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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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クルーズン司教との面会

 なんとなく気の重い宿題だったが、クルーズン司教に面会することになった。

会わなくてはならないのは塾を作るのに助祭を雇いたいからだ。


聖職者の位階は大司教・司教・司祭・助祭の順となる。司祭もたいして稼ぎはよくないが、助祭となるとさらに貧しい。


だから彼らはアルバイトをする。読み書き能力は高いのだが、あまり金儲け向きの教育は受けていない。そうすると商会などはあまり仕事を頼みたがらない。


もっともそれも育て方次第で使えるようになるようにも思う。実際にうちは書類の整理など頼んでいる。


だが今回はそう言うことではない。子どもたちの読み書きを習わせるための塾の講師をしてもらいたいのだ。これならまさに彼らにうってつけだ。


俺がバイトを頼めば助祭たちはずいぶんと助かる。お互いにうれしい。




 塾の生徒は町ではバイトの子たちと有料の生徒と両方いたが、こちらではとりあえず有料の生徒だけだ。そこで教師役の助祭が必要になるが、探すのはもちろん教会だ。


クラープ町でも教会のサミュエル司祭に頼んで助祭を紹介してもらった。だからクルーズンでも教会に頼むことになる。





 ロレンスに紹介状を書いてもらい、クルーズン司教チャールズ・マクレーンに会うことになった。


ただ会うと言ってもロレンスやサミュエルと違い、事前に面会の予約を取らなくてはならない。


ロレンスやサミュエルは村や町の司祭であり、信者がふらっと現れて何か悩み事を聞いてもらう相手だ。それに比べて司教はもっと上で組織を動かす役を担っている。


信者の悩みを聞く役としてはもっと下に複数の司祭や助祭が置かれている。




 教会は新市街ではなく旧市街であるやや南側にある。


もともとクルーズンは南の方に街ができたが、手狭になって領主館をはじめ政治的な諸機関がやや北の当時は何もない野原に移ったのだ。しかし教会は移ることなく旧市街にある。




 さてクルーズンの教会は町村のそれとは建物自体が全く異なる。村でも町でも木造だったし、村の教会は村の他の家よりは少しマシだったが、クルーズンの中心街のふつうの建物にも劣る。


町の教会はそれより少しマシな程度だ。それがクルーズン市の教会となると壮麗な石造りで、尖塔があったり、彫刻が施されている。


もちろん内装も全く異なる。さらに機能ごとにいくつもの部屋もあり、管理部門用の執務室もある。

約束の時間に教会に出向くと若い助祭の方に案内されて奥の方に通された。




 重い両開きの木の扉を通ると、向こうはかなり広めの明るい執務室であった。


大きなガラスがあるわけではないが、開閉できる窓があり、ふつうの執務用の机を4倍くらいの机が置かれている。



 机の前ではなく、少し離れたところに応接用のソファなどが置かれている。司教は50代くらいのやや恰幅がよく大柄の男で、白い法服は金色で装飾されている。顔色はやや浅黒く目が大きく、自信に満ちている。


