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猫の世話人、冒険も商売も猫のためのチート能力で9時5時ホワイト勤務  作者: 猫の手下
3章 12歳~ 商売の展開とクラープ町での陰謀 クルーズン市
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クルーズン進出の検討


 うちの商会が少し稼ぎすぎているので、商業ギルドの集まりでもなんとなく居心地が悪い。マルキの件があるから、あからさまにこちらに対して攻撃的なことを言ったりはしてこない。


だが相変わらず領都組はこちらに含むところがありそうだし、ドナーティ再建で協力している地場組でさえもなんとなく言いたいことがあるようだ。


俺が少しやりすぎだということだろう。これで町の中心部に店など出した日にはすさまじい反発が来そうだ。




 そこで2つの道がある。このままクラープ町で拡大を続ける方法だ。おそらく既存の商会との軋轢はますます大きくなるだろう。


それに打ち勝った場合、既存の商会を傘下に入れることになる。そうは言ってもしょせん人口が減っている町だ。いずれまた頭打ちに悩むことになる。


もう1つは外に出ることだ。南北は山がちなのでありえず、東西だ。東は領都で、ある意味敵の根城だ。わざわざあんな人たちを相手にすることもない。


そしてもう1つがおそらく一番明るい道だと思われる。西にある都会クルーズンに進むことだ。



 ただクルーズン進出も問題がないわけではない。進出で失敗する可能性もある。商売については未知の土地だし、大商会も多い。


ただその点はそれなりにお金に余裕があるし、いきなり大展開しなければ失敗しても大きな損害にはならないだろう。


別の難点としてしばらくは出張が多くなると思われる。以前よりは人が増えて余裕もあるが、やはり仕事はきつくなりそうだ。しかも全く見慣れない土地での新規出店となると、負担も大きい。


そして一番厄介なのは、もし成功したら、将来はクルーズンに移る可能性が高い。こちらの町は頭打ちだからだ。それに対してクルーズンは人口が増えている。どう考えても見込みがあるのは向こうだ。


引っ越しというのは友人知人との別れもあるし、なじんだ地域や生活とも離れるし、つらいことも多いだろう。




 その点を幹部との会議で話す。出席者はシンディ・アラン・ジラルド・カミロ・リアナ・エミリ、それにマルコだ。

「今日はちょっと重大なはなしがある」


幹部会議と言っても人数も少ないし、心やすい仲間ばかりでふだんは和やかな雰囲気なのだが、少し空気が引き締まる。


みんなの少し興味津々の顔を眺める。別に人をたくさん切ろうとかそういうつらい話というわけではないが、少し言いよどむ。将来的には引っ越しにつながるし、そうすれば私生活で別れなども起こる可能性が高いのだ。


「実はクルーズンに進出しようかと思う」

「また商会としての格が上がるわね」

「いよいよかあ。クルーズンの皆さんにも俺の魅力をお届けできるんだな」

「クルーズンも買い物に困っている人はたくさんいますよね」

「あちらはあちらで解く問題がたくさんありそう」

「そうかあ、また向こうに住むのか」

「どんなお客さんが来るのでしょう?」


マルコにも少し意見を言ってほしいのだが、口をつぐんでいる。




 意外にみんな動揺なく受け止めている。というよりむしろ期待しているようだ。


「あれ? もう少し動揺するかと思っていたんだけど。クルーズンに行くことも増えるし、もしかしたら引っ越すこともあり得るよ」

「だってこの町じゃもう商売広げられないでしょ」

「この町のファンと別れるのはつらい。だけど向こうの子たちが俺を知らないのも気の毒だ」

「こちらではもうできることはかなりやってきました。もちろん足りないところはありますが」

「もうなんか条件がきつくなりすぎて、こっちはつらいんだよな」

「久々に師匠にも会いたいし、クルーズンでは腕が鳴るな」

「両親に伝えないといけませんね」


みんなわりと前向きだ。実は俺の方が悩み過ぎていたのかもしれない。ただやはり気になるのはマルコだ。相変わらず何も言わない。





 会議後にマルコと話し合う。


「さっきの会議であまり発言していなかったようだけど」

「いちおう僕はドナーティ商会の所属だから」


たしかにそうだが、ずっとこっちの経営にもかかわってもらってきた。いまさらそんなことを言うのもおかしい。


「何か考えていることがあるの?」

「いや別に。フェリスが進出するのはすごくいいことだと思うよ」


それ以上は何かあまり言いたくないようだった。




 ちょっと気になったので、マルクが来た時に話を振ってみた。


「こんにちはマルクさん」

「こんにちは」

「ところでちょっと聞きたいんですが、マルコは何かありましたか?」

「何かって、特に気づかないが」

「いえ、この前うちがクルーズンに進出する方針を出したときに、何か思い悩んでいるようでした」



 マルクは少し考えこんでいるようだ。そして思いついたように口を開いた。


「もしかしたらあいつ、ここに残らないといけないと思い込んでいるのかもしれない」

「残らないといけないのですか」

「まあドナーティとしてはその方が助かる」

「そうですか……」


それは確かにつらいかもしれない。やはりマルコは頼りになるし、ずっと一緒にやってきた。


こちらが押し黙ってしまったことに気づいたのか、マルクはこちらを安心させようとしていた。


「まあ何とかなるもんだから、そんなに思いつめるなって」



 何とかなってくれるといい。だがドナーティ商会にも都合があるだろう。先輩を抜いて昇進した期待の手代であり、再建中の商会にはぜひとも必要だろう。


マルクにはよろしく頼むと言って別れた。


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