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ワインとブドウつぶし機

 ワインはセレル村の東の集落の長の娘のアンナが作っている。俺より4つ上なので今年で15の成人だ。


実際はそれより前から飲んでいる者もいるが、晴れて酒の飲める年になる。




 そのアンナがもっとワインを作りたいと言っている。とはいえ、一人でやっているのでそれほど大規模にはできそうにない。


小さい規模なら、それほどの金額にもならないだろうから、費用などもあげてしまっても構わない。


だが大きくなったら、それはやはり融資にするか、あるいは成功したときにこちらにある程度の権利をもらう契約にしないといけないだろう。




 ワインというと「乙女の足ふみ」でブドウを潰すイメージがあるが、地球で実際の産地の昔の写真を見るとおっさんが腰までつかって潰していたようだ。


そりゃ仕事でやっていればせいぜいおばさんくらいまでは用意できるかもしれないが、若い女性などそんなに多数用意できないだろう。もっとも乙女でも足で踏んだものはあまり口にしたくない。


こちらの社会ではネットも写真もないからばれないだろうが、申し訳が立たないことはしたくない。



 そこでブドウつぶしの機械を導入することにした。


ところでブドウをつぶすにも赤ワインと白ワインで手順が違うそうだ。


赤ワインはブドウを簡単に潰して、へただけ取り除いて、皮はそのままで発酵させる。


白ワインの方ははじめからしっかりブドウをつぶして果汁だけ取り出して発酵させる。


ロゼワインはそれらを混ぜたものではなく、途中まで赤の作り方をするという。




 村には大きな機械を作れる職人はいなのでクラープ町の職人のフルヴィオに頼む。生地こね器や洗濯機を作ってくれた人だ。


「フェリス君は次から次へと注文してくれるね」

「大丈夫? 迷惑じゃない?」

「いやいや商売繁盛でありがたいよ」

「それで今度作ってほしいのはブドウつぶし機なんだ」

「へえ、それは何に使うの?」

「ワインを作るときにブドウをつぶすんだ。手でつぶすには量が多すぎるし、足でつぶすことも多いけれど、あまり気持ちよくないしね。それで機械でつぶせばいいんじゃないかと思ったんだ」

「はあ、なるほどねえ。それでどんな感じにしたいの」

「ブドウをまとめてたくさん箱か何かに入れて、一気に押しつぶすようなものを考えている。

ただ潰すだけのものと汁を絞るものとあるので、詳しくはアンナに聞いてほしい」


あまり手順がわかっていない俺がかってに注文すると無駄なものができてしまうかもしれない。


セレル村の人はしょっちゅうクラープ町には来るので、アンナも次に来た時に詳しく聞かせてもらうことにする。




 アンナがきて詳しい話を聞く。彼女は費用のことを気にしている。数十万単位ならあまり気にしなくてもいいのに。


いちおうレンタルということにする。別に貸し賃を取るわけではない。きれいに手入れしていつでも返してもらうことは約束しておく。


そこで話を聞いてみるとやはり潰す機械と絞る機械とが必要なようだ。前に渡しておいた技術書にその絵も載っている。


それを参考に作ってもらう。ただそれほど大きいものが必要なわけでもない。必要になったらまた新たに作ればいい。



 それから仕込みように樽も購入した。これは村の方で作れる。


ついでにそれを仕込む場所だが、さすがに建物を用意するとなると大がかりになりすぎる。


だがアンナの家はわりと大きい家で、納屋などもあるので、そちらを使うことになった。


これで今までよりはるかい多い量のワインを仕込むことができる。村の需要くらい満たせるのではないかと思うくらいだ。



 ただ品質を追求するとなると本で独学というわけにはいかなくなりそうだ。外で勉強してくることも必要になるだろう。それについても話し合う。


「いい? 外で学びたいなら費用は出すから」

「だけど私は女だから……」


そんなつまらないことを言って、可能性を狭めないでほしい。


「女の人も能力があるならどんどん伸ばせばいいじゃないか。

クラープ町の方では老舗の商会で前の主人が全く駄目なんで、関係者みんなの総意でその奥さんが新たな主人になったよ」

カテリーナの話をする。


「すごいわね、その人」

「商会を維持できたのはその人のおかげだったからね」

「ワインの作り方はどこで学べますか?」

「オータン地方はワインで有名なのは知っているよね。クルーズンよりはるかに西の方だ。ここからだと馬車でも10日くらいかかる」

「そんなに遠くに?」

「1年くらい住み込みで働いてもいいじゃない。1年あればブドウの収穫から仕込みから、とりあえずのものができるまで全部見られるよ」

「そ、そうね……」


アンナは迷っている。すぐに決断を求めても無理だろう。まして女性が外に留学するなどほとんど考えられない世の中だ。


もっとも日本だって女子は下宿して大学に行くことが男子より少なかった。こちらではますますだろう。


また村に来ることはあるだろうから、何度か声をかければそのうち気も変わるかもしれない。


「なにかフェリス君と話しているとずっと年上のおじさんと話しているみたいね」


まあ確かに11歳か12歳の子の言うことではないと思う。だけどいきなりおじさんというのも、その通りなんだけど、ないと思う。




 家に帰ってブドウやワインのにおいがするからか、クロにクンクンと嗅がれてしまった。


猫にはブドウはやらない方がいいらしいが、においだけなら大丈夫だろう。もっとも状態異常無効がかかっているから何も心配ない。


神はそれでも体を洗って服を着替えてこいと言っている。お前は母親か? と思う。

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