フェリスはクルーズン司教に相対し、明らかにこれまでの聖職者とは異なることを悟った。むしろ日本にいたころの発注元の大企業の役職者あたりと雰囲気が似ているのだ。





「シルヴェスタ様、こちらが当教会のチャールズ・マクレーン司教です」

「司教様、こちらがフェリス・シルヴェスタさんです」


助祭さんが紹介する。こちらが考える前に司教は俺の手を取り、握手することになる。

「ようこそおいでいただきました」


「シルヴェスタ様はセレル村のロレンス・シルヴェスタ司祭の下で育ち、それは敬虔な信徒でいらっしゃいます」

「それは頼もしい。ロレンス司祭はよい信者を育てた」

「いえいえ、私なんぞは全く罰当たりもいいところで」


今朝もあのクロにまつわりついているアホ相手に悪態をついてきた。



「司教様、シルヴェスタ様はクラープ町でいくつもの塾を作られて、教会の者がそこで教えております」

「子どもたちが教会の教えに触れられるのですな」

「はい、教会の皆様にはずいぶんお世話になっております」


別に教えを広めたいわけではないが、知識人としてはありがたく活用させてもらっている。


「そこでクルーズン市でも同じように塾を作りたいとのことです」

「それはそれは、大変ご奇特なことです。教会の教えがますます広がるのですな」


別に教会の教えを広めたいわけではなく、読み書き計算を教えたいだけなのだが、逆らう必要もないのでにこにこしておく。



「クラープ町ではシルヴェスタ様は当教会に少なからぬ寄付をしてくださっております」

来た来た。まあ布施を出せというのはわからないでもない。


「神様から頂いた恵みに少しでもお返ししたいと思います」


いや神からは……いちおうギフトはもらっているか。あれは対価だけど。教会と神とは別だが、いちおう教会から利益は得ているからな。ここでも役に立ってほしいものだ。


「それは大変にありがたいことです。神様もよくご覧になっていることでしょう」

司教はあまり表情を変えずに答える。やはり一筋縄ではいかないようだ。


だいたい神なんぞはクロのことしか見ていない。俺がうまい肉でもクロに持って行った方が、よほど神のお気に召すだろう。


もちろんそんなことはおくびにも出さない。


「はい、神の家である教会には可能な寄付はしていきたいと思っております」


実際は神の家は俺の家なのだが、そんなことは言えない。その神も単なる猫の手下でそんなにありがたいものではないのだけれど。


「教会には様々な活動がございます。敬虔な信者の方の力で教会の発展がございます」


遠まわしだが、寄付の要求だろうか。まあクルーズンの教会は発展しているな。


セレル村の教会が大風で倒れたとき、上から降ってくる見舞金は雀の涙で、俺がブドウを売ってかき集めたんだけどな。

……と内心毒づく。もちろんそんなことはおくびにも出さない。



「さっそくではございますが、いささかの寄進をさせていただこうかと」

「これは大変にありがたいことです。ぜひとも人々を救うために活用させていただきます」


対価を求めているわけではあるが、よこさないのでもう少しつついてみる。


「こんごも当地での商会の発展につれてますます教会の発展に協力してまいりたいと存じます」

「それは頼もしい限りですな」


もっと直接的に要求しないといけないらしい。


「そこで何か一言、司教様から事業の振興などについてご一筆いただけると、私どもとしても大変に励みになります」


クルーズンでは勢力のある教会だから、司教の名前の入った手紙を見せるといろいろうまくいきそうな場面も多い。


クラープ町でもサミュエル司祭の手紙で人が納得してくれたことがあった。


司教の方は少し戸惑った様子だが、すぐに持ち直して答える。

「今は用意がありませんので、後で届けさせましょう」


たぶん俺のことを調べるのだろう。それは司教の書付けが詐欺などに使われても困るだろうから、調べてからというのはわからないでもない。


おそらくサミュエルやロレンスに照会が行き、問題ないというところで手紙が来るだろう。問題があればそのまま忘れたふりをして放置されそうだ。


ロレンスからの手紙で会っているのだから、確認くらい省略してくれてもいいと思うのだが。




 今回はその程度で会見を終わることになる。


「また私どもで力になれることがあれば何なりとご相談にいらしてください」

「ええ、その際には伺うようにいたします」


それなりに金目のある有力者と判断されたのだろうか。司教ともなれば貴族相手でもそれなりに対抗することができる。クラープ町では貴族に面倒な目にあわされかけた。


貴族相手の対処も今後はしていかなければならないのだろう。何か筋者に用心棒になってもらっているみたいだ。





 司教は別に粗暴なわけではない。表面的にはにこやかで腰が低く見える。だが自分の利益は確実に確保する姿勢が見える。


おそらく付き合いが広い上に忙しいからというのもあるだろうが、付き合うかどうかが自分の得になるかどうかなのだ。


そういう者を相手にするとき、外見は子どもだが中身はおっさんというのは有利な点だ。しかしどうもあの海千山千相手だと分が悪いようにも思える。





 司教の部屋を退出し、助祭さんの案内で助祭の派遣を担当する司祭と話をする。


教師役の助祭の紹介してもうらうのだ。とりあえず初めの拠点で教える助祭を何人か紹介してもらえた。


あとは案内の助祭さんに挨拶して、教会を後にした。




 しばらくたって調べがついたのか、商売の発展を祈るとの司教からの手紙が届いていた。

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