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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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35. 話し合いの決着

 領主がうちの事業を取り上げようとしていることについて、アーデルベルトたちと話した後に、また会議を開くことになった。


家を出る前にクロを抱きしめる。今日の会議の成功を祈ってだ。そうしてもクロは別に何もなかったように鼻を擦り付けてくる。




 領主とは争うことに決めた。それ自体はみんな賛成してくれるだろう。ただみんなの考える正面衝突ではなく搦め手だ。


とりあえず事業の一部は領主の取り巻きの商人に譲ることにする。だが、それを失敗させて取り返すのだ。


ただ譲渡対象になった従業員についてはもしかしたらしばらく不幸せになるかもしれない。そういう犠牲付きの選択肢だ。


正面衝突したらたぶん負ける。勝つかもしれないが、当面は商会全体がかなりひどい目に遭って、ずっと後になって勝ってもその損失を取り返せそうにない。


みんなの生活が懸かっている中でそういう選択肢は取りにくい。


クロはいいなあと思いつつ、クロを強く抱きしめて心を決める。今日は方針を決めてみんなに納得してもらう。





 本社に出て朝から会議となる。あらかじめ幹部は招集しておいた。そこで俺から話を始める。


「ずっと懸案になっている事業譲渡のことだけど……」


幹部たちが俺が何を言い出すのかと不安そうに見守っている。こういう空気の中で話すのもつらい。


「とりあえず領主に従って事業の一部を譲渡しようと思う」


みんなはお互いに顔を見合わせて反対を口にする。


「なんで? あたしたちがずっと育ててきた商売じゃない?」

「そうだよ。本当に数人の行商のころからずっとここまで作り上げてきた」

「本当にそれでいいんですか?」

「僕の築き上げてきた芸術的な流通網が崩れてしまう……」

「食いもんの方はどうなるんだ?」

「そのあとはどうされるのですか?」


やはりみな譲渡には賛成できないらしい。それはそれでうれしいのだけれど、そのままでは話が進まない。


「いやそう言うことじゃないんだ。商業ギルドのパストーリさんが言うには領主と商人の争いは過去にもあったけれど、全部商人が負けているというんだ。だから正面衝突では多分勝てない」


「それでもやってみないとわからないじゃないか?」

「そうだよ。今までダメでも今度は上手くいくかもしれない」

「店主が争わないなら俺たちだけでも……」


このまま領主と争わないなどということにすれば、分裂しかねない勢いだ。きちんと説明しないといけない。



「いや聞いてくれ。正面衝突を避けたいだけなんだ。2つ問題がある。まず簡単な方からいこう。もうこの町での商売は今回のことがなくても頭打ちだ。

人も流出しているし、先の見込みがない。幸い、ジラルドとリアナが先鞭をつけてくれたのでクルーズンの方はうまくいきそうな雰囲気だ。だから商売のメインはクルーズンに移そうかと思う」

「大都市で勝負か」

「ここは故郷だけど、それがさびれてなんとなくさびしいけれど、仕方ないですね」

「あの領主じゃなあ」

「クルーズンはまだまだ人が増えていますから。有望でしょうな」


ちょっと話をそらした感じだが、移転についてはわりとみんな好意的に見える。



「それでもう1つの問題は何なの?」

「新天地に行くとは言え、いままでの事業を手放すのは賛成できないぞ」

「クルーズンはいいですが、それはそれ、こっちはこっちですね」

「もう1つについては、争うことには賛成なんだ。ただその方法だ」

「どういうこと?」

「ここからはみんな秘密にしてくれ」


いちおう部屋を戸締りして確認する。



「つまり正面から争うのではなく、営業の一部を譲渡して、それを利用しつつ争うことなんだ。

うまくごまかして5割を譲渡すると言いつつ、あまりうまくないところを譲渡する。実際の売り上げ規模では3割程度にする」

「なるほど。おいしいところは取っておくと」

「広くて手間がかかるわりに人が少ない地域などあるね」


「ノウハウやマニュアルは秘匿する。もちろん流通網も使わせない。そうすれば向こうはかってに自滅すると思う」

「あれがないと商売は上手くいかないだろうな」

「勝手に相手がつぶれればいいわね」

「うまくいかなければまたうちが取り返せそうです」

「一度失敗すれば、向こうも二度と欲しがることもないでしょうな」


「後は自滅した後はこちらが取り返す。その時はさすがに領主も口を出せないだろう」

「じゃあ、やっぱり闘うのね」

「そうこなくっちゃ!」



「ただちょっとまずいところもありそうですね」

みんな盛り上がっているところにジラルドが疑問を出す。見落としがあるかもしれないので、大歓迎だ。


「どんなこと?」

「譲渡する場合はその地域の使用人は向こうに行くわけですよね。それに地域のバイトも。パラダたちだとひどい扱いをしませんか?」


確かにその通りだ。いちおうそれも不十分ながら考えている。


「譲渡に当たっては従来通りの条件で雇うことを契約の中に入れる。従業員本人だけでなく、うちとの契約にしてそれをうちが監視して縛る」

「なるほど。大人はそれでいいとして、子どもたち相手だと平気でだましたりしかねませんよ」

「それは親によく伝えておこう。それに向こうの扱いが悪いようなら馬車をよこしてうちの管轄の地域に子どもを招いてバイトさせるようにしよう」


「わかりました。実際にやってみたらまだ問題がおこりそうですが、使用人はそれでいいとしましょう。ただ地域で物を買っている人は困りませんか?」


確かにその通りだ。ただ領主に迫られてやむを得ずなので、ある意味領主の責任なのだ。


「確かにその通りなんだけど、それは領主のせいだからなあ」

「それはわかります。ただ問題が起きたときに対処できるようにしておいた方がいいかと」


以前のジラルドなら譲渡自体にどうしても反対した気もするが、責任のある立場を経験しているからか少し柔軟になった。


「それなら明らかに販売体制に支障が出た場合は、うちが再参入できる条件を付けておこう。

いやそれだけだと突かれる可能性があるから、うちの地域でも支障が起きれば向こうが参入できるようにしておこう」


もともと自由に商売していい話だったのに、地域を分けてお互いの地域には入らないなどというのはどう考えてもむしろ独占が進んでいる。


どうしてこう領主たちはろくでもないことを考えるのだろうかと思う。


「どうせパラダたちは、これをてこに俺たちの商売を全部取り上げるつもりだろうから、それで乗ってくるかもしれないな」

「わかりました。くれぐれもそれらの条件を守らせてください」


そういうわけで、いちおう話し合いはまとまった。あとはまた家宰と話さないといけない。


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