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85. ドナーティ商会の再建(上)

フェリス視点に戻ります。

 商業ギルドでの調停が終わり、ドナーティ商会からの借金の返済についてほぼこちらの主張が認められた。


だいたいマルキがモナプを通じて領主の後押しがあると思い込んで、無理筋を通そうとしたのが間違いの始まりなのだ。


うちへの借金やら、うまくいっていない新事業の整理やら、うちに卸せなくなった分の仕入れの処理やらで首が回らなくなり、マルキがすべて投げ出したとの情報を得た。


「伯父さんが店主から降りることになったよ」





 値下げしたうえでの仕入れの再開を頼まれていたし、まだ1000万以上の預け金はそのままなので、カテリーナのところに話しをしに行く。


カテリーナはまともに話せるので何とかなった。帳簿をつけていたのはカテリーナだそうで、うちからの利益が元に戻れば商会は回る算段はつけているそうだ。


ただうちが新たに仕入れを始めた業者もすぐに止められても困るだろうから、戻すにしても少し時間がかかる。


しかもドナーティは仕入れ先を始め、他に取引している業者ともすべて安心できる説明をしなければならないはずだ。


あれだけのトラブルがあれば、取引業者は残っている財産を差し押さえることにもなりかねないし、奉公人たちだってやめてしまうだろう。





 取引先にはあらためて説明するそうだが、うちは大口でしかも例の貸金のことがあるので、先に内々に説明してくれるとのことだった。


そこでカテリーナだけでなく番頭さんと先々代の主人のマルカとマルクまで来る。またマルコも同席する。うちの応接室で話す。


ある程度人数をそろえた方がいいので、アーデルベルト・ギルマンを筆頭にアラン・カミロ・ジラルドが同席する。


基本的にはアーデルベルト頼みだ。彼ならかなりの経験がある。他の社員たちは若いので攻めには強くても守りでは心もとない。


だが経験は積んでもらわないといけない。だから基本的には発言せず、あくまで補助的にその場にいて体験してもらうことにする。





 マルコを通じて主だった資料を持ってきてもらうことをあらかじめお願いしておいた。


アーデルベルトが資料を検討する間、どんなことが起こっていたかを聞く。マルコから噂話程度に聞いてはいたが、ますますひどい話だ。


マルキがコンサルのモナプから聞いたほとんど思い付きのような事業を言い出し、下の者にやっておけと指示する。


番頭も手代もうまくいくとは思っていない。だいたいうまくいくようなものはとっくにほかの商会がしているのだ。


何とか形をつけるが、案の定うまくいかない。マルキもモナプも下が悪いと文句を言って投げ出してしまう。そんなことが数年繰り返されていたとのことだった。




 アーデルベルトがざっと資料を見た結果もそれを裏付けるものだった。ただ救いなのは元の事業の方はまともだったことだ。


新事業の方を、と言ってもほとんど投げ出してしまったものばかりだが、整理すれば商会としてはやっていけないことはないとのことだった。


ただ当面の資金や借金の支払いの猶予などが必要だ。ある程度はうちが面倒見ることが必要なように思う。




 この点についてアーデルベルトからはくぎを刺されていた。こうなることがわかっていたのだろう。


「出資するなとは言いません。本音を言うとそのお金があるなら、うちで商売の拡大に使った方が利益は多いとは思います。

ですが店主の思いも、商会の社会的責任もありますから、出すのはよいでしょう。ただそれでも商売を続けてきちんと返せる枠組みかどうか見極める必要があります」




 俺とアーデルベルトでカテリーナに質問する。


「かなりきついことを言いますが、事業で利益が上がる見込みがないようなら、うちも回収しないといけません。その点はどうですか?」

「従来事業についてはこちらの資料にあるように利益が上がる見込みです。シルヴェスタ商会への卸しがなくても黒字にはなりますが、あればさらに助かります」

「それについては、新たな仕入れ先との相談もあるのですぐには戻せませんが、できるだけ発注できるようにします」

「よろしくお願いします」

「ずいぶん人が辞めて組織が機能不全になっていませんか?」

「おっしゃる通りです。いまは辞めていった者たちに戻るように声をかけています。現状では縮小して営業していますが、戻れば元の営業形態にもどすつもりです」


その後に、資料を見ながらかなり具体的な話をした。どう考えても従来事業を続けていればよかったとしか言えないものだった。




 もう一つ、アーデルベルトからくぎを刺されていたことがあった。うちがある程度助けるのは仕方ないが、他の取引先に比べて飛び出ないことだ。


一番大きくなるのは仕方ないにしても、圧倒的とか全部などというのは困るという。


そんなことをしたら、他はドナーティを助けようとせずに、回収だけ進めることになりかねない。

あくまでも共同して立ち直らせる形をとるべきだという。



「資金についてはいかがですか?」

資金がなければ仕入れもできないし、人を雇っておくこともできない。


「そちらについてはご相談があります」

カテリーナは言いにくそうに頼みごとを始めた。


「大変厚かましいお願いですが、借金の返済はしばらく猶予してください。それに申し訳ないのですが、少し融通してもらえると助かります」




 ここでアーデルベルトが俺に視線を送る。正直なことを言うとつらいのだが、はっきり相手に言わないといけない。

「融資するとなると、担保か保証が必要です」


担保というのはつまり借金が返せないときに家とか貴金属など金目の物を代わりに差し出す契約をすることで、商会に資産がなければ個人資産を担保にすることになる。


保証はやはり借金が返せないときに誰かある特定の他人が払う契約をすることだ。金を貸すのだから仕方ないが、これらを求めるのは心苦しい。


「さいわいいま住んでいる家はまだ担保に供されていません。ですからそれは差し出すことはできます」




 そうは言っても正直なことを言えば個人保証である担保や保証人は取りたくない。前世ではいろいろ批判のあった制度だ。


日本でも制度上は中小企業などが株式会社なら、倒産したとしても株式がパアになるだけで経営者はそれだけの有限責任のはずだ。なお責任というのは商売の上では金や財産を出すことだ。


だが実際は融資を受けるときに経営者が個人で保証しないと融資を受けにくい状況があった。つまり会社がつぶれれば保証人として個人の財産でその借金を払わないといけないということで個人の家や貯金を取られてしまう。前世の俺の知り合いもやはりそれで引っ越していった人がいた。


役所が会社と個人資産を切り分けるなどの条件をつけてそれをやめさせる方向に指導していたが、どの程度進んでいたのかは知らない。





 アーデルベルトには逆らうことになるが、個人保証なしの道も考えたい。アーデルベルトに目配せしてから口を開く。


「個人保証しないこともあり得ます。事業にまだ見込みがあることを取引先に説明して、融資を私だけでなく、広く受けること。

それから商会の財産と個人の財産をきちんと分けること。最後に収支を常に我々に報告することです。そうすれば家までは取りません」


「そうしてもらえると、こちらもありがたいですが、シルヴェスタさんには申し訳ありません。やはり保証はします」


やはりこちらの社会では個人保証は当たり前なので、向こうも受け入れにくかったようだ。


保証なしと言ったことについては、あとでアーデルベルトからたしなめられた。ただこの社会では常識でもそうでない社会もあるわけなのだが。


「それでは保証はするにしても、他の取引先に説明することや、融資を分散することはしてください」

「わかりました」


この日はこの程度で終わりになる。そして次は他の取引先も交えた会議だ。


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