない。そこでちょっと方法を変えてみる。どうもこの神は猫がらみになると甘くなるようだ。
「それではお願いがあります」
「うむ、なんじゃ?」
「生きていく中では、猫のところから離れることもあるかと思います」
「それはそうじゃろうな」
「猫が家から逃げ出すかもしれない。猫のいる家から離れて遠くに行かないといけないかもしれない。それでは不安でたまりません」
「それはまあそうじゃの」
「そこでですが、どこにいても猫のところに帰れるようにしてもらえませんか」
「うーむ、それはもっともじゃな、帰れるようにしよう」
「ありがとうございます。猫のところに帰れるだけだと、例えば仕事で遠くにいて猫のところに帰った後に元の場所に戻れないとなればいろいろ差し支えます。
しばらくの間は元の場所にも戻れるようにしてください」
神は少し迷っているが
「まあ猫のためなら仕方がないか、それもなんとかしてやろう」
といって要求に同意した。やはりこの神は猫にかこつけて頼みごとをするに限る。
「ありがとうございます。これで安心して心おきなく、猫の面倒を見ることができます」
大樹は殊勝なことを言う。
「神の恩寵をギフトという。とりあえず転移のギフトは後回しにして祝福をしてやろう」
そこで神が大樹の肩に手をかけ目を閉じると、大樹の体はぼんやりと光った後に落ち着く。どうやら祝福されたようだ。
「これでお主は地球の記憶を持ったまま2歳児として生きていける。地球の記憶を忘れずに、しかも思い出しやすいようになっているはずじゃ。
それから知力も体力も、これは努力次第じゃが、素質の方はきちんとつけておいた。転移の方はちといろいろ準備がいるのでまた今度じゃな」
努力次第か、それはまた面倒そうだ。とはいえ素質だけでもあればありがたい。ついでに地球の記憶を使えば日本より遅れた社会なら大儲けできるかもしれない。
猫をだしにして約束させた転移の方は使いようによってはものすごいチートになりそうだ。大樹はひとりほくそ笑んでいると、神は猫の腰のあたりに触っている。
猫は嫌そうにして逃れようとしているが、神は平気で叫ぶ。
「状態異常無効!」「攻撃無効!」「無敵!」「危険回避自動転移!」「不老長寿!」
「あとは何をつけようかねー、ずっと見守っててあげるからね」
神はニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべている。猫の体はまばゆいほどの光を放った後に元に戻る。偉そうなことを言ってチートはつけられないと言っていたが、どの口が言ったんだ?
人間だと社会への影響が多すぎるからななどと言い訳しているが、どうも実際のところは代償が高すぎるのでそんなに用意できないらしい。
好きなもの相手なら金に糸目をつけないところ、こいつオタクか。
「それからな、猫はこの世界にはいないから、この世界の人間には小さめの犬に見えるようにしておく」
まあそういうことも必要だろう。
ある初夏の朝、そろそろ暑くなってくる頃、リオーヌ王国南部クラープ町郊外のセレル村のハトゥール教の教会でロレンス・シルヴェスタ司祭が説教の準備をしていた。
司祭らしく教会の法衣を着ている。教会などと言ってもこの小さい村では聖堂があるわけでもない。
ふつうの家よりは少し広めの礼拝堂と称する建物があり、前方は例の神を模した聖像と説教壇となっている。神はこちらでも人の前に現れたことがあるのかもしれない。
後方は教会で思い浮かべるような固定式の座席にはなっておらず、村の集会場代わりに使うようにやや広い空間だった。
それ以外に司祭の居住スペースと物置がある程度である。
その礼拝堂の片隅にゆりかごが置かれており、司祭はその中に幼子と子犬が寝ているのを見つけた。幼子は2歳くらいの男の子で、子犬と抱き合って寝ていた。
子どものそばには「フェリス」の名が記された紙があった。
司祭にはそのゆりかごがあまりにも神々しいものだと思われた。それもそのはずで、そこには神が降臨しており、また子犬は実は魔法でそのように見せかけられているだけで、実は厚い祝福が施された猫であった。
あまりの神々しさに司祭はこの孤児をここで育てることをすぐに決めた。少し離れたこの村より大きいクラープ町の孤児院に持っていくこともできたが、どうにもこれが神のご意思だと感じられたのである。
夜に続きを投稿します。