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カテリーナの回想 借金返済と値上げ

 フェリス君からの値下げ要請を受け入れて、しばらくそれで平和だったのだが、またまずいことが起こる。フェリス君が預け金を返してほしいと言ってきたのだ。

なんでもベテランの経理の人を採用したとのことで、預け金が多すぎると問題になったそうだ。


フェリス君はうちにはむしろ利益をもたらしているのだが、なんとも悪い巡りにしかなっていない。すべてマルキの失敗と狭量のせいなのだが。


わたしもうかつだった。思いのほか金額が大きくなっていたのだ。もともとは10歳の子が行商をしてその売り上げを必要分を差し引いて毎日預けにくる話だった。


合わせても数十万かそれくらいの預かり金のつもりだったのだ。だから返してほしいと言われたらすぐに返す約束だった。ところがいつの間にか1千万を超えていたのだ。




 さらにまずいことにこのお金があることをマルキが知ってしまっていた。隠しておけばよかったのだが、主人だからどうにも正直に言わなくてはならないと思ったのだ。


預かり金なのだからしょせん借金なのに、マルキは新規の事業に使ってしまった。なんでも領都で流行っている高級なパンの販売らしい。


例の怪しげなコンサルのモナプが勧めた事業だ。あの男が勧めた事業はどれもうまくいっていない。もしかすると領都の商会を儲けさせることが目的なのではないかと思う。




 マルキは1千万など嘘だろうなどと言っているが、こちらの帳簿とも合っている。さらにマルキはこちらの帳簿を破棄してすっとぼけるようにとまで言ってきた。


それは犯罪だし、商人としての信用を無くしてしまう。しかもフェリス君の帳簿にはうちの番頭や手代の預かりのサインがある。逃れられるはずがない。全くどうしてこんなに卑劣な上に愚かなことしか考えなくなったのだろう。




 結局マルキは返済についての相談をが投げ出してしまい、私が返済案を作ってフェリス君に提示する。月30万を要求されたが25万で勘弁してもらう。


実はうちはシルヴェスタ商会への卸しでは月にその倍以上の利益を上げているのだ。ただそれももうすでにほかに使ってしまっている。


月に25万ねん出するのもギリギリなのだ。それもマルキの小遣いを大幅に減らし、役立たずのコンサルのモナプを切って何とか出せるものだ。




 ところがマルキは小遣いを減らされたのも知恵袋のモナプを切られたのも気に食わなかったらしい。もはや商会ではマルキはだれにも相手にされず、相談相手はコンサルのモナプだけだなのだ。


私がいない間にモナプを呼びだしていた。ガバナンスも何もあったものではない。


モナプは

「こういう時こそアタシの出番ですね。なに大丈夫。領主様の伝手がありますから。とりあえず払う必要なんかありませんよ」

と安請け合いする。


領主がいようといなかろうとしょせん借金の返済である。高利の金をとっているならともかく、むしろ低利だ。


しかも生活資金ではなく商売のお金だ。毎回の返済金額の大小くらいは交渉の余地があるかもしれないが、返さないといけないものは返すほかない。


だいたい「とりあえず」などというのが怪しい。どうせあとでいい抜けするつもりだろう。結局は返す必要があるのだ。


そんな当たり前のことでも目の前で都合のいいことを言われると、飛びついてしまうらしい。


マルキはモナプに任せると言って返済しないように言ってきた。さすがに返済しないなどということはできない。


だいたい返済額はフェリス君の商会への卸しの利益より少ないのだ。それは全力で止める。




 さらにモナプの言だ。

「シルヴェスタ商会など、クラープ町の老舗ドナーティ商会の御用聞きに過ぎません。御用聞きが少し儲けているくらいで出過ぎたまねをするのが間違いなのです」


経営者に耳障りのいいことだけ言うのが特技らしい。まともな判断のつくものなら、全く相手にしないだろう。あとの責任を取らなくていい者は楽でいい。ところがマルキはそれを真に受けている。


「まったくそうだな。御用聞き風情が料率を見直せだの金を返せだのと全くうるさい」

「ええ、あの8割を7割にしたのは間違いでした。今からでも元に戻せばよいでしょう」

「いや7割にしていた間の分も取り返す必要がある。9割ではやっていけないだろうから8割5分にしてやろう。俺はなんと下請け思いなのだろうか」


フェリス君は下請けではないし、彼に意趣返しするつもりらしい。いやフェリス君はむしろうちには利益をもたらしているので、完全にマルキの独り相撲なのだが。




 さすがに商会総出で止めたのだが、マルキにとっては素晴らしいアイディアに思えたらしい。そして私たちが同意しないうちにフェリス君に通告してしまった。


さっそくフェリス君が問い合わせに来た。その時はちょうど来客中だったのだが、フェリス君はやたらと急かせてきた。


いつにない慌てぶりだったので、こちらもかなり当惑していた。ところが聞かされた内容はもっと当惑するものだった。


「お宅のマルキが先ほど卸値の大幅値上げを通告してきたのです」


え? そんな話は聞いていない。まったくどうすればいいのか。とりあえず謝るしかない。


「うちのマルキが暴走して、本当に申し訳ありません。何とか止めようとしたのですが、どうしてもいうことを聞かなくて」


あとは値上げを撤回させると約束して取引を続けるようにお願いした。





 しかし私がいくら言ってもマルキは値上げをやめない。マルコを使いに連絡を取っていたが、さすがに私が直接フェリス君に言い訳しなければならない。マルコから家ではなくてシルヴェスタ商会の本部に行くように言われてそちらに向かう。


本部の開所のときに一度来たが、その頃とずいぶん違う。資料室や執務室に会議室まであって何か大商会に来た雰囲気があるのだ。


「カテリーナさんも大変かとは思います。ですが、さすがにこれは受け入れられませんよ」

フェリス君はあたりは柔らかだったが、きっぱりという。


「そうするとどうなります?」

「よそから仕入れるほかありません」

「そうですよね。本当に申し訳ありません。うちはマルキには何とかやめさせますから、またそうなったときは仕入れの再開をお願いします」

いちおうその約束だけ取り付けて、シルヴェスタ商会を後にする。


ただここで考える。この事実をマルキに正直に話せばまた激高して無茶な行動を起こす。預かり金があることを話したのを後悔したばかりだ。


番頭たちにだけ相談してマルキには黙っていることにした。上に理解がないと嘘や秘匿が多くなる。





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