町と村の間の郵便(下)
章の構成を変えたため、番号等に若干の変更があります。
下記の活動報告をご覧ください。
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郵便物にコードをつけるとして、どんなコードをつけるか初めに仕様を決めないといけない。
おそらく後々まで使うことになるので、初めから組織だって後々の事態にも対応できるコードにしておいた方がいい。そういうわけでやはりカミロと話し合う。
「ところで郵便にはどんなコードをつける?」
「引き受け年月日と引き受け地点とその日その地点で何番目の郵便かくらいでしょうか?」
コードをつけるのは郵便物を特定するためだ。年月日は時計がそれほど正確ではないので時刻までは特定できない。だからそれくらいがちょうどよさそうだ。
「引き受け地点だけど、将来全国とか外国にも対応するときにはどうする?」
「コードを長くすれば対応できますが、現場で毎回振るコードが長くなってしまいます」
確かにその通りだ。海外はとりあえず後回しでいい気がする。ただ全国は対応しておきたい。数年でかなり広がりそうな気がする。
「海外はいいから、全国には対応しよう」
「わかりました」
あと悩むのは年月日で年を下2桁にすると2000年問題みたいなことが起こりそうなことだ。
コンピュータシステムを組むわけでないから対応できる気もするが、例えばうちのコードをきっちり書くような様式が作られたら、桁を増やすのが難しくなる。
その日のその地点での受け入れ番号もいまはせいぜい2桁で済むが、そのうち3桁引き受けることもありうる。4桁はたぶんない気がする。あったらうれしいが怖い。
もろもろの問題が出て来てそれぞれ話し合う。ただ将来の余裕を見込んで桁を増やすと現場で書く負担が増えるので、その辺は可能な範囲だ。
あとは全部数字で表さなくてもよく、地点名はアルファベットにする。空港名みたいかもしれない。
数字より種類が多いので桁が少なくなるし、対応表を見なくても直感的にわかるのがいい。町名は全国で同じものがありうるので、地方名なども入れる。
それから引受担当者にはきれいな字で書くことは義務付けるようにした。特に読みにくいものについては書き直させたり、読みにくいことが重なるような者については字の練習もさせることにする。
そんな感じでコードが決まる。現場で書くのは大変だろうから、各地点にあらかじめその地点のコードの印刷されたノートと伝票を配っておく。
だから年月日と、その日の何番目の郵便物かだけ書けばよい。受け渡しのときは全部書かないといけないけれど。
そうして町と村の郵便が接続された。初めの郵便物は俺からロレンスに宛てたものである。
そこでは今後は信頼できる郵便でやり取りできること、クルーズンに行ってもそれが拡張されて使えることなどを書いておいた。
もっとも先にセレル村に行き、ギフトで町に戻って郵便をだし、またギフトで村に戻って配達を確認したという、手紙の意味のないものだった。
しかも途中の記録のノートも全部チェックした。あくまでテストケースだ。この手紙は将来は博物館に展示されるのかもしれない。
なお郵便の値段はけっこう高い。日本では封書で100円もしなかったが、その10倍以上だ。
もちろん記録するのにいちいち手間がかかるし、大量運送も見込めない。それでも3時間かけて行き来するよりははるかに便利だ。
また従来の郵便は誰かについでに頼むようなものだったから、そもそも頼めるかどうかが偶然性に依存していており、頼むことも面倒だったりする。
嫌なあるいは気後れする相手かもしれないし、そもそも会うこと自体ができるかどうかわからない。
謝礼をいくらにするかもまた悩む問題だ。しかも相手が遅れたり忘れたり汚損したりすることも十分ありうる。
それが安くないとはいえ、完全にそれらの面倒が取り払われて、しかも信頼できる郵便になったのだった。
引き受け地点に行けば確実に引き受けてもらえる。しかも料金は明朗だ。届かないことはほとんどないし、あったとしても賠償がある。
これだけのものができればとうぜんその間の通信自体が飛躍的に増えることになった。
いままでは話しをしようにも片道3時間往復6時間つまり1日がかりで行き来するか、信頼できない郵便を使うしかなかった。
それでは商売の話などするにしても限界がある。何か話し合おうとしてもきわめて遅々と進み、年単位の時間がかかっていた。
それが1か月ほどで済むことになる。これでeメールがあれば1日単位になるのだろうけれど。
しかもかつてのシステムでは話し合いをしようという気自体が起きないような仕組みだった。
とうぜん村と町との間のつながりは相当密接になった。
そうなると他の村も郵便を欲しがるようになった。クラープ町の周りにはセレル村以外にも3つの村がある。
ノウハウだけ提供して、向こうの業者にやってもらいたかったのだが、どうもそうもいかないようだ。
だいたいセレル村の場合は俺が一から構築した。結局そういうことをしないとうまく根付かないらしい。
仕方ないので郵便に慣れて来た手代を支部長にして、村の郵便網を作ることにした。
とはいえこちらも人がそんなにいるわけではないので順番だ。その辺はやたらに急かせる村とそのうちにできればいいという村があるのでそれに従う。
手代と言っても経験は1年余りで、こちらの社会では成人とはいえまだ10代後半だ。
変革期というのはそういう風に若い者が指導的な立場になるという話は聞いていたが、実際にしてみるといろいろ面倒もある。
年配者はくだらない世間知で上から目線で物を言いたがるし、それが妥当ならいいがたいていそうでない。こちらからもいろいろ介入してなんとか押し通す。
合弁を考えていたが、それはやめにしてこちらの商会が一から作ることで面倒な会社の声は排除するようにした。
だけど最初は持ち出しもあるし、けっこうつらい。うるさい注文を付ける外野を排除するノウハウも確立する必要がある気がしてきた。
近い将来にクルーズンとの間にも郵便を通す必要がある。ただ向こうにまともに機能している郵便業者があるかどうかわからない。
あれば接続するだけだが、なければこちらもうちで構築することになる。
なおクラープ町とクルーズンの間には小さな宿場町が2つほどある。おそらく2つの町にも商売の支店を置くことになりそうだ。
それにクルーズンとクラープ町の間の郵便を実現するとなれば、この2つの町も通ることになる。
だんだんとクルーズンに移るための外堀が埋まりつつあるような気がしてきた。




