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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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家宰がやってくる

 ウドフィが俺に応対していたが、それでは役者不足だ悟ったのか、家宰がやってきた。


商業に関わっているらしいがなんだかよくわからない地位で専門性も怪しいウドフィよりはるかに上役だ。領主の次のナンバー2ともいえる。


「当領の家宰のイグナシオだ。今回はウドフィに代わって私が担当する」

「シルヴェスタ商会のシルヴェスタです」

「さて貴商会の独占の問題の処理についてずいぶん滞っているようだが……」

「ええ、ウドフィ氏から独占だと言われましたが、私は見解を異にしているところでございます」

「ほう? それは何ゆえだ?」

「これもウドフィ氏には説明しましたが、行商だけならこの町でかなりの割合ですが、小売り全体から見るとそうでもありません。またそれら小売りと競合して価格を統制できているわけでもありません」

「まあ、その言い分はもっとものように聞こえるな」

「それではこの話は差し戻しでよろしいですか?」

「それがな。独占だとの判定はすでにご領主様の決定になってしまっているのだ」

「しかし根拠がなければ、決定など撤回するべきではないのですか?」

「そうは言ってもな、営業権というのは王国法でも領主の裁量が大きいのだ」

「だから諦めろと?」

「その方は争うことを考えているだろうが、上に行ってもその方の思い通りにはなりそうにないぞ」


それは過去の例からも恐らくそうなのだろう。


「しかしあまりに無茶な仕打ちと思われます」

「確かにそうだが、あくまで事業の譲渡だ。タダで取り上げるわけではない」

「しかし客も使用人もみな満足しているところ、とつぜん経営が変わるのが良いとは思えません」

「まあ確かに良くないな。ただどうせなら、早く譲渡した方がいいぞ」

「それはなにゆえですか?」

「自主的な譲渡となれば譲渡の場所や内容をある程度は選ぶことができる。時間がたって強制となればかってにこちらで選んで取り上げることになる。どちらがいいかはすぐにわかるだろう」



 そう言われると確かに自分にとって都合のいい者だけ残し、あまり都合のよくないところを譲渡するのがいいように思えてきた。


もしかすると家宰のイグナシオにだまされているのかもしれない。ただどうも前の役人のウドフィとは少し雰囲気が違うようにも思うのだ。


いちおうこちらの立場も理解している節がある。それに交渉の仕方があれよりうまい。選択次第ではこちらがいくらか有利になるような餌を仕掛けてきている。




 ここで少し考える。あまり儲からない場所だけ譲り渡せばいい気もする。さらに使用人も辞めたい者や外に移るつもりのある者がいるので、そちらに入れ替えておいてもいいかもしれない。


「譲渡した場合に、譲渡した対象の地域でこちらが新たに商売を始めることは可能ですか?」


家宰のイグナシオは少し考えている。


「いやそれはすぐにはわからないが、できない可能性が高いな」


もともと自由競争だったのに、むしろカルテルに成り下がっている気がする。とはいえ、こういう条件を突き付けてきたということは取り上げるつもりのようだ。


実際は幹部と話さないといけないが、とりあえず今日はまた時間稼ぎをしようかと思う。


「かなり異様なご命令ですが、ご領主様のご決定に間違いはありませんか」

「確かに私が聞いた」

「正式な決定でしたら、公文書があるはずですね。そちらを拝見できませんか?」

「そんなものをなぜ見せる必要がある?」

「私に対する公の決定ですよね。私がそれを見るのは当然かと思います。そもそもあなたが本物の役人かどうかも私には確認できません」


実際に役人を装った詐欺は横行しているのだ。




 家宰は領主から早く片を付けるように言われているようで、少し焦っているようだ。そもそも突然ナンバー2が現れたのも領主が急いでいるからだろう。


「わ、わかった。文書を持ってくる。しばらく待っておれ」


1週間ほどして家宰がまたやってくる。領主に確認したらしい。まったく使い走りのようにご苦労なことだ。


「これが公文書だ。間違いないだろう」

「はあ、確かにそのように見えます」

「そのように見えるとはどういうことか?」

「つきましては写しをいただきたく存じます」

「なんでそこまでしなければならんのだ?」


「手前ども、営業権を取り上げられるとなれば仕入れを大幅に減らす必要があります。それには仕入れ先に説明しなければなりません。

それに店も借りておりますが、これも撤退しなければなりません。もちろん家主に説明する必要があります。

それらをするには私が公文書らしいものを見たというだけでは十分ではございません」


「それはそちらで何とかすればよいだろう」

「いえ、ご協力いただけないようでしたら、取引先と家主に公文書を確認するように依頼するまでです。その際はまたお持ちいただくようお願いします」


家宰はまた面倒が起きたと嫌な顔をしている。


「えーい。わかった。それで文句がないな」

「それから、公文書が真正なものであることと、写しが公文書と同内容であることについて、しかるべき立場の方からの保証の文書も一緒に賜りたく存じます」


ついでだからさらに要求してしまった。交渉は相手が焦っているときに限る。家宰は心底嫌そうにメモを取ると、荷物をまとめて帰って行った。




 また1週間ほどして、家宰が来た。なんどもクラープ町とゼーラン町の間を往復したのだろうか。


写しとともに、公文書が真正なもので、写しが間違いなく公文書と同内容であるとの、家宰と町長のサイン入りの文書が手交される。


それをしている間に、こちらはこちらで善後策を考えていた。



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