砂金とり(上)
冒険者のスコットから2~3日の旅に出ないかと誘いがあった。なんでもここから北東方向に2日ほど歩いたところに砂金の取れる山があるらしい。
2日歩くのでは2~3日で行けないというと、俺のギフトが込みだそうだ。まあいいけど。なお儲けは期待できないとのこと、単なる遊びだという。それはそれで楽しそうだ。
それはともかくたまには冒険をと誘ってくれたので、参加を前提に検討する。
さいわい以前よりスタッフが増えてきている上に、システムが回っているので、俺がいなくても商会は動く。
しかもマルキ騒動とかその後の片づけとか色々疲れたので、たまには他のこともしたい。
冒険のことをシンディとマルコに話すと、シンディはぜひついてくると言った。だがマルコはやはりいけないらしい。
「残念だけど、商会の方が忙しくて……」
マルコの勤め先のドナーティ商会はブラックはいちおうやんだようだが、まだ後始末があるようだ。
先輩を追い越して昇進した手前もあり、作業することは多いようだ。仕方がない。
ただもしうちの商会がクルーズンに移るとしてこの忙しさでマルコがついて来れないかもしれないことが心配になる。
「わかった。またな」
そのうち一緒にできるだろうと期待する。
当日は朝早くにスコットと俺とシンディで山の方に向かう。さいわい、天気は良好なようだ。もっとも山なので変わるかもしれない。
スコットははじめは息子さんを同行させるつもりだったが、そうすると秘密保持でギフトが使えないことに気づいたとのことで、3人になってしまった。
ギフトというのも不便なところがある。脅して悪用するようなのがいるからだけど。
「おはよう」
「おはよう」
「今日はかなり歩くからなあ、覚悟しておけよ」
「うへぇ」
「まかせなさいっ」
シンディの方は体力が有り余っているようだ。俺も体の方はそれのはずだが、精神の方がそうでもない。
「えらく身軽そうだが、それで大丈夫か?」
「ええ、それは……」
そんな感じで顔合わせをして、出発する。
町の中心から郊外までは馬車で連れて行ってもらえる。緩やかな坂が少しきつくなって人家が少なくなったあたりで馬車は終わり、そこからは歩いていく。
ただ先の方に集落があるとのことで、そこまでの道は細いながらもある。過酷な山登りの印象はない。ちょっとしたハイキング程度だ。
小ぶりの馬車ならその先も入れるように思う。観光地でないのであまり人通りは多くない。ごくたまに人にすれ違うかどうかくらいだ。
途中で何度か休憩を入れながら山を登る。
「いいか、疲れて休みたいと思う前に休憩した方がいいからな」
そんな感じで1時間くらいで10分ほどの休憩をとる。お茶を飲む。砂糖の値段は高いが、こういう時にはぜひ使うべきなので、たっぷり入れてある。もっとも最近は商売もゆとりがあってそこまで気にすることもない。
「そろそろ昼食にしようか、何持ってきたんだ?」
「いや、いったん家に帰ろうかと」
そういうと、スコットは目をむいている。ここで引き返すと思ったらしい。ただすぐに気づいたようだ。
「あっ、ああ、そうだったな。フェリスならそうするよな。ただ全く何も持ってこないのはよくないぞ。ギフトが使えないこともありうるからな」
それはそうかもしれない。次から気を付けよう。ともかく、3人でクロのところに戻る。ふだん見慣れないスコットがいるのでクロは背中の毛を逆立てている。
スコットには外してもらい、大丈夫だよとなでて、クロを俺の部屋のベッドに連れていく。
そういうわけで昼食は温かいものを食べる。スコットはまた乾パンと干し肉のつもりでいたらしい。
もうギフトが使えることがスコットにもわかったので、スコットの荷物もだいぶおいていく。俺たちの方は非常用ということで、荷物を少し増やす。
スコットは干し肉を少しクロにやっていた。クロは警戒してふんふんとにおいをかぐ。食べそうにない。おなかがすけば食べるだろうが例の神が作り変える方が先だろう。
だいたい冒険のときにこんな感じにまさにチートをするのは、神にこのギフトを請求したときからもくろんでいたことだ。目論見通りにうまくいってよかったと思う。
昼食後はベッドでだらーっとしたかったが、そういう雰囲気でもないのでやめる。元気少女と元気中年が動きたくてそわそわしている。クロを少しなでてから、山の方に戻ることにした。
その後も1時間に1回くらいは休憩を取りつつ歩いていくと4時前くらいだろうか日が少し傾いたころに家が見えてくる。途中の集落だ。
もう少し進むと5~6軒の家が建っていることがわかる。その中の一番大きい家が名主の家である。スコットは名主のオテロの知り合いで、何度か泊めてもらっているという。今日はここに泊まるそうだ。
「ようこそ、こんなところまで」
名主は人のよさそうな老人だ。
「いいところですね」
適当に雑談し、お茶をごちそうになる。
その後はここまでの道を開拓した祖先の話などを聞く。
夕食はイノシシの肉やら地場の野菜などが出る。主食は窯で焼いたパンではなく、こねた小麦を薄く伸ばして鉄板で焼いたチャパティのようなものだった。
俺が商人だと言うと、行商に来てくれないかと頼まれる。もしかしてスコットははじめからそのつもりで連れて来たのか? 図られたか?
正直に言うと、商売としてはあまり魅力がない。それほど道がよくないので、大きい荷車は使えない。ということは大量に運ぶことができない。ということは多くは売れないし、商品当たりの運搬費用も割高になる。
だいたい大家族だからと言っても5世帯か6世帯ではせいぜい数十人しか人がいないと思われる。
砂金が取れて購買力があればいいのだが、もしそうでないとすると自給自足の経済ではあまり購入に回すほどのお金がないかもしれない。
どんなものが欲しいかと聞いてみると自給自足しているとのことで食べ物は持ってこなくてよいそうだ。
重いし、安くて儲けがとりにくいので、それはありがたい。持ってきたとしても軽くて値段の高いし好品などだろう。
むしろ食べ物よりも衣服や雑貨などが欲しいらしい。そちらの方が軽いし、利益も上がるので行けるかもしれない。
それから他の行商人が来ているとすると、そちらと競合したくない気もする。
そちらについて聞いてみると半年に一回しか来ないそうだ。それならこちらも時期をずらして半年に一回にすれば、集落では3か月に一回になる。
それくらいなら試験的にしてみるのもいいかもしれない。ただしペイしないようなら、1年に1回にするとか止めるということも視野に入れる。
そんな感じで、とりあえず試しに行ってみる算段をつける。連絡が必要だというと、たまに行き来している集落の人もいるし、1月に2回手紙などを運ぶ者がいるという。そちらに言づければいいとのことだ。スマホやメールの時代とえらい違いだ。
そうこう話しているうちに、夜も更けて来てみな寝支度を始める。俺はちょっとギフトで家に帰る。やはり離れるとクロのことが心配だ。
食事はマルコが用意してくれている。もっとも神が常に絶やさず出しているのだが。
クロは俺のベッドで寝ていたが、俺に気づくと顔を擦り付けてくる。べたべた甘やかしの神がいても、クロから見るとちゃんと飼い主らしい。いや、もしかしたら面倒見なきゃいけない弟分かもしれないが。
集落に戻ると、俺たちは空いている部屋に雑魚寝だった。スコットは早く寝た方がいいと言って先に寝てしまった。
シンディととりとめのないことを話す。たまには冒険もいいかとか、商売をどうしようかとか、マルコも無理にでも呼べばよかったとか。
そうするうちに寝入ってしまった。




