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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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移籍する人たちへの説明

 またしばらくしてウドフィから呼び出しを受ける。従業員たちへの説明についてだ。


「その方が従業員たちに説明するように」

「ええ、それはけっこうですが、時間をいただきたいと存じます」

「どれくらいの時間がかかるのだ」

「それはどこに人を移すのかの調整もありますし、また年に数回しか来ない者もおりますので、半年ほどは見ていただけると幸いです」




 そう言うと、ウドフィは少し難しい顔をする。


「その方にはその方で事情があるのだろうが、ちょっとそこまでは難しいな」


以前であれば激高していたのだろうが、付け届けやらゴマすりやらで少しは丸くなったらしい。

まったくろくでもない。


「ご事情はごもっともかと存じますが、スムーズにしようと思えばやはりいささか時間をいただきたく存じます。調整が失敗したときにはぜんぶご領主様の責任になって、従業員からは恨まれるかと存じます」


そう言うとウドフィはひるむ。自分の失態で領主の名前に傷がつくのはまずいと思ったらしい。権威主義的な人間にありがちだ。


それでまた引き下がる。どうせまた相談してくだらない考えを持ってくるのだろう。




 相手が判断がつかない無能だと、話を進めたいときは困るが、話を進めたくないときは逆に助かる。


これが有能だったりすれば、かってに判断されて話を進められてしまう。この点だけはウドフィ氏に感謝するべきだろう。





 またウドフィから呼び出しがある。2か月時間をやるから従業員への説明をせよとのことだ。


「いや、その時間だとトラブルが起こりえますが、よろしいのでしょうか?」

「ああ、それはこちらで引き受ける。だから2か月で片付けよ」


どうやら中での話がまとまったらしい。だがこちらにはまだ条件がある。そちらを持ち出す。


「ところで従業員に説明しなくてはなりませんが、待遇は従来通りで引き継ぐということでよろしいのでしょうか?」

「うん? それはそうなのだろう」

「いちおう、その旨も公文書でいただくようお願いいたします」

「お主は注文が多いな」

「後の安心を考えますと、事前に仕込みが必要になるのでございます」

「うむ、わかった。それは用意しよう」


公文書がないと従業員を説得できないのは確かだ。後の安心というのは役人が無茶を押し付けてきたときへの備えだ。別に役人やパラダたちの安心のためではない。





 従業員たちには譲渡が決まったときから説明は始めていた。


すでにウドフィの出した領主の名代としての文書があるので話が少しはスムーズに進む。


うちの待遇でみんな満足している上に、パラダの評判が悪いので向こうには行きたくない者ばかりだ。


領主に迫られて差し出さざるを得ないという形になっているのは悪くない。そうでなければ猛反発だっただろう。




 バイトの子どもたちも含めると経緯の説明の文書が数百人分は必要なので、印刷して配ることにする。


とはいえ活版印刷はさすがに高くて使えない。版木を彫らせて簡易的な印刷物を作った。


口頭だけだと何を言ったか言わなかったかわけがわからなくなり混乱するが、文書があるとその点は統制されるようで、あまり混乱がなかった。


逆になかったとしたらどんなことになっていたのか怖い。




 さて問題は誰が譲渡対象地域に行くかということだ。まず譲渡対象地域である北部の人で遠くまで行きたくない人はそのままそこで勤務になりそうだ。


それでも南部に移りたい人については移ってもいいことにする。またもしパラダの元に行った後に辞めてこちらに移りたければ移ってもいいことにもする。


それからクルーズンへの移転について、クルーズンに移ってもいい者については、しばらくはクラープ町北部に移ってもらうことにした。


もしパラダがまともな商売をしてまともな待遇を続ければそのままいてもらっていいし、そうでなければクルーズンに移るというもくろみだ。




 さすがに気の毒なので対象地域に勤務する者については昇給することにする。これは3か月くらいでパラダらに引き継がれるのでうちとしてはあまり痛くない。


昇給もあって気の毒な地域に残ったり移ったりする人の人選は少しはスムーズになった。それくらいのおまけでもないとやっていられないだろう。


だいたい組織を移るだけでもつらいのに、さらに評判の悪い経営者だからなあ。





 そちらはいいとして、問題は配達などの子どもたちだ。基本的には住んでいる地域での勤務なので北部から動くのが難しい。


もっともそこまで雇用関係が強くないバイトだからやめてしまえばいいというのは確かだ。


とはいえ、読み書きなど教えて将来に備えているので、そのまま手放すのも惜しい。


さらに子どもたちももちろんだが親御さんに説明しないといけない。しかも説明の前に事実関係を整理して、その上に失敗したときの対策も考えないといけない。



 パラダらが子どもたちをぞんざいに扱う可能性はある。


その場合は、前に考えていたように、馬車を出して子どもたちを送迎して別地域でバイトさせる方法はある。ただ慣れていない町で仕事させるのもあまりうまくない。


そうすると本部の内勤だろうか。いちおうそんな感じで考えて幹部と話すと、本部でこまごまとした仕事がいくらかはあるという。


まさかパラダたちから逃げてくることになっても、他の仕事に就く子も多いだろうし、全員がくるとは思えないからそこまで悩む必要もないかもしれない。


もしそれで足りなければ、また新しいサービスでも考えればよさそうだ。


とりあえずそこまで準備しておいて、子どもたちの母親たちに説明することになる。いつも塾をしているスペースで説明会を開く。


「すでにパンフレットでお知らせしていますが、ご領主様の命令でこの地域の事業を他の商人に譲渡することになりました」


みんな知っているはずだが、ざわざわする。


「どの商人が後を引き継ぐの?」

「まだ決定ではないですが、パラダ商会らと思われます」


さらにざわつきが大きくなる。


「パラダたちでは心配ですが、どうにかならないのですか?」

「それが私どもとしても大変に残念なのですが、こちらの文書にある通り領主様の決定なのです」


たぶん失敗するだろうから、その時のためにも領主が悪いということを強調しておかないといけない。


「まったくあのパラダときたら、領主に取り入ってやりたい放題!」

「領主も領主よ」

「うちの子はフェリスさんのところでまじめに仕事に取り組んでいたのに大丈夫でしょうか?」

「いちおう領主様の名のもとに、引き継いだ商人には従来と同じ待遇を義務付けています」

「そうは言ってもね。あのパラダたちでは何をするかわかったものじゃないわ」


ギルドでの俺に対する態度もひどいが、客に対する態度もひどいのかと呆れる。


まあ権威主義で上にこびへつらう人間は往々にして下と思った相手を当たり前のように見下すからなあ。


「もしご心配でしたら、契約のときにどなたか代表者の方に出席してもらえるよう取り計らいます」

「そうしてもらえると助かるわ」



そうやって働いている人への説明も進んでいった。


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