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15. チートばれの後始末(上)

 翌日、ロレンスはクラープ町にスクロールを借りに行った。クラープ町は3里ほどである。1里は大人が1時間に歩く距離でおおよそ5キロほどだろうか。


だから町に行くのに半日で往復なら1日仕事である。つまらないことで負担をかけてしまったと思う。


その日は寺小屋も休みとなり、俺は居住スペースの方で本を読み、もちろんクロをなでて過ごした。


クロは俺が落ち込んでいるのがわかるのか、いつもより鼻を擦り付けてくる。くすぐったいが、いまはありがたい。




 夕方になってロレンスが帰ってきた。


「面倒をかけてすいません」

「大丈夫です。町でついでに用事もありましたから」

ロレンスは俺が負担に思わないように気を使ってくれているのだろう。


ロレンスが持ってきたスクロールを見る。確かに巻物だ。大きいスクロールが2つと小さいのが1つある。


「それぞれどんなスクロールですか?」

「3つとも鈍化のスクロールです。うまくいかなかったときのために大きいのを2つ用意しました。ぶっつけ本番だと危ないので、練習用に小さいのも借りてきました。」

「これはいくらくらいするのですか」

「レンタルなら小さい方は1000ハルク、大きい方は5000ハルクです。本来なら保証金を積まなくてはならず、それぞれの10倍ですが、

私は魔法商の顔なじみなので、大目に見てもらっています」


現金収入の少ない村では高額かもしれないが、俺はそれくらいなら用意できないこともない。出したいけれどロレンスは受け取らないだろう。


余計な負担をかけてしまったし、後でなにか礼をしないといけないな。




「それでは実際に使ってみましょう。スクロールを使うときはこうやって広げます。そしてかけたい相手を念じつつ、voke(発動)と唱えます」


ロレンスが小さい方のスクロールを使って唱えると、スクロールは鈍く光り、俺の体はひどく重たくなった。いちいち手足を動かすのがつらく、緩慢にしか動かない。


「か、からだが、動かない。いきなり何するんですか」

口を動かすのもやっとで変なしゃべり方になっていると思う。


「ははは、少しはおしおきになりましたかね」

確かにつらい。なるほどこれならワルスも捕まえられそうだ。


「それで、これはどれくらい持つのですか?」

「30分ほどは持つはずです。実際にどんな感覚か、記録してみましょう」


この村では数少ない教会の時計を見ながら、ロレンスはときおり俺にどんな感じですかと問いかけ、俺の答えを記録する。


はじめはほとんど体を動かせなかったが、次第に動く幅が大きくなり30分ほどでほとんどつらさはなくなった。


「相手の力や魔法耐性にもよりますが、村の人間では大差はないでしょう」

「何か体に違和感が残っているのですが」

「一晩寝ればすっかり消えてしまうので大丈夫ですよ。それから、スクロールの効果は大きさに比例しますから、明日はこちらの大きい方を使えばワルスも簡単に拘束できますよ」


作戦会議が続く。


「鈍化の魔法で動けなくした後はどうしましょう」

「念のために気を失わせてから、ロープで縛りあげましょう」

丁寧な言い回しで、いちいち物騒なことを言うから恐ろしい。ロレンスの本質はこれなのか。




 翌日、いよいよ決行だ。昨日とは別だが集落の方にはまたいけないことを伝えてある。村の中でワルスに出会う。ニタニタとしながら近づいてくる。


「さあ、われわれの商会を発展させるための相談をしようではないか」

子どもに集るチンピラが薄っぺらいことを言っている。


「そのことでご相談があります」

「私は君のコンサルタントだからね。経営のことならなんでも相談したまえ」


コンサルが聞いてあきれる。とはいえ日本のコンサルも高い金をとる割には何かの役に立っていたか怪しい。アメリカでもそうらしいが。


「実はクラープ町の方でも商売をしたいと思っているのです。少しばかり商売で貯めた資金があるので、それで何かできないかお知恵をいただけないかと」


ワルスは金目の話にほくそ笑む。王都や商都でビジネスをしてきたとフェリスには話していたが、話に具体的な細部が見えないのだ。

村人の話を聞くと、どうやら安宿を根城に日雇いでその日ぐらしをしていただけだったようだ。


ワルスはくだらないたくらみをする。子どもは簡単に騙されてくれるものだ。その金は有効活用してやろう。


「お金は教会に置いてあるので、いまからお越し願えませんか」

「よしよし、伺おう」


さっそく喰らいついた。釣りより簡単だな。こいつ魚より馬鹿なんじゃないか? そんなことを思いながら、フェリスはワルスを教会に連れていく。




 フェリスはワルスを居住スペースの食堂の椅子に座らせた。さすがに人の出入りする礼拝堂の方で荒事はできない。


「ここで待っていてください」

ワルスを残しロレンスを呼びに行く。もう準備万端整っていてロレンスはうなずく。


ロレンスが食堂に入ると、ワルスは何か嫌な予感がしてきて、まずいことが起きはじめていることに気づく。


子ども相手だと思ってのこのこと敵地に来たのが間違いだ。


それでも相手はたいして強そうでもない一介の司祭に過ぎない。ワルスは切り抜けられるだろうと高をくくっていた。


だがロレンスの方は準備万端だったのだ。しかもワルスは座っていてすぐには動けない状態だった。




 ロレンスは早速、スクロールを広げてワルスを念じつつ、voke(発動)と唱える。スクロールが鈍く光り、ワルスの体はひどく重くなる。


ワルスはほとんど身動きが取れない。ワルスがじたばたと手足を動かそうとしている間に、ロレンスはワルスの右手を殴りつけてナイフを取り上げた。


フェリスはワルスのみぞおちに一発パンチを決めて落とそうとするが、全然落ちる様子がない。マンガと同じようには行かないようだ。


2人でやみくもに何発も殴ってしまう。ワルスの息が絶え絶えになり、ほとんど動けなくなっているところで、ロープで縛ることにする。


気を失いかけているワルスの両手を後ろに回し、ロープを引っかける。だがあまりうまく縛れない。


「縛り方がいまいち甘いですね」

ロレンスが代わりに縛り上げてくれた。あとは足の方も縛り上げ、さるぐつわをかませる。

「どうも我々はこういう荒事はうまくありませんね。そのうちにロープの使い方も練習するようにしましょう」


確かに場数も踏んでないし、得意ではない。こんなことの場数を踏んだ司祭というのも嫌なものだが。


いずれにしても、ワルスを縛り上げるところまでは成功した。これからがいよいよ本番だ。

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