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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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高圧的な聴聞

 しばらくして2回目の聴聞会とやらに呼び立てられた。担当はまた前回と同じウドフィだ。


「さてクラープ町での営業に関する件についていろいろと問いたい」


正直な話、それを問う根拠を聞きたいものだが、封建領主の下では領主の思い付きは根拠になってしまう。


そんなことがまかり通っているからこの領は人が逃げ出すのだと思うが、そんな正論は目の前の役人には通用しないだろう。


「はあ、なんでしょうか?」

「その方のクラープ町での営業の独占状態についてだ」


独占ではなく独占状態になった。うちが別にほかの商会の邪魔だてをしていないことは調べがついたのだろう。だが何とかして独占していて排除することにしたい。


つまりパラダや領主が俺が不当に独占していることにしたいから、独占ということになるというのが結論のようだ。


「このような独占の状態が悪いとは思わないかね?」


応えにくい質問だ。独占は確かにいいことではない。競争が促進されないからだ。ただうちは別に不当な方法でそうしたわけではない。


前世にあった独占禁止法ではカルテルやトラストによる独占の規制が本来の意図だが、競争の結果の独占的状態も場合によっては排除することがある。場合によってはの部分が思い出せない。




 ただ独占が悪い、つまり自由競争がよいなどという考えが封建時代に浮かぶものだろうかとは思う。


パラダらの本家筋だって、領都では領主と結託して、カルテルを組んで他の業者を排除しているだろう。


自分たちはそんなことをしていても、自分に都合の悪い者に対するいちゃもんだったら、いくらでも考え付くのが人間のようだ。おそらく自分に都合のいいもっともらしい理屈を考えたというところだろう。



 だがよくよく考えると俺が独占しているというのもおかしな話だ。もちろん行商についてだけなら独占状態と言われても仕方ない。


 そうは言っても店舗も合わせた小売り全体から見れば俺の商売など独占には程遠い。


「よくよく考えてみますと、私の商売はこの町の小売り全体から見ると大した割合ではありません。独占とは程遠いですね」


役人は当惑している。俺の独占状態を前提にして、それをよいと言っても悪いと言っても、何か攻撃するつもりで準備していたのだろう。


そこにまるっきり違う答えが返ってきたためか、攻めあぐねている。


「だが行商はその方の独占ではないか?」

「30分か1時間歩けば町中まで買い物に行くことができます。ですから中心部の店との価格の競争があるわけです。つまり独占とは言えません」

「だが町の周辺部の人間は中心部など買いに行けないだろう?」

「他ならぬパラダ氏らが、中心部まで買いに行った方が健康を保てるなどとギルドで発言していました」

「いまはパラダの話ではない。周辺部の人間はお前の独占で高い金を払わされているわけだ」


パラダらが俺が独占をしていると文句を言って始まった話のはずだが、パラダは関係ないらしい。



「周辺部でもそれなりに中心部に近いところでもうちの行商の価格は同じです。

中心部に近いところでは中心部の店の価格に近くしないといけません。実際にドナーティの店の1割増しです。独占で決まっているわけではありません」


「周辺部のものは中心部に行けず、1割増しの価格で買わないといけないのだろう?」

「以前は周辺部の人も買いに行っていましたし、いまも行けます。1割乗せても楽ができるからいいと皆さん選んでいるのでしょう」


「だからお前の店に1割取られて……」

独占かどうかの話だったのに、完全に話しがすり変わっている。


「値段を決めるのは商人の勝手ですし、別に暴利をむさぼっているわけでもありません。よそに参入してもらっても全く構いません」


商売は長く続けたいのでそれなりに利益が上がれば暴利をむさぼるつもりはない。よその参入もすでに何度も受けている。


ただノウハウや魅力的な商品がなくてたいして儲からないからどこもやめているだけだ。


「次から次へ理屈をこねおって、わしの後ろには領主様がいることを忘れるなよ」


自分たちの考えたうまいつもりの理屈が否定されたことに怒っているらしい。話をすると言っても結論を押し付けたいだけなのだろう。


「とにかくお前の独占が問題なのだ」

「ですからどうぞご自由に参入してください」

「だったらなぜほかの商会は続かないのだ?」

「商売の仕方がまずいのでしょう」

「その方の商売の仕方をほかに教える気はないかね?」


まさか商人が独自に編み出した商売の方法を人にタダでくれてやるなどということはあり得ない。

「商売上の秘密など他に教える商人はいません。そんなことは絶対に受け入れられません」


どうも実際の物がない知的生産物はタダだと思っているらしい。ずいぶんな費用をかけて作ったし、それで儲けているのだけれど。


「とりあえず今日のところはこれまでだ」

相手はもう手がないようで、投げ出してしまった。


まったくくだらない徒労だ。家に帰って猫吸いでもして癒されよう。


その日は本社に戻るのはやめにして、家に戻ってすぐにベッドに体をうずめ、クロの背中に顔をうずめた。


何でこんな天上の存在と交流する俺が、あんなつまらない役人の相手をしないといけないのだろう。


「わしの後ろには領主様がいるのを忘れるなよ」

だって。こっちなんか後ろに至高至尊のクロ様とその眷属の神がいるんだぞ。


そう思いつつ、クロ様は面倒ごとなど何もないかのように、首を曲げてこちらをご覧になられた。



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