ギフトの打ち明けと秘密保持魔法
ギフトを知らせるにあたっては秘密保持魔法を使う必要がある。この魔法はギフトがらみでなくても使うことは少なくない。
だからバーバラにギフトのことはおくびにも出さず、習えないか聞いてみた。だが習うにはかなりの熟練が必要らしい。
「あれはあれで結構面倒なんだよ」
「だけどロレンスは使えました」
ロレンスはそんなに魔法が得意でないと自分で言っていた。
「あれは司祭だからね。精神に働き掛ける魔法は得意なはずだよ」
「はあ、そういうものですか」
「下手な使い手だと相手の精神を壊してしまうからね」
よほどあくどい敵相手に緊急避難で使うならともかく、そういう危険な魔法は使いたくない。
「それなら、魔法を使いたい場合はどうすればいいのでしょうか」
「ロレンスに頼めないことなのかい?」
「いえ、それは全く大丈夫ですが、今後は遠く離れることもあるかもしれないので」
「おや、引っ越すのかい?」
「まだ決定ではないのですが、クルーズンに支社を作ります。そちらに行くことも多くなりそうです」
「そうかい、そうかい。まあロレンスと話してみることだね」
そんなわけで結局ロレンスに頼むことになった。
そういえばロレンスにはクルーズン進出について話していなかった。
そこでロレンスが町に来る時にゆっくりと話すことにする。うちで話すので、もちろんクロも一緒だ。ロレンスはクロの隣に陣取り、首あたりに手を置いてさすっている。
「実はクルーズンの方に進出しようと思っています」
「それはまた大したものですね」
「ええ、もうこの町で商売を広げるのも難しそうなので」
「いろいろと苦労も多いでしょう」
確かに苦労は多い。とはいえ子ども向きではないとは思うが、前世でさせられた苦労に比べるとずんぶん気が楽だ。
「向こうに行くことも多くなると、なかなか会えなくなるかもしれません」
「そうなるかもしれませんね」
「さみしくなりますね」
「ええ。でも、あなたは夢をかなえているのでしょう。生きてさえいればいつでも会えますよ」
「はい」
何となくしんみりしてしまった。まだ支社を作る程度だが、いずれ移る気はしている。それだけで済むかどうかもわからない。
もっと将来には商都や王都に向かうのかもしれない。かつては人々は領邦から出ること自体が難しかったらしい。
時代が進んでみんな広く移動するようになった。そのために人の精神も広がったのかもしれないが、つらい場面も増えたのだろう。
そんなことをおもいつつ、例の用件の方を頼むことにした。
「それに関してお願いがあります」
「何でしょうか?」
「商会の幹部たちにもギフトのことを知らせようかと思っています。そこでまた秘密保持魔法を使ってほしいのです」
「わかりました。それは引き受けましょう」
「ところで……、将来遠くに行ったときにこの魔法はどう使ったらいいでしょう」
「確かにこの魔法を使える人はそれなりにいますが、ギフトのことを秘密にしようとすると難しいですね」
「はい」
「どこかで信頼できる聖職者を探した方がいいでしょうね」
ロレンスに来てもらえればいいが、彼は村で必要とされている。来いとも言い難い。
「そうそういるでしょうか」
「冒険について行く聖職者はいます。あなたはずいぶん教会に寄付もしているようですし、聖職者を帯同してもいいかもしれませんね」
「はあ」
「あ、そうだ。クルーズンに行くなら、クルーズンの司教を訪ねなさい」
「もちろん、伺う予定ですが……」
「クルーズンの司教となると私やサミュエルとはずいぶん違いますよ」
何でも貴族出身で、政治的な影響力もかなりあるという。何か面倒そうだ。
「何か面倒そうですね」
「確かに面倒な人ではありますね。でも味方になれば頼もしい人です。あなたはすでに町でも貴族に絡んだことがあるでしょう」
直接絡んではいないが、マルキの事件で子爵の家宰に関わったことはある。
「商売が大きくなると、そういう付き合いも出てきますよ。行くときななったら紹介状を書きましょう。私なんかと違って簡単には会えない人ですから」
聞いているだけで面倒そうだ。とりあえず今回の秘密保持魔法のことは承諾してもらった。なおロレンスは話をしている間、ずっとクロをなでていた。クロもおとなしくしている。




